見出し画像

ハンター・バイデンの召喚状 弁護士の書簡に見る熾烈で執拗なバトル

前回のブログの続きで、今回はトランプの選挙不正関連の裁判について詳しく書こうと思っていましたが、先週ハンター・バイデンが再び議会にサプライズ登場してメディアを騒然とさせる出来事があまりにインパクトが強く、ハンター応援団としてはそちらにアテンションを全て持っていかれてしまいました。

というわけで今回は、ハンター・バイデンのサプライズ、そしてそこから勃発した下院共和党とハンターの弁護士との書簡バトルについて書くことにします。(いつもに増してマニアックな内容になってしまいましたがご了承ください)

ゲリラライブさながらの“パフォーマンス” 

今月10日午前10時過ぎ、議会下院監視委員会で審議が行われる中、突如としてハンター・バイデンが弁護士や取材陣らに囲まれて登場。会議は「彼を今すぐ牢屋に入れろ(共和党議員)」「せっかくこの場にいるんだから、ぜひ今ここで話を聞こうじゃないか(民主党議員)」「いやいや、彼に証言の場を選ぶ権利はない(共和党・ジェームズ・コマー監視委員長)」と荒々しい発言が飛び交う展開に。

議員たちの混乱ぶりを険しい顔つきで眺めたハンターでしたが、約10分後、共和党の陰謀論者、マージョリー・テイラー・グリーン議員が発言を始めると席を立ち、無言のまま立ち去りました。

グリーン議員は以前の委員会の公聴会でハンターの裸の写真を大きなパネルに掲げるというハラスメント上等のプレゼンを行い、ハンター側から正式に苦情申し立てを受けている経緯があり、ハンターとはバチバチの関係です。

結局、議会に現れたもののハンターは委員会の話し合いに飛び入り参加することなく、終始無言を貫いて終わりました。ちなみにこの日ハンターは午後の便で自宅のあるカリフォルニアに戻ったようです。

「何しに来たの?」という感じですが、事の背景を説明すると、下院監視委員会ではこの日もともと、ハンター・バイデンを議会侮辱罪に問うための決議案を審議する予定でした。

経緯としては、委員会がハンターを議会に召喚していた先月13日、ハンターは議会議事堂前には現れたものの、その場でいきなり会見を始め「公開形式でなければ証言はしない」と主張。議事堂内に足を踏み入れることなく、立ち去りました。(以前のブログも参照ください)これに憤慨した委員会は「ハンターを議会侮辱罪に問う」と表明。その決議案審議の日が今月10日で、そこに事前通告なしにハンター本人が突然現れたわけです。

このゲリラライブさながらの登場、ハンター側としては「召喚に応じないと言うけど、現に俺はここに来てるぞ」と、共和党側の言う「召喚に応じないから侮辱罪に問う」というロジックを、メディア大好物の分かりやすいパフォーマンスを駆使しつつ論破した形です。ハンターの顧問弁護士アビー・ロウェル氏はこれまで一貫してアグレッシブに共和党を挑発しているので、今回もその路線を踏襲したようです。

結局この日、委員会はハンターに対する議会侮辱罪の決議案を予定どおり可決。今月18日あたりには下院全体での採決にこぎつける運びとなり、そこで下院を通過すれば米司法省にハンター訴追を正式に促すことになります。

そんなサプライズ登場から2日後、ハンター側に意外な動きがありました。公開証言にしか応じないと頑なに主張していた態度を一転、「非公開形式でも証言に応じる」との意向を委員会に伝えたのです。

180度態度を変えてきたハンターに、保守系メディアからは「本当に応じるのか怪しい」と懐疑的な声も飛ぶ事態に。

一見するとハンター側の主張が二転三転しているように見えますが、ハンター側の言い分はこうです。

「そもそも昨年11月に発行された召喚状が見切り発車」by アビー・ロウェル

召喚の理由とされる「バイデン大統領の弾劾調査」は、下院で正式に決議案が可決したのが昨年12月13日。弾劾調査のための召喚状を発行するならそれより後であるべきなので、昨年11月の時点で発行した召喚状は無効、というのがハンター側の主張です。

実はハンターの代理人のアビー・ロウェル弁護士は、かねてから弾劾調査だの召喚状の発行だのは委員会が勝手にやっていることというのは、「召喚状が無効だ」とはっきり言及していなくても、なんとなく匂わせてはいました。召喚状に対する返答としてロウェル氏が昨年11月に委員会に当てた書簡にはこのような言い回しがありました。

(バイデン家に対する)調査の動機や目的に正当性がないにもかかわらず、こちらは幾度となく委員会と協議の場を持ってはどうかと提案し、最大限の理解を示し、できる限りの情報を渡そうと協力を試みたのに、ここまで全部無視してきたのはあなたたちだろう。
(中略)あなたたちはどうせ今回も、周囲の助言を全く聞かないで突き進むのだろうから、ハンター・バイデンの召喚状に対するこちらの回答を伝える

アビー・ロウェル氏が下院監視委員会に宛てた書簡(2023年11月28日付・筆者訳)

要約すると、「あんんたたちの茶番にこっちがこれだけ譲歩してやってるのに、何が召喚状だふざけるな」という感じでしょうか。公開証言なら応じる、という書簡の結びのあたりも心なしか、「従う義務も義理もないけど、公開証言だというなら付き合ってやってもいい」というスタンスが垣間見えました。

アビー・ロウェル弁護士(wikipediaより)

そして今回、委員会に送付された1月12日付の書簡。最終的には「非公開でも応じる」と伝えてはいるのですが、それに至るまで前の召喚状が無効である根拠を8ページに渡って長々と説明しています。

ざっくりまとめると、以下です。

  1. 2019年のトランプ前大統領の一度目の弾劾訴追で、当時民主党主導の下院も弾劾調査を“宣言”したのが9月、正式承認が10月と時間が空いたが、当時共和党下院は即刻「承認以前の召喚状および証言は無効だ」と主張した。今回も立場が逆になっただけで同じこと

  2. 2019年当時、正式承認前の召喚状の有効性について、司法省が54ページの報告書で「無効」と結論づけている

  3. 司法省の報告書には、「承認以前の召喚状に応じなくても議会侮辱罪に問われるべきではない」とはっきり書いてある

  4. 「召喚目的はバイデン氏弾劾訴追とは無関係」と言い逃れをするつもりなら、それは通用しない。なぜなら、召喚状と一緒にその参考として、弾劾訴追の資料が送られてきているから

  5. しかもバイデン氏弾劾訴追の資料には、「ハンター・バイデン」の名前が150回出てくる

  6. しかもハンターの議会侮辱罪の決議案では、「弾劾」という言葉が19ページ内に60回出てくる。召喚の目的がバイデン氏の弾劾調査であることは明白

  7. あなたたちがなぜ公開形式の証言を嫌がるのか分からないけど、バイデン氏の弾劾調査が正式承認された今なら新しく発行すれば召喚状は有効なので、新しく発行するなら応じます

4から6あたり、相手がまだ言及していないことまで突いて予防線を張る周到さと、重箱の隅をつつくような細かさが何とも恐ろしいですが、それはともかく、最終的には非公開だろうと公開だろうと証言には行く、と前向きな意向を伝えた形です。

委員会側の苦しい言い分

委員会はこれを受け、今後数週間以内に正式な議会召喚の日取りを決めて通知すると、ハンター側に書簡を送りました。ちなみに書簡はもう一つバイデン家の疑惑を調査している下院司法委員会との連名で、ジェームズ・コマー監視委員長と、ジム・ジョーダン司法委員長の署名が綴られています。

ジェームズ・コマー監視委員長(左)/ジム・ジョーダン司法委員長(右)

ところが、単に「ああ良かった来てくれますか」というものではなく、「新しい召喚状は出すが、そちらの主張を認めたわけではない」と、11月に出した召喚状が無効だというロウェル氏の主張は認めない考えを強調。召喚状を出すのは「あくまで迅速に事を進めるため」ということです。

ロウェル氏の8ページには及ばないものの、委員会も5ページを割いて全力でロウェル氏の主張に反論しています。

ポイントは以下です。

  1. 昨年12月、召喚に応じなければ議会侮辱罪に問うと事前通告したにも関わらず、ハンターは決められた時間と場所に現れず自分勝手な記者会見をした

  2. 委員会での議会侮辱罪の決議案採決当日にも議会で“政治的パフォーマンス”を演じた。どうやらドキュメンタリー映画を作っていて、そのためだったらしい

  3. 11月に出された召喚状が無効だという主張をロウェル氏は1月12日に至るまでしてこなかった。そして、その主張そのものも誤り

  4. ロウェル氏は2020年の司法省の報告書を主張の根拠に上げているが、立法府である議会はその制約を受けない

  5. 過去に連邦裁判所で「弾劾調査を正式承認するまで調査は始まらない」との主張を覆した例がある

  6. 1973年のニクソン大統領弾劾調査も正式承認の前に始まっていた。1970〜80年代の連邦判事の弾劾も正式承認前から調査が始まった例がある

  7. 12月に下院で可決されたバイデン氏弾劾調査決議案には、下院の監視委員会、歳入委員会、司法委員会の各委員長による召喚状は可決前に出されたものでも有効、とある

  8. 調査に「Legislative purpose(=法管理上の目的)」があると認められれば、議会には広範な権力が認められている。ロウェル氏が主張の根拠とした司法省の報告書は、民主党主導の委員会にLegislative purposeがあると認められなかったケースなので今回と比較できない

2のドキュメンタリー映画作りがとても気になるところですが、これはさておき、委員会側の言い分は素人目にもツッコミどころがけっこうあります。

まず、弾劾調査正式承認より前に発行された「召喚状が無効だ」というのがロウェル氏の主張で、これに反論しなければならないのに、5、6あたりでしれっと「召喚状」ではなく「弾劾調査」にすり替わっています。おそらく、「承認前に発行されても召喚状は有効」とはっきり自分たちの主張を裏付ける資料が見つからなかったのでしょうが、論破されるのが目に見えている気がします。

7は、「召喚状」の有効性を正当化するものではありますが、実はこれはロウェル氏の書簡ですでに指摘されていたポイント。ロウェル氏曰く、「11月の召喚状が無効であることを意識した上で、1月10日の決議案でこれを後づけで正当化したのだろうが、2020年の司法省の報告書はまさにこの問題点を指摘したもの」とのこと(おそらく図星だと思います)。ただ委員会は「以前の司法省の報告書の制約自体を受けない」と報告書の有効性自体に異議を唱えているので、ここは議論の余地があるかもしれません。

そして、8の「Legislative purpose」の有無について。Legislative purposeとは、例えば過去にトランプ氏が納税記録の開示を頑なに拒んでいた頃、当時は民主党主導だった監視委員会がトランプの会社の会計事務所に召喚状を出し、それにトランプ氏が「legislative purposeのない、政治的な悪意が根底にあるもの」だと主張して召喚状の無効化を求めたそうです。なので、純粋に本来の法的な目的を果たすための召喚状であれば、legislative purposeがあると認められるようですが、これがハンターへの召喚状に当てはまるかどうかというと、かなり疑問です。すでにバイデン家をめぐる疑惑自体が共和党と民主党、保守とリベラルの政治的分断の権化のようなものなので、ハンターへの召喚状はむしろ、これほどlegislative purposeのないものも珍しいレベルなのではないでしょうか…。

議会侮辱罪追求のゆくえは?

ハンター側が新しい召喚状が届き次第証言に応じることになって、それでは下院は議会侮辱罪決議案をどうするのか、というところ。ロウェル氏に宛てた書簡の中で委員会側は「以前の召喚状は有効」で「ハンターの行動は侮辱的」と強調してはいるのですが、Xで表明した意向はだいぶ弱腰です。

「今のところ、ハンター・バイデンが特定の日時に非公開の証言に出向くと確定するまでは、下院は彼の議会侮辱罪を追求する方針だ」とのメッセージ。裏を返せば証言の日時が確定したら取り下げるということなので、実質この罪を問う追求は終了したも同然です。

仮に追求を続けて下院で可決したとしても、実際に議会侮辱罪に問うかどうかを決めるのは司法省で、司法省のトップはバイデン氏肝入りのメリック・ガーランド司法長官(民主党)です。それでも訴追される可能性はほぼゼロなので、やはり取り下げるのが賢い選択でしょう。

この問題、今後はハンターが非公開の証言録取に応じ、その後記録が公開されることになりますが、そこで新しい事実が出てくるくらいなら今の時点ですでに出ていると思うので、今まで聞いたような話が出てくるだけでしょう。

ただ、

「なぜバイデン氏の副大統領時代と重なる時期にウクライナや中国の会社と取引したのか?」
「最終的にバイデン氏の口座に流れている資金があるが、その出どころはどこか?」
「『Hがビッグ・ガイのために10%キープ』というメッセージが見つかっているが、ビッグ・ガイとはバイデン氏、10%は外国から得た利益ではないのか?」

…というアンチバイデンでなくても気になる質問にハンター自身が直接答えてくれるのは非常にレアなので、ぜひ黙秘権を行使することなく答えてほしいです。

Cover Photo by Ian Hutchinson on Unsplash

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?