トランプ氏有罪 次に目指すは米大統領初の弾劾か ちょっとあり得るシナリオ

2024年5月30日、ドナルド・トランプ前大統領が、ニューヨーク州のいわゆる“口止め料裁判”で有罪になりました。罪状は事業記録改ざん、34の重罪すべてで有罪評決とのことです(分割払い1回毎に罪状をカウントしての34なので、1つ有罪なら全部有罪で当然なのですが)。アメリカの大統領経験者が刑事事件に問われるだけでも史上初と言われたのに、今や次期大統領選で事実上党の指名を勝ち取っている候補者が正式に犯罪者の烙印を押されるという前代未聞づくしの出来事だけあって、全米はこのニュース一色です。

有罪評決が出た今、最も関心が寄せられているのが大統領選への影響ですが、プラスに影響することはあってもマイナスにはほぼならないというのが大方の見方のようです。そもそも、2015年、共和党の大統領選候補として圧倒的な強さを見せつけた頃から今に至るまで、トランプに節度や気品や誠実さを求める支持者などいませんでした。むしろ、そんなものを身に着けたらそれはもはやトランプじゃない、という感じでしょう。一言でいうと、無敵です。

少し前の世論調査では、「もし有罪が確定したらトランプには投票しない」という支持者がそれなりにいましたが、何をもって有罪を「確定」とするのかは怪しいところです。今回の評決にトランプが控訴するのは確実で、その間はまだ「確定」とは受け取られないでしょうし、例え最高裁で有罪判決が出てもトランプは「裁判所が間違っている」と言うでしょう。トランプがそう言う以上は支持者も戦いは終わっていないと見るので、そうなると結局、トランプはほぼ無傷で現在の支持層を維持できそうです。バイデン陣営もそれは重々承知で、トランプと同じく、本当の決着は大統領選の国民投票だ、というメッセージを出しています。

そこで、それでも今後トランプが転落し得るシナリオをちょっと考えてみました。

Xデー①:共和党全国大会

量刑は7月11日に言い渡される予定ですが、これも形式的なものになるでしょう。刑務所送りにはまずならないと言われている上、仮になったとしても控訴している間は執行されません。

4日後の7月15日には、正式に党の指名を受ける共和党全国大会がありますが、むしろこちらの方が鍵を握るかもしれません。

大会ではトランプファミリー総出のお祭り騒ぎが行われると予想され、それこそが支持者の求めるもの。ただ、すでにセレブだったトランプ3兄弟を中心にトランプを持ち上げまくった2016年と違い、家族には距離感が生まれています。トランプ本人を凌ぐ人気だった長女イバンカは2021年1月の議会襲撃事件以来父親と距離を置いているようですし、妻のメラニアも滅多に出てこなくなりました。今年18歳になった息子のバロンくんは、トランプのフロリダ州からの代議員(党大会で各州を代表して票を投じる人)に選出されたものの、この役割を断ったといいます。

大会では長男のトランプジュニア、次男のエリックあたりが自分の家族も巻き込み結束を演出するでしょうが、トランプの売りでもある壮大な演出は望めず、確実にインパクトは欠けます。そんな党大会が支持者の目に「なんか前より面白くないじゃん」と映れば、もしかすると一部の票が失われるかもしれません。

とは言え、トランプ人気はどんな苦境を経てもなぜか盛り返すのが常。そこでもう一つのシナリオです。

Xデー②:2027年1月

議会襲撃事件以降、共和党の重鎮らの間で「トランプ離れ」が加速。リズ・チェイニーは政治家生命を賭けてトランプの責任追及に動きました。2022年の中間選挙ではトランプ派の候補者が惨敗し、保守系メディアもフロリダ知事選で大勝したデサンティスを持ち上げ、「トランプ時代の終焉か」というムードを演出しました。が、いざ2023年に大統領選ムードが本格化すると、他の候補は全くもって歯が立たず。あのトランプオワコン説は何だったんだという破竹の勢いで快進撃を続け、相次ぐ起訴で「被告」になろうとも、それを逆手に取って注目度の糧にしています。無敵です。。。

仮に、トランプがこれまでのように強力な支持層を武器に何だかんだのしあがり、バイデンを押しのけ当選してしまった場合。刑事裁判の被告が大統領に就任できるのか、というマイナー訴訟は発生するでしょうが、おそらく大統領就任式までに決着はつきません。決着がつかないということは「大統領当選者を大統領に就任させない相当の理由がない」ということなので、2025年1月20日、トランプ大統領再び誕生です。

今抱えている刑事裁判の残り3つは、「現職の大統領は訴追されない」という大統領特権を理由に、うやむやにされるかもしれません。これも当然、大統領特権が大統領就任以前の事柄に遡って適用されるのかをめぐって法廷闘争になります。そして最高裁まで争われ、その間トランプの弁護士が時間稼ぎに出る傍らトランプは大統領令を連発し、下手をするとその間に4年の任期を全うしてしまうかもしれません。

ただ、これまでトランプが強みを見せてきたのはあくまで本人の人気です。2022年の中間選挙でトランプ派の議員や知事候補はボロ負けしていますし、かつてトランプに取り入り重用された人たちは、マイケル・コーエンはもちろん、ケビン・マッカーシー、ジョン・ボルトン、クリス・クリスティー、マイケル・フリンなどなど、ロクな終わり方をしていません。トランプがぶっちぎりで強いだけで、ある意味孤高の天才です。

トランプがいるからと言って共和党が強いわけではなく、むしろ下手に身内なだけに尻拭いに走り回されている印象です。そうなると、共和党はトランプの好き勝手のツケを全部回されることになり、求心力を失い、2026年の中間選挙では議会の上下両院ともに「野党」民主党多数というねじれ状況になるかもしれません。そうなればもう、2027年1月のねじれ議会発足その日からでも弾劾訴追手続きの始まりです。訴追条項は、前回の任期中のトランプの言動を見ても分かるとおり、掘ればいくらでもあるでしょう。

アメリカの大統領で、弾劾訴追された大統領は3人。そのうち唯一2度訴追され歴史を作ったのが、我らがドナルド・トランプです。ただ一度目も二度目も、弾劾裁判の最後の砦である上院の多数派が身内の共和党だったため、最終的な弾劾を免れています。

しかしこれが上下両院民主党多数となると話は別。上院で民主党議員が3分の2に達していればほぼエスカレーター式に弾劾確定、それに満たなくても共和党から造反者が出る可能性も多分にあり。そうなれば、トランプは今度はアメリカで初めて弾劾された大統領として、また一つ歴史に名を刻むことになります。

せっかく今日まで「史上初めて〇〇した大統領」の名を欲しいままにしてきたわけで、最後にもう一つ、弾劾という過去最大級の爆弾でフィナーレを迎えるというのも、彼としても本望ではないでしょうか。

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