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第77話 冬空に咲く稲穂



 神奈川県の、川崎駅にほど近い場所にある稲毛神社へとやってきた。
 タケミカヅチをご祭神に迎えているこの神社は、そこまで大きくないながらもたくさんの神々が祀られていて、スサノオやヤマトタケルにも会うことができる。

 神社に来ても、普段はまず“お願い事”というものをしない私だけど、今日ばかりは二つほど、タケミカヅチに話を聞いてもらうことにした。
 一つは、けーこの進退がうまく決まってほしいということ。そしてもう一つは、私の調停がすんなりと纏まってほしいということ。

 多くの神々が願いに耳を傾けてくれるのは、神社で決意表明をしたあとに、その人が実際に有言実行しようと全力を尽くすから。時に泥臭くもがいても、その時自分ができることにきちんと全力で向き合うから。
 そんな時に彼らは力になってくれるのであって、はなから他力本願な人には力になりたくないと思うのは、神も人もそこは一緒。頑張って乗り越えようとする姿があるから、彼らは応援してくれるのだ。


 お詣りを済ませると、カラカラに乾燥した喉を潤すために温かいお茶を買って駅までの道を引き返す。
 約束の時間にはまだ少し早かったので、書店に入ると文具コーナーで買い物をしてから再び外へと出た。

 しばらくすると、けーこがやってきた。私を見つけるなり遠くから手を振って近づいてきた彼女は、自然と私にハグをすると「ひみー、終わったよー。」と言って笑った。

 よかった。うまくいったんだ。

 そのあとは、意を決して行動したことで大きな懸念がなくなったけーこと一緒に、“ちょっとしたお祝い”と称して少し贅沢なランチをした。そしてまたこれは、私にとっての前祝い、予祝(よしゅく)でもあった。
 次は私。私が動く番だ。

 奮発してデザートまでつけた食事のお会計を済ませると、手の中に収まったおつりの五円玉が光っている。
 さっきのコンビニと、本屋と、レストラン。驚いたことに、今日だけで一気に三枚もの、ピカピカの五円玉が集まってきた。

 直感した。
ひときわ輝く黄金色の稲穂。この五円玉たちは、スサノオの妻である櫛稲田姫(クシナダヒメ)からの私への声援。スサナル先生へと気持ちを伝える決意をした私へのエールなのだと気がついた。


「ひみ、帰りにまた毛糸買いに寄っていい?」

 私のマフラー作りに合わせるように、編み目ゲージの大きい極太毛糸でマフラー作りを始めたけーこは、一本編むのに一時間もかからないペースでいろんな色で量産しては、友人達に配ってまわっている。

 一方の私はこの前から、アイスブルーのグラデーションカラーの細い毛糸で編んでいて、一日に何時間かかけてもせいぜい五センチくらいしか進まない。きっと完成はまだまだ先のことだろう。

「いいよー。じゃあ手芸屋さん行こー!」

 本当に、この人とは何もかも対照的だなぁと思いながら、何年か前の、あきらの面会中に病室で編んだマフラーで口元までを覆い直し、寒さの中をパーキングまで戻っていった。




written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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こないだからクシナダちゃんと言えばなんとなく、すすきの写真になってます。やっぱり調べたところ、同じイネ科でした。

イナダ姫と呼ばれることもある彼女、名前に櫛が入っているけど、櫛もとても霊力が強いもの。光に働けば結界や払いの力、闇に働けば怨念めいているのは、櫛に関連する髪がカミの音を宿しているからなのかもしれません。なんてね。ひみの直感。(あー、でも、神だけじゃなく鬼もカミとかカムって発音してたのは有名な話だね。)

現代だとなんだ?毛つながりでツケマとかか?
うちの車の隙間に、前にけーこがツケマ落っことしたらしいんだけど発見できてない。
え?うちの車の払いの力、最強かもしれない。
え?稲毛神社もパワーワードかもしれない。

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