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ハンター・バイデン 社説で共和党に反撃するも返り討ちに?

バイデン大統領の息子ハンター・バイデンが、米下院の監視委員会から召喚されました。バイデン家の“金回り”をめぐる疑惑の調査に対し宣誓証言せよとのお達しです。

今までは代理人を介して声明で疑惑を否定するにとどまっていましたが、議会で直接追求を受けるということは初めてなので、調査が新たな局面を迎えると注目されています。

ハンターは主に2010年代、外国企業を相手にファンドマネジメント事業を行ってそれなりに儲けていたのですが、その利益が当時副大統領だった父親のジョー・バイデン氏の立場を利用して得られたものだったという疑惑があります。それによってバイデン家の私腹を肥やしていたのなら言語道断、しかもこれをバイデン氏本人が把握していたとなれば、これはもう大統領罷免案件…ということで、下院共和党はバイデン家のお金の動きや、誰がどこまで知っていたかなど、証拠をつかむべく調査しているわけです。

確たる証拠はまだ何も出ておらず、あくまで調査段階です。ただ、ハンターにアルコールとコカインの依存症歴があり、海軍を除籍させられた、兄の未亡人と不倫した、ワンナイトスタンドでできてしまった子供がいた…など本筋の疑惑とは直接関係ないスキャンダルが次から次へと出てくることが話をややこしくしていて、共和党の一部“過激派”にはハンターのわいせつ写真を議会で公表したりヌード写真を捏造したりといった輩も出てきています。

そのハンターですが、先週、USAトゥデイ紙の社説に寄稿し、共和党による“バイデン叩き”を自分の言葉で非難したばかりでした。「バイデン家へのネガキャンに自身の依存症歴を引き合いに出すのは、依存症を克服しようと努力する人たちのへの冒涜」とアピールして共和党の過剰反応を牽制したのですが、いまいち不発に終わったという出来事があったので、今回はこれについて書きたいと思います。

社説でハンターの主張したポイントは以下です。

  • 自分は大統領の息子という立場。恵まれた環境の中にいたのは確かだが、アルコールやコカインに溺れた過ちは全て自分の責任だと思っている

  • FOXニュースやニューヨーク・ポストなどの保守系右派メディアやトランプ派の政治家たちは、自分の一挙手一投足を依存症と結びつけて取り上げ、プライバシーを侵害し、政治的ネガティブキャンペーンに利用している

  • 依存症当事者は全米に2000万人いるとされるが、依存症を引き合いに出した自分への攻撃は、これらの人たちが回復に向けて頑張ろうとする意欲を阻害する

  • 自分は依存症を克服したことを誇りに思っている。他の依存症当事者も回復を目指すなら周囲はそれを応援する環境であるべき

これに対するメディアの食いつきはいまひとつ。CNNやワシントン・ポストなどリベラル系の主要メディアは記事掲載当日だけ申し訳程度に取り上げたものの、翌日にはほぼ無かったことに。FOXニュースに代表される保守系右派メディアは面白おかしく挙げ足取りを展開しつつ、「依存症当事者代表を気取ってるけど、大統領の息子という環境下で依存症克服に取り組める人がどれだけいると思うのよ」と一蹴しました。

他のコメントもまあ辛口です。

自分に責任があるって言うなら「父は僕の事業とは一切関わっていない」ってはっきり言えばいいのにこの文章にはそれがない。恵まれた家庭のおぼっちゃまの、政治的しがらみにまみれた言い訳って感じ。

RISING The Hill TV

依存症当事者には、医師にフェンタニル(痛み止め)を処方されて自分で選択の余地なく依存症になってしまう人も多い。それと自分を一緒くたにするなんて、恥じるべき。自分の状況を深刻に受け止めていないのは明白。

RISING The Hill TV

非常に防戦的。被害者ヅラも甚だしい

FOXニュース

下院議長が決まって、下院の調査が本格化するタイミングを見越しての寄稿だったと思う。先に予防線を張ったのね

FOXニュース

と、裏目に出てしまった形の今回の社説。

私もハンターについてはこのブログでたびたび取り上げさせて頂いていますが、社説を読んだ個人的な感想としても、保守系メディアの指摘はまあまあ的を得ているかなと思います。「要するに何が言いたいの?」とイマイチ要領を得ない社説でした。

そもそも寄稿した目的は何なのか?「自分の行動はあくまで自分に責任がある。依存症からの回復とはそういうこと」と主張している潔さを見せるのは良いのですが、その割には、「どう責任を取るのか」ということに言及していません。自分から父親と距離を置きバイデン大統領の立場を守るのが一番分かりやすい方法ですが、実際それが外目に見える状況ではなく、むしろ普段からバイデン家の結束の強さをアピールしてきだけに、バイデンファミリーの内輪でどんな話し合いがされているか(されていないのか)は極めて不透明なままです。

バイデン叩きをやめろ、と言うのは分かりますが、叩くなと言うには不品行による疑惑が満載すぎて、それを叩くことの何が決定的に一線を越えているのか、残念ながらやはり説得力に欠けます。しかも53歳のいい大人で、父親が公人というなら尚更です。

特に気になったのがここ。(*日本語訳は筆者によるものです)

僕の苦しみと過ちは、父の名と僕自身の評判を汚すことに利用され続けてきた。その象徴が、議会による中身のないの調査であり、最近では、(依存症歴のある)僕が5年前に弾丸の入っていない銃を11日間所持したことに対する刑事訴追ーーこんな事案が事件化したのはデラウェア州史上初めてらしい

by ハンター・バイデン(USA Today 2023年11月2日掲載)

この太字部分の一言は余計だったと思います。

ハンターは今年9月、依存症歴を開示せずに銃を所持した件で起訴されました。銃購入時のフォーム記入で、「依存症歴はありますか」の質問に「NO」と答えたため虚偽の罪に問われたものです。細かい事情があるでしょうから法廷で無罪を主張する分にはいいのですが、結果的に依存症歴を隠したことは事実。ですがこの書き方は言ってみれば、滅多に取り締まりに来ない空き地でたまたま自分だけが駐禁を取られた人が「みんなやってることだけどねー」と捨て台詞を吐くのと同じで、非常に心証が悪いです。

自分に責任があると言いながら、批判を受け止める姿勢は少なくともこの社説では見られず、論点がぶれているなあという印象でした。

今回どういう経緯でハンターがUSAトゥデイに寄稿したかはわかりませんが、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナルあたりと比べると、USAトゥデイは格式的にワンランク下の感があります。同3紙の紙面に掲載するにはちょっと難ありと見なされたのではないでしょうか。(あくまで個人的な憶測です)

まあ、幸か不幸かこの社説は大して尾を引くような話題にもならなかったので、バイデン側に大きなダメージを与えることもなく、右派メディアのちょうど良いオモチャとして可愛がられる程度で、良かったかもしれません。

***

今までハンターの話題をブログで書いてきて、褒めるような流れになることはまずないので誤解されそうですが、実は私はハンターのことを応援している一人で、頑張って欲しいと心の中で思っています。

ハンターの自伝を読んで、悪い人じゃないけど全体的にお調子者で軽はずみ、という印象を受けました。スキャンダルの数々は、自覚は足りないけどもちろん悪気もなく、その場その場を感情優先で処理していった結果が今の“疑惑の宝庫”ハンター・バイデンという結果のように思えます。ただ、それによって元嫁は現に深く傷ついたりしているわけですし、コカインだって普通に違法ですし、けっこう笑えない偽装工作も自伝で語られていて、弁護の余地はあまりありません。。。

議会下院が調査するバイデンファミリーをめぐる疑惑の真相はさておき、ハンター・バイデンのいろんな疑惑をひっくるめて、3~4年くらい刑務所に行っても仕方ないんじゃないかなぁというのが、私の個人的な見解です。

今回、議会下院監視委員会は、ハンターのほか、バイデン氏の弟でハンターのおじ、ジェームズ(ジム)・バイデン氏と、家族ぐるみで付き合いのある仕事仲間のロブ・ウォーカー氏を召喚し、問い詰める方針を発表しました。日取りは、ウォーカー氏が11月29日、翌週にジム氏、そして12月13日が、ハンターです。

ここでハンターが何をどんなふうに語るのか興味深いですが、共和党には個人的に、黙っていてもボロを出すときは出すから何卒お手柔らかに、とお願いしたいです。

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