秘密の花園 改訂版 第一話
満月の夜。
少女は艶のあるチーク材で作られた机の引き出しの中から、一通の手紙を取り出した。黄ばんだ色をしたその手紙は月の明かりに照らされ、より一層不気味さを増している。
宛先に書かれている住所に見覚えはなく、少女は不安に思いながらも出かける準備をした。
「宵町月乃一丁目?」
しばらくすると黒い雲が月を覆い、雨が降り出してきた。
少女は傘も持たずに、宛先の住所を調べるため郵便局へと向かうことにした。
(急がないと。夢で見たことが真実なら、マコはそこにいるはず…)
少女の姉マコは、一年前に自宅の裏庭からつづく「花園」と呼ばれる色とりどりの花が植えられたその場所から、忽然と姿を消してしまった。当時それはニュースになり、大々的な捜索はされたのだが、いつしかそれも人の興味と同じように自然と話題にもされなくなった。
マコの両親と親族たちは、それからも捜索を続けたのだが川のほとりに置かれたマコの靴を発見した後、捜索を打ち切り、墓を建て、月日は流れていった。
それでも少女は姉が生きていると信じていた。姉は夜になると少女の夢の中に現れ、メッセージを残していくからだ。そのメッセージとは無意識に自分が姉のことを想い、考え出した言葉なのかもしれない。少女はそのくらい傷ついていた。姉を助けたいという思いだけで、毎夜を迎えた。
メッセージは少女の命と引き替えになる可能性もある。
雨は激しく降り続き、少女の鼓動は早くなる。苦しい。姉の想いに囚われた少女の心は助けを求めながら、走り続けた。
(急がないと…!マコが…マコが消えてしまう!)
「いらっしゃいませ」
少女はゴクリと音を立ててつばをのむ。
郵便局のドアを開け、少女の前に立っていたのは鳩の姿をした老人だった。