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第240話 カーテンコール 愛と光と闇を込めて


 埼玉県さいたま市、調(つき)神社。
浦和駅から長閑(のどか)な路地をゆく私の横にはスサナル先生……ではなくて、いつも愉快なけーこが隣を歩いている。

 彼と私が再会しても、meetooとしての私たちは相変わらず必要に応じて動き回っている。今回電車で“月”までやって来たことも、行きと帰りで山手線の東西をぐるっと取り囲み、結界を強化する必要があったからということになる。

 そうして賑やかにお喋りをしながら境内に到着すると、「お待ちしていましたよ。」「待ってたよ。」「よく来たね。」と、たくさんの歓迎を受けた。

 主祭神のうちの一柱がスサノオノミコトだったことから、その日こそ、“敢えて”違う服で行ってやろうと目論んでいたのに、支度と共にあれよあれよと結局上下共に紺色の、いつもの“対スサノオスタイル”になってしまった。
 これまでの道のりで、淋しさに母を乞うていた幼いスサノオもその芯を取り戻し、見紛うほどに立派な青年へとなっていた。

 お賽銭を入れ本殿に手を合わせると、こちらの私には内容まではわからない、けれども何だか大事な頼まれごとをされていることが伝わってくる。

「……あなたならできます。よろしくお願いしますね。」

「わかりました。務めさせていただきます。」

 そうは言ってみたものの、一体何を頼まれているのか到底見当がつかなかった。

 実は二十日ばかり前にも、三浦半島のとある神社で同じことを頼まれていた。その、ただ長いこと手を合わせている時も同じく、「顕在意識のこっちの私には何を言われてるのか全くわからないな。」と思いながら、祠の前で“やり取りの終了”を待っていた。
 ところがその一番最後にはっきりと、「頼みましたよ。」とだけいきなり聞こえてきてドキッとしたのを覚えている。


「おおー、けーこぉ、ここでもまた私、こないだと一緒でなんか頼まれてる。
……けどまぁ、その時になって出てくるまで分からないよね。考えたってしょうがないか。」

 何をさせられるか分かってないのに大層な返事をしている自分に、心底おかしくなって笑ってしまう。こういう時に、『怖い』や『変化したくない』といった闇感情が自己統合されているとは、何と軽くて楽ちんなんだろう。 
 それでも境内の全てのお社で、「きっと楽しいよ。」「あなたなら大丈夫。」「よろしくお願いしますね。」と、そんなことばかりを次々言われ続けると、さすがに少しは“不安ごっこ”でもしようかと思わないわけでもなかった。


……第120話を書き上げた時。
既にその時、『ひとつなるもの すべてなるもの』が全240話になるのだと察しがついて、分かってしまっていた。毎日欠かさず掲載したとして、残りはあと四か月。
 けれども本当にそれでぴったり終わるのか、そしてその期間内にスサナル先生と再会できるのか。さらにまた、執筆が終わってしまった後に、次は一体何が始まるのか。
 何もかもの怖さを一つ一つ手放し、高次元の自分を絶対的に信頼して委ねていくしかなかった。

 そんな話を境内でしていると、けーこからこんなことを聞かれた。

「しあさってで最終回?三十一の晦日(みそか)じゃなくて、三十日で終わりなんだね。」

「うん。そうなんだよね。嬉しいことにククリもまだいてくれるし、そういうことになるみたい。」

 そうして二人で神社を出た直後、スマホに届いた通知を見て、けーこが隣で吹き出している。
 見せてもらうと唐突に何の脈絡もなく、彼女の友人から『スタート!』というたったひと言が送られてきていた。調神社に詣でたことで、私たち二人にも新しい流れが始まっていくらしい。

……

 その日の夜。
ハイヤーセルフと話していると、その神々からの頼まれごとというやつが段々と正体を顕してきた。天界全部が打った小芝居に、「どんな大変なことをさせられるのだろうか」と思い、まんまと引っかかっていたのだと知った。

 “それをすること”に、少なからず抵抗というものが無いわけではない。だけど最初はこの小説だって、「なんとなく書かなければいけない気がする」といった直感の声を、無視せず拾ったことでここまで続くことになった。
 あの時「気のせい」だと終わらせて書かない言い訳を探していたら、私は今も、自分が溺れていたことにすら気づくことはなかっただろう。


 その頼まれごととは驚いたことに、『子供の頃の私の夢を叶えていくということ』だった。
 ツインレイと再会し、彼が私に託した希望。それは紛れもない私自身の子供時代の夢で、だけど途中で諦めてから、あまりに長いこと仕舞い込んでとっくに忘れてしまった夢で、けれどもその私の夢を応援するのが彼自身の一番の夢で……。

 彼の意識が入ってくる。

「誰よりもあなたを幸せにしたい。あなたが夢を叶えるのを、僕が手助けしていきたいんだ。あなたが再びその夢に向かっていくことを、僕が応援したいんだ。
……あなたを笑顔にすることこそ、それこそ僕の夢なんだ。」

 それが伝わりたくさんたくさん泣いているのに、たくさんたくさん笑ってしまった。

……

 二年前の今日、三月三十日。

 急遽その日に思い立ったことで、年度の晦日となったその翌日、初めてけーこと二人揃って鹿島神宮にお詣りした。
 そこから私たちの『鹿島立ち』がスタートし、見える世界とも見えない世界ともやり合いながら、時に笑い、時に痛い思いをしながら成長して進んできた。
 だからこの小説も、その日の日付けを以って最終回を迎えることに“なっていた”。

 今度は大好きな彼を隣に、私にとっての新しい世界が始まっていく。終わりは始まり。そうして螺旋は紡がれていく。
 仕舞ったままになっていた、古い夢の道具を再び取り出してこようと思う。



written by ひみ

⭐︎⭐︎⭐︎

実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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おしまい。



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