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第92話 桜色の子守り歌


 その翌日。
けーこから、「鹿島神宮に行ったばかりだけど、またお出かけしたくない?」とのLINEを受け取った。

 今回は、こないだの時のように呼ばれたわけではないので早速あきらにも声をかけると、「課題が終わらないから楽しんできて」という返事が返ってきてしまった。ちょっと前に高校から、授業の代わりにパンパンに詰まったレターパックが届いていたのだ。そこで遠慮なく、二人で出かけることにした。

「とりあえずどうする?ノープランだね。」

 集合して、運転席と助手席に収まって、そこからようやく行き先を検討し始める。

「前回高速楽しかったよね。んー、なんもわからないからさ、とりあえず広くて色々あるって聞くし、東名で海老名とか行ってみない?」

 そうして勢いのままにしばらく車を走らせると、国内で一番大きいというサービスエリアに到着した。今は閑散としているけど、それでもお土産も食事も種類があって、目的地としてもおもしろかった。また季節柄、桜味のお菓子がたくさん売っていて、桜ブーム真っ只中のけーこと二人で買い漁った。
 とはいえ、ここは高速道路の下り車線。お出かけとしては確かにある程度満足できてしまったけど、どこかに降りて戻らない限り帰ろうにも帰れない。フードコートでトレーを返却しながら辺りを見回すと、レジャー用のパンフレットがいくつか並んでいるのが目に入った。

 富士山、箱根、今日行くのには遠すぎるけど伊豆方面など。何種類かのパンフレットを選んでから戻ってくると、早速けーこが「ここ通ってみたい。新しい道!こないだ開通したばっかりの高速だって。」と言って、新東名の伊勢原大山インターチェンジまでの一枚を指さした。

「じゃあ、目的地は大山だね。」

 関東一円どこに行っても割とそういうものだけど、雨乞いのお水取り、雨降り神社で有名な神奈川県の大山も、例に漏れずヤマトタケルの足跡が残っていることは知っていたので個人的にも興味があった。
 そして更に大山の山頂に坐す(おわす)のは、その名の通り山の神である大山祇(オオヤマヅミ)とその二人の娘、磐長姫(イワナガヒメ)とコノハナサクヤヒメの姉妹を合わせた三柱(みはしら)である。

 結局今日も呼ばれたのかな。

 そんな予感を抱えて再び車に乗り込むと、『大山阿夫利(あふり)神社』とナビアプリに入力し、「行きましょー。」とエンジンをかける。

……


「船の置き物か。いいなぁ。」

 助手席のけーこが私の話を聞きながら、そんな感想を呟いた。目の前には真っ白に、綺麗な富士のシルエットが浮かんでいる。カーブのたびに、何度も二人でその眺めに感嘆しながらも、気持ちはその少し手前で黒くコントラストを成している大山へと向かっていった。

 東名高速の本線から左へウィンカーを出すと、それまで周りを囲まれていたトラックやらトレーラーが一気にいなくなって、見事に軽自動車一台のみとなっていた。
 まだ黒味を帯びている新しいアスファルトのループの上で、前後左右、私たちだけしかいない異空間は、地上の混乱とは無縁の、蓮の華の上の世界にいるようだった。


 インターを降りてから大山への入り口方面に曲がると、そこから割とすぐのところに、なんだか気になる神社があった。けーこも思うところがあるらしく、お互いどちらからともなく「寄っていこうか」との話になった。

『子授け祈願』の赤い幟(のぼり)が立つ、ちんまりとした比比多(ひびた)神社。ところが中に入った途端、その外見の佇まいからは想像できないふわっと丸い、愛情深い女性のエネルギーに包まれた。満開の時期こそ過ぎてしまったけど、境内にはまだまだ桜の花が舞っていた。

……コノハナサクヤヒメだ……。

 その中でもここの神社のサクヤヒメには、一際強い、柔らかくてまん丸い慈愛と母性が感じられた。
 つられるように、いつしか私の顔まで綻んできてしまうのは、私も彼女の大きな愛にすっぽりとくるまれているからだろう。そしてその愛に触れた時、なぜだか自分という罪深さが少しだけ軽くなる感覚があって、不思議な葛藤から泣きたくなっていた。

 遊びの勢いでやってきたドライブからのご縁だというのに、帰り際、鳥居を抜ける時になって、けーこが私にこんなことを言ってびっくりさせた。

「私多分、またここに来ることになると思うんだ。」




written by ひみ

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実話を元にした小説になっています。
ツインレイに出会う前、出会いからサイレント期間、そして統合のその先へ。
ハイパーサイキックと化したひみの私小説(笑)、ぜひお楽しみください。

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私、この話めちゃくちゃびっくりしたんだけど、昔は日照りが続くと、農家の健脚の若いのが、端は東京湾の多摩川河口あたりからでも半日走って、大山まで雨乞いのお水をいただきに通ったんだって!
え?舗装された現代でも片道60キロくらいあるが!?
私の愛するタケルも出てきます笑
(だから本屋で買わされたとも…)
読んで面白かったので、アマゾン貼っておきますね↓

小倉美惠子著『オオカミの護符』

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