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地球の走り方 世界ラリー応援宣言 ラリーフランス2018 多くの人を激怒させた問題のシーンを解説

皆さんは「地球の走り方 世界ラリー応援宣言」という番組をご存じでしょうか?

2017年から2018年にかけてテレビ朝日で放送されたWRC(世界ラリー選手権)の応援番組。アンジャッシュ渡部建がメインMCを勤めるこの番組はラリーのハイライト番組ではなく、ラリーを知らない人をラリーファンにするためのバラエティー番組であり、ハイライトよりも芸人による現地リポートがメイン。その現地リポートもWRC無関係なものが多いことや、ラリーハイライトシーンですらバラエティー演出を多く用いるなど、ラリーファンの視聴者からは大不評の番組でした。

Yahoo!の番組欄における評価や感想もボロクソ、いかにこの番組が悲惨なものかを物語っています。

https://tv.yahoo.co.jp/review/364072/

今回は2018年5月に放送されたラリーフランス回にて番組MCの行った不適切な演出について紹介したいと思います。

まず、WRCとは?

WRC(世界ラリー選手権)はモータースポーツの一種であり、F1やル・マン24時間耐久と並ぶ人気のモータースポーツ。サーキットレースではなくSS(スペシャルステージ)と呼ばれる公道を閉鎖したコースを使用し、SSをラリーカーと呼ばれるレーシングカーがタイムアタック。そして15から20のSSの合計タイムが一番短いドライバーが勝者となります。このWRCは日本車が常に参戦しており、現在は2017年からトヨタが参戦しています。

詳しくはレッドブルのサイトにて記載されているのでこちらをどうぞ。

https://www.redbull.com/jp-ja/world-rally-championship-season-need-to-know

ラリーフランス

ラリーファンの間では「ツール・ド・コルス」という名称で呼ばれるフランス・コルシカ島を舞台に繰り広げられるターマック(舗装路)ラリー。うなりくねった峠道を走るラリーであり、100mの直線があればそこはコルシカではないと言われるほどカーブが多いことから10000ものコーナーを持つラリーとも言われています。

このラリーを制したのはMスポーツ・フォードのセバスチャン・オジェ、2位は激しい争いの末にトヨタのオット・タナック、3位にはヒュンダイのティエリー・ヌービルという結果に終わりました。また、シトロエンのエースドライバーのクリス・ミークはタナック、ヌービルと2位争いを繰り広げていたものの、コドライバー(ナビゲーターの役割を果たす同乗者)のミスで崖下に転落しリタイアとなりました。

https://youtu.be/sCo7vZulTMM

ミークのコドライバーのポール・ネーグルは左カーブを5速で曲がれと言うべき所を3速で右に曲がれと指示してしまい、それを信じたミークはコースオフ。このままリタイア。

2018年5月7日

ラリーが終了して1ヵ月後の5月7日の深夜、ラリーフランス回が放送されました。

番組は初っぱなから他局の番組を無断パロディしたコーナーから始まりました。レイザーラモンRGが元世界チャンピオンでトヨタのチームボスを勤めるトミ・マキネンに扮して1997年に起こった牛と激突し崖下にクラッシュしたシーンを紹介。

そして後半、ようやくラリーハイライトがスタート。

ラリーはセバスチャン・オジェがトップで独走。2番手争いに焦点が向きます。トヨタのタナックとエサペッカ・ラッピは3位と僅差の4、5位。表彰台は目の前。

そんな中で2位を走るクリス・ミーク。彼は2017年シーズン優勝を2回達成。

しかし、ド派手にクラッシュ(事故)するやらかすドライバー。

すると番組MCのアンジャッシュ渡部はミークに対して「やらかせ!やらかせ!」とコールを行います。

そして渡部の願いが通じたかのように、ミークはコースオフ。

すると、スタジオの出演者はやったー!と爆笑しながら大喜び。

渡部はミークに対して「ありがとう」と発言しました。

しかし、やからしたのはミークではなくコドライバーのネーグル。これでミークはリタイア。

その後タナックは2位フィニッシュを達成しました。

放送後の反応

当回が終了して約10日後の5月16日、Jスポーツのラリー番組MCである栗田佳織氏が当番組のこのシーンを視聴。渡部ら出演者のミークへの演出に対して、悲しみのツイートを投稿しました。

https://twitter.com/KURITA_KAORI/status/996660885262188545

このツイートを見たラリーファンは番組に対して大激怒。多くの批判ツイートが投稿されました。

トヨタが参戦する遥か前からWRC番組のMCを勤めていた栗田氏は多くのモータースポーツファンから支持されている人物。この一件でF1などの他のジャンルのモタスポファンにまで知れ広まることとなり、番組の評判は一気に地の底へと落ちていきました。

解説

言うまでもなく、このような演出をして炎上しないわけないでしょう。この時点で放送開始から1年と5か月が経過しており、これまでの放送の中でも激しいクラッシュが何度も紹介されました。しかし、番組MCを勤めた渡部はこの対応。ラリーを舐めてるとしか思えません。

私は、やらかせコールからクラッシュまでの流れからして、台本によるものだと推測します。でも、台本であったとしてもあまりにも酷すぎるシーンには変わりありません。スポンサーであり日本のチームであるトヨタをヨイショしたいのはわかりますが、敵のミスを喜ぶのはスポーツ応援番組からしてみたら最低な行為。トヨタも喜ぶはずがない。このシーンにゴーサインを出して放映したスタッフが一番やらかしている言っても過言ではないでしょう。

ラリーにとって、クラッシュは華のようなもの。ですが、ラリードライバーは故意でクラッシュしているわけではありません。生活のために力を尽くしています。クラッシュはトップを目指し全力を尽くした末に起こったミスなのです。ミークだって必死に後続から逃げていた矢先のミスであり、ふざけているのではありません。ラリードライバーはお笑い芸人ではないのです。

また、番組においてミークは「爆走ジェントルマン」という勝手な異名をつけられました。しかし、2017年シーズンはクラッシュを連発したため、「やらかしジェントルマン」「やらかし男」という不名誉な呼び名をナレーションに呼ばれ、出演者から笑われていました。ほんとにミークはやらかし男なのでしょうか?

私の見解から言わせてもらうと、ミークはやらかし男ではありません。

派手なクラッシュが多いのは確か。それはミークの師である今は亡きコリン・マクレーも同じでした。1995年チャンピオンのマクレーは派手なクラッシュから「マックラッシュ」「壊し屋」の異名を持っていました。しかし毎年優勝争いに加わる速いドライバーでした。マシンはよく壊すけど速い。ミークはマクレーの意思を継ぐかのような似たドライバーなのです。世界中のラリーファンの間ではマクレーはクラッシュは多いという共通認識はあるものの、やらかし男なんて風潮は全くありません。

ミークはやらかし男ではない理由のもうひとつはラリーカー・シトロエンC3WRCの性能の悪さ。C3WRCは2017年にシトロエンが投入した新型ラリーカー。しかし、性能は劣悪であり、ミークは17年の開幕戦からクラッシュを連発。チームメイトも優勝はおろか、表彰台争いすらできない程のマシンでした。

シトロエンC3の性能の悪さは、2019年にシトロエンに加入したオジェとラッピの成績からして証明できます。6年連続王者のオジェは3勝をあげたものの、チャンピオンの防衛に失敗。ラッピは17年から18年に所属していたトヨタではリタイアはわずかに5であったのに対して、シトロエンでは1シーズンのみで、7回もリタイアを喫しているのです。17-18年シーズンで10回以上リタイアしたミークは19年にトヨタに移籍、シーズンでリタイアは4回と減少しています。また19年オフにオジェは19年からシトロエンと2年契約であったのに対し、トヨタのオファーを引き受けシトロエンを退団。移籍について「チャンピオン奪回のためには勝てるマシンを選ぶ」という理由をオジェは語っており、いかに劣悪なマシンかがわかるかと思います。

と、熱弁したところでミークはやらかし男という風潮は消えることはないでしょう。ラリーフランスから2戦後のポルトガルでミークは大クラッシュ、これによりシトロエンから契約解除となってしまったのです。その後はトヨタに加入しましたが、やらかし男が加入するという声はたびたび聞こえてきました。実際、19年のアルゼンチンでは最終ステージでパンクし表彰台陥落、チリでは横転、ポルトガルでは最終ステージで切り株にヒットしリタイアと、やらかし男なのは間違いじゃないとかと信じたくなるような結果を残してしまったからです。また、C3WRCの開発にはクリス・ミークが大きく関わっており、C3WRCのマシン性能が劣悪なのはミークのせいでもあるのではという声も多少は見受けられています。

さて、番組のことへと戻りましょう。

やらかせコール、クラッシュを大喜び、そしてありがとう。過去にこんな最低な事を行った番組が存在したでしょうか?世界ラリー応援宣言を名乗っておいてこんなことをして許されるのでしょうか?これがテレビ朝日流の応援なのでしょうか?

過去にはクラッシュでドライバーや観客が死亡する事故は数多く起こっています。2017年の開幕戦でアマチュアカメラマンがラリーカーにはねられ死亡。2005年ラリーGBでは、ラリードライバーのマルコ・マルティンが木に激突するクラッシュでコドライバーのマイケル・パークが死去、この影響でマルティンは現役を引退してしまいました。また、クレイグ・ブリーンも同様に自らのクラッシュでコドライバーを失いながらもコドライバーの遺族の応援で現役を続けています。このように、クラッシュは人の命をも奪う危険なハプニングなのです。ですのでラリー以外のモータースポーツファンからしてみても、番組の行った行為は許されるべきことではありません。むしろ、番組スタッフはモータースポーツに疎い人達が作っている事が露見していると言っても過言ではないでしょう。この番組は初心者の向けのバラエティー番組であるため、ラリーハイライトの演出に古参のラリーファンがケチをつけるべきではないという声もありましたが、この放送でそれらの声が消し飛ぶ事となりました。

しかし、この一件もニュースにすらなることはありませんでした。ラリードイツの時同様に誰も番組を見ていなかったのでしょう。そもそも、番組終了してすぐではなく9日後に栗田氏が反応しています。栗田氏のツイートを見て番組を見たというコメントが多いため、ラリーファンが番組を敬遠していたのは見て明らかです。

その後

翌回のラリーポルトガルハイライトにて、番組はミークのシトロエン解雇を決定付けた大クラッシュを放映。渡部は大喜びはしませんでした。ハイライト終了後に番組はミークの解雇を報じ、渡部は復活してほしいとコメントを残しました。番組は後半戦から現地リポートで芸人が大はしゃぎするものからラリーや車、関係者をリポートするものへと変化。ラリーハイライトもバラエティー演出が控えられ、真面目な番組へと変化を遂げていきました。しかし、時既に遅し。2018年12月をもって終了となりました。

2020年現在、テレビ朝日はラリージャパン応援宣言というミニ番組を放送しています。しかし、ラリーファンからしてみたら、テレ朝のラリー放送にはこの一件のせいで不信感が今もなお募っているのは言うまでもありません。



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