見出し画像

ハンター・バイデンの疑惑が色々ありすぎるので整理してみた

28日、バイデン大統領の息子、ハンター氏を議会に招いて行われる非公開証言が、米下院で行われます。現在、米東部時間の午前9時10分すぎなので、今頃ちょうど始まった頃でしょうか。ハンター側が公開証言でなければ応じない、と言ったり紆余曲折ありましたが、これまで下院の監視委員会などが1年以上かけて散々煽ってきた疑惑の調査も、ようやく本人の登場とあって、いよいよ大詰めです。

Deposition(証言録取)というこの証言では、まず共和党から質問攻めに遭い、その後民主党からの質問の時間も同じ分だけ設ける、という形が取られます。非公開ですが、後日、やり取りを文字起こししたスクリプトが公表されることになっています。

今回の証言で問われるのは、バイデン氏の弾劾訴追につながりそうな「バイデン家が外国企業から不正に利益を得ていた疑惑」が中心ですが、おそらく直接関係ないスキャンダルも合わせて追及される可能性大です。

ハンターのことはこのブログでも何度も書いてきましたが、ハンター・バイデンという人はゴシップレベルのスキャンダルから深刻な刑事事件まで、とにかく疑惑の宝庫。あまりに多すぎてわけが分からなくなりがちです。

そこで今回は、ハンター・バイデンにまつわる疑惑をざっくりリストにまとめる回を一度設けてみました。今後もハンターのネタは取り上げていきたいと思うので、そのときに大元はどんな話だったかを手短に参照できる場になればと思います。

その前に、ハンター・バイデンのプロフィールを手短に・・・

ハンター・バイデン来歴

1970年2月4日、デラウェア州生まれの54歳。父親は第46代米大統領のジョー・バイデン。兄は元デラウェア州司法長官のボー・バイデン(2015年5月に脳腫瘍で死去)。2歳のとき、自動車事故で母と妹を亡くし、同乗していたボー共に重傷を負うが一命をとりとめる。1992年にジョージタウン大学、1996年にイェール大学ロースクールを卒業。以降、民間企業や弁護士事務所で金融コンサルティング系のキャリアを積み、企業や公的機関の役員なども歴任する。私生活では1993年にキャサリン・ビュールと結婚。3女をもうけるが2017年に離婚。2019年にメリッサ・コーエンと再婚。1男をもうける。アルコールとコカインの依存症に長年苦しんでいたことを公表している。

※リストに便宜上番号を振っていますが、時系列、重要度などは関係ありません


A. 外国企業とのビジネス問題

2010年代、父親のジョー・バイデン(以下、ジョー)が副大統領だった時期と並行して、ハンターが複数の外国企業とコンサル事業で提携し、ビジネス取引で多額の利益を得ていた問題。取引相手はウクライナ、中国、ルーマニアなど(それぞれ個別に詳述)。これを理由に、下院共和党はバイデン大統領の弾劾訴追に向け調査を進めている。

調査担当機関:
議会下院の監視委員会、司法委員会、歳入委員会

疑惑の本質:
いわゆる「利益相反」の疑惑。よりによってジョーの外交相手国の企業と、ハンターがビジネス取引をしていたのでは、外交を利用して金儲けができてしまうではないか、それは倫理的・法的にNGだろう、という話。

調査の焦点:

  • ジョーが、ハンターの取引先企業に便宜をはかっていなかったか

  • ハンターがビジネス取引の際に、父親が副大統領という立場を悪用していなかったか

  • ハンターの事業によって、ジョー自身が金銭的利益を得ていなかったか(特に現役の副大統領時代)

真偽:
2024年1月現在、利益相反があったという明確な証拠は見つかっていない。ただ、ハンターの取引先パートナーとジョーが会食したときの写真など、疑わしい写真やメールが出ていたりはしている。

深刻度(星1〜5。筆者の個人的評価):
★★★
バイデン大統領弾劾に十分なレベル(あくまで疑惑が本当だった場合)。ただし、長く調査している割には証拠が出てこないので、頭打ちになりつつある。

今後の展開:
下院の各委員会が引き続き調査し、結果によってはバイデン大統領の弾劾訴追決議案の採決に移る。証拠しだいでは、ハンター自身の訴追を司法省に促す可能性もあり。

ただ、共和党が疑惑をクロとするにはジョー・バイデン本人がハンターの事業に直接関与した、またはそこから直接の利益を得たことを立証しなければいけないところ、未だ言った言わないの水掛け論しかできていない。また、ハンター自身は一般人なので、仮に父親の影をセールストークにちらつかせていたとしても違法性はない。

Memo:
外国企業を巡る疑惑には、ハンターが仕事仲間らと共同設立した「Rosemont Seneca Partners」という会社やその関連会社「Rosemont Seneca 〇〇」、ハンターの税務上のペーパーカンパニーと見られる「Owasco PC」といった名前が頻繁に上がるので、この名前を押さえておくと便利。

A-1.ウクライナ

2014年4月〜2019年4月まで、ハンターはウクライナのエネルギー会社「ブリスマ」の役員を務め月数万ドル(多い時で8万ドルほど。ジョーの副大統領退任後徐々に減額)の報酬を得ていた。同時期の2014年以降、ジョーは外交でウクライナを担当し、同国の汚職撲滅に取り組んでいた。これに絡む利益相反が疑われている。

疑惑の本質:
① ジョーは外交の一環で、汚職疑惑のあったウクライナの検事総長、ビクトル・ショーキンを解任に追い込んだが、ショーキンはブリスマ内部の汚職の捜査を指揮していたとの噂がある。ショーキン解任の本当の目的は、ハンターの手助けだったのでは、との疑惑
② 
ハンターが父親ジョーのコネをビジネスに利用し、ブリスマ幹部に対して、アメリカ政府の中枢に食い込めると期待を抱かせた疑惑
③ エネルギー産業での経験がないハンターが役員待遇だったのがそもそもおかしい、父親のコネだ、という疑惑
④ ハンターのブリスマでの報酬がジョーに金銭的利益として流れていた疑惑

真偽:
① ジョーがショーキン解任を促したのは事実。ただし、ショーキン解任の理由がブリスマの捜査という点は証拠なし。もちろんバイデン側は否定している
② 証拠なし。ただし、ブリスマ側が勝手にジョーとのコネを期待し、ハンターを役員待遇で迎えた可能性は大
③ ハンターに業界経験がないのは事実。ただし、役員人事に業界経験を求めるのはそもそも不毛
④ 証拠なし

備考:
ブリスマが汚職捜査を受け、幹部が訴追されているのは事実。ただし、ハンターがブリスマとの取引を始める前、民間の調査会社にブリスマがクリーンな会社かを調べてもらい、お墨付きを得た上でビジネスの関係を結んだと、ハンター本人が自著で説明している。

深刻度:
★★★
事実だった場合は最もあからさまな利益相反。ただ、証明される可能性はほぼゼロ

A-2.中国:「BHRパートナーズ」

米下院監視委員会のウェブサイトによると、中国に関しては「BHRパートナーズ」社と「CEFC」社の2つをめぐる疑惑がある。

「BHRパートナーズ」(現・BHR Partners (Shanghai) Equity Investment Fund Management Co., Ltd.)は2013年、ハンターが設立に関わったファンドマネジメント会社。中国の「Bohai Industrial Investment Fund」と「Harvest Fund Management」、アメリカは、ハンターが仕事仲間と設立した「Rosemont Seneca Partners」とコンサル会社「Thornton Group LLC」の4社が出資し設立した。事業内容は中国企業と外国企業間での合併や業務提携、企業投資のマネジメント。

ニューヨーカーによると、ハンターは無報酬の役員として参加。BHRの株式取得もジョーの退任までは見合わせ、退任後の2017年からは10%の株式を所有している。ジョーが大統領就任までに株式を手放したとされるが、まだ所有しているとの報道もある。

ジョーが2013年に外交で訪中した際、ハンターもエアフォースツーに乗って同行。このとき中国側のビジネスパートナー、ジョナサン・リーを“友人”としてジョーに合わせたりしている。

疑惑の本質:
以下の理由で、利益相反(とりわけオバマ=バイデン路線の強硬な対中政策との矛盾)が疑われている。

① 米下院監視委員会によると、ジョーが副大統領在任中の2017年1月までにBHRが投資した企業には、中国共産党絡みの会社が複数ある。
② 2015年、中国政府系企業「中国航空工業集団(AIVC)」によるミシガン州の自動車製造会社「Henninges Automotive」の買収をBHRが仲介。BHRはハンターのほか、ジョン・ケリー国務長官(当時)の継子、クリストファー・ハインツも設立に関わっていた。この買収ディールを承認したのが当時のオバマ政権で、「政権にゆかりのある人間が2人も関わっている。買収承認には何らかの便宜があったのでは」と疑う声がある。
③ 2016年に、カナダの卑金属採掘会社「Lunden Mining」をBHRが買収。結果的にこのディールは、コンゴのとあるコバルト鉱山の採掘運営が中国企業にほぼ独占される一翼を担うことになった。コバルトは電気自動車(EV)生産に重要な資源であることから、のちのバイデン政権によるEV推進を見据えたに布石では、とも見られている。
④ 2013年の会社設立時、一般人のハンターがエアフォースツーに乗るのはおかしい。しかも会社幹部とジョーを合わせるのは利益相反では?

真偽:
① 証拠なし。ただし、中国の民間企業が多少なりとも国と繋がっていると考えるのは妥当
② 買収仲介は事実。オバマ政権下の対米外国投資委員会(CIFUS)が買収を承認したのも事実。ただし、内々の便宜があった証拠はなし
③ のちのEV政策を見据えた布石である証拠はなし。さらに、バイデン政権時代にはハンターもBHRの株を手放しているので、BHRに利益が入ったところでハンターに金銭的得もない。
④ 政府専用機に家族が同乗するのは、制度的には問題なし。ジョーと会社幹部とはあくまで“友人を紹介”しただけなので、こちらも明らかに仕事で結託した証拠がなければ問題なし。仕事で中国行くなら仕事のカネで行け、と顰蹙を買うのはまた別の話。

深刻度:
★★
ハンターは一般人なので普通にビジネスを行う権利があり、その点では上記の内容が全部事実だったとしても、②以外は問題ない。ただし、②で親子便宜をはかった証拠が出てくれば別

A-2.中国:「CEFC」

「CEFC(中国華信能源)」は中国のエネルギー会社(民間企業ではあるが、中国政府とつながりがあると言われる)。米下院監視委員会によると、ハンターは2015年頃からCEFC会長の葉建明(Ye Jianming)と事業提携の可能性を模索。2017年2月、事業提携開始前には「友好のしるし」に、葉からハンターに8万ドル相当のダイヤモンドが贈られている。同年3月、バイデン家御用達のビジネスパートナー、ロブ・ウォーカーにCEFCから300万ドルが入金され、以降5月までにウォーカーからバイデン家のメンバーらの口座に数万ドル単位で細々と送金された。

入金記録が確認されているのは、ハンター(主に「Owasco PC」経由)、ジョーの弟でハンターの叔父ジェームズ・バイデン、ハンターの義姉ハリー・バイデン。5月17日には、バイデン家の仕事仲間らのメールのやり取りに「10 held by H for the big guy?」の一文があり、「10%をハンターが『ビッグガイ(=ジョー・バイデン)』のためにキープしている」という意味ではないかと疑われている。

2017年8月には、CEFCのエージェント、董功文(Gongwen Dong)とハンターとが50%ずつ経営権を持つ会社「Hudson West III, LLC」を設立。まもなくCEFCから同社に500万ドルが振り込まれる。以降、董とハンターとのメッセージのやり取りに、ところどころ「ジョーとの面会」と匂わせる内容が出はじめ、Hudson West III, LLCのオフィスを借りた際、利用者登録に自分やCEFCのビジネスパートナーのほか、ジョー・バイデンとジル・バイデンを加え、2人用の合鍵を手配した。2018年3月頃からCEFCとハンターとの間で溝ができはじめ、同年11月にHudson West III, LLCは解散する。

CEFCには闇が多く、2018年にはCEFCのエージェント、パトリック・ホーが贈賄の罪で米連邦当局に起訴され有罪となった。これに先立ち、ハンターは葉から頼まれ、弁護士としてホーの逮捕まで一時的に代理人をしている。同年、葉建明も中国当局に拘束され、以来消息不明。

疑惑の本質:
様々な怪しい疑惑があるものの、バイデン親子が直接関わるのは主に以下。

① 「10 held by H for the big guy?」の、Hはハンター、the big guyはジョーだと考えられ、CEFCからの利益がジョーにも行った疑惑
② オフィスの合鍵を作った際、両親(ジョーとジル)の分の鍵を作ったのはなぜ?2人もビジネスに関与していたのでは?
③ パトリック・ホーがアメリカで起訴されているのなら、CEFCと提携していたハンターも関与していたのでは?
④ 葉からハンターに贈られたダイヤモンドは「お父上との便宜、よろしくお願いしますね」という賄賂では?

真偽:
① ハンターの元仕事仲間、トニー・ボブリンスキーの証言によると、Hはハンター、the big guyはジョーで間違いないとのこと。ただ、CEFCとのビジネスはジョーの退任後の2017年1月より後のことなので、仮にジョーに金が渡っていたとしても問題はない
② 「息子のビジネスのことは何も知らない」とのジョーの発言とは若干矛盾するものの、こちらも退任後のことなのでオフィスの合鍵を作ってもらっても問題ない。
③ パトリック・ホーの事件はハンターの取引とは全くの別件。ホーの件ではハンターはいかなる捜査も受けていないと確認されている
④ ハンターは「プレゼント」として勝手に贈られただけ、と収賄の疑いを否定。仮に賄賂と知って取引したならハンターが何らかの刑罰を受ける可能性はあるが、立証はほぼ不可能

深刻度:
★★★
ジョーの在任中の出来事ではないので、基本的には利益相反に該当しない。ただ、バイデン家総出で金銭のやり取りに関与していること、ジョーの影響力にあやかったようなメールのやり取りがあること、ビジネス開始から1年足らずで揉めはじめていること、CEFCの幹部に逮捕者が続出していることなど、刑事罰や弾劾訴追の対象ではなくても問題視される可能性は十分ある

A-3.ルーマニア

2015〜17年にかけ、ルーマニアの実業家、ガブリエル・ポポビチウの会社「Bladon Enterprises」から、ウォーカー経由でハンターに総額100万ドル余りが振り込まれた。時期が重なる2014〜15年頃、ジョーは外交でルーマニアの汚職撲滅などにも取り組んでいた。こちらも「利益相反」の疑いが持たれている。同時期に、ハンターはルーマニアの駐米大使と複数回面会しているが、目的は不明。

真偽:
2024年1月現在、利益相反の明確な証拠は見つかっていない。

深刻度:
★★
ウクライナや中国のケースよりも規模が小さく、取り上げられ方も小さい。

A-4. ロシア

2014年2月、ロシア・モスクワの元市長ユーリ・ルシコフの妻でロシアの富豪、エレーナ・バトゥリナから、「Rosemont Seneca Partners」の関連会社「Rosemont Seneca Thornton」に350万ドルが振り込まれた記録がある。2020年の大統領本選の討論会で、トランプがジョーへの攻撃材料として「息子がモスクワ市長の妻からカネをもらった。なんでだ」と疑問を呈したが、ジョーは「真っ赤な嘘」と否定した。

2014年4月、ハンターがワシントンDCの政治家御用達レストラン「カフェ・ミラノ」で開いた会食にジョーも同席したが、そこにバトゥリナも招かれていた。顔ぶれは、ハンター、ハンターの仕事仲間デボン・アーチャー、バトゥリナ、カザフスタンの実業家ケネス・ラキシェフ(後述)、カザフスタン首相(当時)のカリム・マシモフ、ジョー・バイデン。

真偽:
350万ドルの振り込みがあったのは事実。アーチャーによると、バトゥリナの不動産会社「Inteco」はRosemont Seneca系列の不動産会社「Rosemont Realty」と共同で1億2000万ドルを投資しており、350万ドルはそのコミッションのようなものだった。ただ、振込先が「Rosemont Seneca Thornton」だった理由は、アーチャーも分からないとのこと。

ジョーを交えた会食があったことは事実。同席したアーチャーが宣誓証言している。ただ、話の内容は天気など他愛ないものだった、とのこと。

深刻度:
★★★
350万ドルの方は、ウクライナや中国に比べてインパクトが薄く、あまりフォーカスされていない。一方、ジョーの会食の方は、これまでのジョーの主張「息子のビジネスには一切関わっていない」と矛盾する可能性がある

A-5. カザフスタン

米下院監視委員会によると、2014年4月、カザフスタンの実業家で首相はじめ政界ともコネのあるケネス・ラキシェフから、ラキシェフの会社経由で「Rosemont Seneca Bohai」(以下、RSB)の口座に14万2300ドルが入金された。この翌日、ハンターが同額で高級車(ポルシェかフィスカー、とのこと)を購入している。

また、前述のとおりラキシェフは2014年4月、ジョーを交えた「カフェ・ミラノ」での会食に、カザフスタンのカリム・マシモフ首相(当時)とともに参加している。

2015年4月にも「カフェ・ミラノ」でジョーを交えた会食があった。アーチャーの証言によると、このときの参加者はマシモフ、「ブリスマ」の顧問ヴァディム・ポザルスキー、ギリシャ人司祭、国連世界食糧計画(WFP、当時ハンターが会長を務めていた)関係者、ハンター、アーチャー、そしてジョー・バイデン。

疑惑の本質:
① ハンターが私用の高級車を買うお金が、なぜカザフスタンの富豪からもらったのか?父親のジョーに贔屓にしてもらうための賄賂では?
② ジョーが2度カザフスタンの重要人物が出席する会食に参加したのは、「息子のビジネスのことは知らない」というジョーの主張と矛盾するのでは?

真偽:
① ラキシェフから14万2300ドルが振り込まれ、その金でハンターが高級車を買ったのは事実。なぜハンターの車の代金をラキシェフが払ったのかは不明。ただ、賄賂である証拠はない
② ラキシェフとハンターとの金銭のやりとりは車の件だけで、ビジネス取引をしているわけではないので、「ジョーが会食に参加した=ハンターのビジネスに関与した」とはならない。単に「息子の友達のディナーに顔を出した」程度と見られる

深刻度:

色々不可解ではあるが、事実だけを見ても利益相反に当たる点はない

B. 銃を不法購入

2018年、ハンターがデラウェア州で拳銃を購入したが、このとき、薬物依存症ではない旨の自己申告をする内容がある購入フォームに署名している。2018年といえば、ちょうどハンターの薬物依存治療真っ最中だったはずなので、依存症であることを隠して銃を買ったとの疑惑が生まれた。

2023年6月に、一度検察側とハンター側で、脱税問題(後述)を含む司法取引が成立しかけたが、直前に双方の合意内容に齟齬があったことがわかり破談に。その後、捜査担当のデラウェア州連邦検事長のデビッド・ワイスが、司法省特任の特別検察官に指名され、2023年9月に改めて連邦法違反で起訴に至った。

罪状:
フォームへの虚偽申告罪、人を欺く意図で虚偽申告をした罪、薬物依存者でありながら銃を所持した罪、の3つ。2023年9月14日、デラウェア州連邦大陪審により起訴。

真偽:
ハンターが連邦が定める銃購入フォームに署名したのは事実。一方で、被告のハンターは無罪を主張。ハンターの代理人、アビー・ロウェル弁護士は「彼の姓がバイデンでなければ事件化するはずのない事例。検察は偏見に満ちている」と述べている。

裁判では、銃購入フォームに書かれた内容の解釈と、ハンターが”依存症であることを隠そうと意図して”虚偽の申告をしたと検察側が証明できるかが焦点になる。

今後の展開:
裁判の日取りは未定。2024年2月、ロウェル弁護士は、検察側の資料が写真でコカインとおがくずを取り違えているなど、極めてずさんだとして起訴取り消しを求めた。

C. 脱税

2016年~2019年にかけ、ハンターが期日までに所得税を納めず、確定申告で娯楽目的の項目をビジネス経費として落としていた疑惑。2023年12月、連邦税法違反でカリフォルニア州中央地区連邦検事局に起訴されている。起訴状によると、脱税総額は少なくとも140万ドル。

罪状:
2016〜19年の所得税を期日までに支払わなかったことによる軽罪6つ、2018年の確定申告で個人的な出費を不正に仕事の経費として計上したことによる重罪3つの、計9つ。

真偽:
ハンターは無罪を主張。期日は過ぎたものの後で納めるべき所得税は納めたとしている。起訴状は過去の確定申告の書類などに基づいているので、期限内に納税しなかったことと、起訴状で挙げられた出費項目を仕事の経費として計上していたこと自体は事実。

裁判では、所得税を納めなかったのが故意だったか、ハンターが経費に計上したものが本当に経費ではなく個人的な出費と断定できるのか、また個人的な出費だとされた場合、税金逃れ目的で故意に計上したのか、が焦点になる。

今後の展開:
6月20日に初公判予定。

深刻度:
★★★★
起訴状では「セックスクラブの会費」「ストリップクラブ」「服飾品や高級車」などを経費として計上したとあるので、これを仕事の経費と認めさせるのは困難。専門家曰く「多くの人がやっているけどほとんど見つからないし、見つかっても滅多に刑事事件化しない類の犯罪。ただ、一度起訴されるとまず有罪になる」とのこと。

D. アルコール依存症

ハンターが長年アルコール依存症だった件。本人が認めている。

真偽:
自著「Beautiful Things」によると、初めてアルコールを口にしたのは8歳のとき。ジョーの上院議員再選を祝うパーティーで、酒と知らずにシャンパンを飲んだ経験がある。酒と自覚した上での最初の飲酒は14歳で、友人とビールを飲んだときに酒の味を覚え、高校時代には本格的に依存し始めていた。以来、何度もリハビリを繰り返し失敗している。2019年6月以降は、依存症状は出ていない、とのこと

深刻度:
★★
依存症そのものというより、酔っていた時の言動は記憶が曖昧なため、他の疑惑で潔白を証言しても信頼性が失われてしまいがち。トランプからは格好の標的にされている

E. コカイン依存症

ハンターが長年コカイン依存症だった件。本人が認めている

真偽:
自著「Beautiful Things」によると、18歳のときにコカイン所持で捕まり、そのときにはすでに数回コカイン使用経験があったとのこと。アルコール同様、リハビリに何度も失敗した末、ようやく脱却しつつあり、2023年8月以降は薬物陰性反応が出続けているので、完全に抜けたと見られる。

深刻度:
★★
アルコール依存同様、依存症そのものを問題視されるというより、「ハンターは薬物中毒者。そんな人の主張は信用できない」という論調で何かと持ち出されるので形勢が不利になること多々あり

備考:
「コンピューターを預けたことを覚えていない」「女性とセックスしたことを覚えていない」などの”奇行”はアルコールやコカインの影響とみられる

F. 海軍を除籍

2012年、ハンターは年齢制限の免除を受け42歳で海軍に入隊。ところが、2013年6月にコカインの陽性反応が出て、2014年2月に除隊となった。

真偽:
薬物検査で陽性および海軍除隊は事実。本人、軍ともに認めている。ただしハンターは自らの意思によるコカイン使用を否定。元妻、キャサリン・ビュールの著書によると、「検査前日に行ったバーでタバコをもらって吸った中にコカインが入っていたんだと思う」(by ハンター)とのこと。真相は不明だが、ハンターは軍の除隊処分に対して不服申し立てをしなかった。理由は「いらない注目を集めるだけから」。

深刻度:

すでに終わった話。共和党があえてピンポイントで蒸し返す気配も無さそう

G. 「ハンター・バイデンのラップトップ」

2019年、ハンターがデラウェア州のコンピューター修理店を訪れ、Macbook Proを3台預けた。修理を終えてもハンターはラップトップを取りに来ず、そのまま引き取り期限を過ぎる。所有権放棄とみなされたため、店主が中身を見ると、ハンターが外国企業とやり取りしたメールや、ハンターの“いかがわしい”写真などが大量に出てきた。店主がFBIに通報し、紆余曲折の末、トランプの当時の顧問弁護士だったルディ・ジュリアーニの手に渡ることに。

ラップトップの話は2020年10月、トランプvsバイデンの大統領選が大詰めになるタイミングで「オクトーバーサプライズ」としてニューヨーク・ポストの第一報で世に出された。

疑惑の本質:
ラップトップから流出したとされるデータは、ハンターとジョーの外国企業との関係をめぐる疑惑や、銃の不法購入疑惑などと辻褄が合う内容。このため、共和党にとっては疑惑の“宝箱”的存在になっている。

ハンターは修理店に行った記憶がないと説明。バイデン陣営はラップトップの信憑性を全否定し、SNS含むメディアはフェイクニュースだと烙印を押した。さらに元諜報機関幹部ら51人が「ロシアの陰謀」だと訴え正式な書簡を提出した。ところがのちに、ラップトップ本体はさておき流出したデータは実際にハンターのものであるが判明。第一報から1年以上が経過した2022年、大手メディアもデータの信憑性を認め、バイデン側にとってはバツの悪い形となった。

真偽:
ハンターはMacbook本体については預けた記憶がないという主張を崩しておらず、「本当に自分のものかわからない。本物だとして、盗まれたかもしれないし、ハッキングされたのかもしれない。ロシアの仕業かもしれない」などとメディアで語った。本体の出所は未だ不明。

一方で、Macbookから流出したとされるデータについては、ハンターのものだったことはほぼ事実。「データは改ざんされた形跡のないオリジナル」との調査結果も出ている。ハンターの代理人も、ラップトップのデータ流出について「個人データへの無断アクセス」や「プライバシーの侵害」と主張しているので、少なくともデータそのものはハンターのものと暗に認めている。

深刻度:
★★★★
データはハンターのものと認められたものの、その内容は“いかがわしさ”たっぷりなだけで、疑惑の真実性を決定づけるには及ばなかった。一方で、ニューヨーク・ポストの第一報があまりに一斉にフェイクニュース呼ばわりされたことで、かえってメディアのバイデン陣営への忖度が問題視される結果になり、一部の反バイデン派の疑念を強める要因になった。

備考:
ラップトップの出所やデータ流出の経緯には、不可解な点も多い。修理店の店主→FBI→ジュリアーニと都合よくデータが渡った点、いくら薬物の影響下でもハンターがラップトップを3台も持ち込んで覚えがないなんてあり得るか?という点、店主が盲目のため店を訪れたのがハンター・バイデン本人だったのか顔を確認できないという点もあまりに出来過ぎという点など。

H. 「子供作っちゃった」問題

2019年、アーカンソー州のストリッパー、ルンデン・ロバーツさんが、娘のネイビー・ジョアンちゃん(2018年生まれ)の父親はハンターだと主張し、養育費を求めてハンターを提訴した問題。のちにDNA鑑定で親子関係が立証され、ハンターは養育費支払いに同意している

疑惑の本質:
ロバーツさんが提訴した当初、ハンターは「ロバーツさんと性的関係を持った覚えはない」と親子関係を否定したが、その後DNA鑑定で親子と立証された段階でようやく認めた。ジョーも長らくネイビー・ジョアンちゃんを孫にカウントせず「孫は6人」と公言していたが、タブロイド紙が騒ぎ出したのを受け、2023年7月にようやく「孫は7人」と改めた。

真偽:
上述のとおり、子供の父親がハンターであることは事実。

深刻度:
★ 
初動でハンターがシラを切り通そうとした疑いはぬぐえず「モラル的にどうなの」という向きはあるが、事件化する話でもなく当人同士も和解済み。

備考:
ハンターがなぜルンデンさんと「関係を持った記憶がない」のかは不明。子供が生まれたのがコカイン・アルコール依存症状が酷かった時期と一致するので、その影響?

I. アートでボロ儲け問題

2021年以降、ハンターは画家としての活動を本格的にスタート(絵や芸術は昔から好きだった、とのこと)。ハンターの絵画は数万〜数十万ドルで売れ、ハリウッド御用達弁護士でハンターの借金を肩代わりしたケビン・モリスが2023年1月に、87万5000ドル相当11点をまとめ買い。カリフォルニアの不動産業者、エリザベス・ナフタリは2021年に4万ドル、2022年に5万ドルで計2点を購入している。

純粋な芸術性ではなくハンター・バイデンの知名度で絵を売っている、との批判も一部(主に共和党)ある。

疑惑の本質:
① 大統領の息子がいきなりアート界に出てきて高額で絵画を売りさばくのは倫理的にいかがなものか、という批判
② ホワイトハウスは、絵のバイヤーは匿名にされると説明していたが、結局バイヤーの70%の身元がハンターの知るところとなり、矛盾を突かれている。一部報道によると、ハンターがバイヤーの身元を知りたがった、とのこと
③ 絵を買った人は父親のコネで取り立ててあげようという裏取引があるのではないか、との疑惑がある。実際にバイヤーの一人、ナフタリは絵を買って数カ月後にバイデン政権の米海外遺産保存委員長に任命されている

真偽:
① 本人は当然、そのつもりはないと否定。加えて、仮に名前で絵を売っていたとしても何らかの責任を負う行為には当たらない。
② ハンターおよびホワイトハウスの説明としては、バイヤーの身元はメディアの報道やハンターの個人的なつながりにより明らかになったもので、ハンターやジョーが開示しろと要求したわけではない。ハンターがバイヤーの身元を知りたがったというのも、ハンターの絵画のディーラーの証言によると、「ハンターとの契約条項の草案に『バイヤーの身元を知らせる』とあっただけで、「身元は匿名にしている」と説明したらハンターも納得した、とのこと。
③ バイデン政権の説明としては、ナフタリの起用はナンシー・ペロシ元下院議長の勧めだったそう。但しあくまでバイデン側の説明なので、仮に絵を買ったことを理由に政権内部に取り立てた証拠が出てくれば、弾劾訴追条項になり得るかも。

深刻度:
★ 
絵を買った人にジョーが便宜をはかった証拠が出てこない限り、すべて問題ない行動。

備考:
ホワイトハウスが矛盾しているとする一方で、共和党下院の監視委員会は当初、倫理的観点からバイヤーの情報を開示するよう要請していた側面もある

J. 外国代理人登録法違反の疑い

アメリカには「外国代理人登録法(Foreign Agent Registration Act)」という法律があり、「政治的または準政治的権能を持つ」 外国勢力の利益を代表するエージェントは、米政府に登録して外国との関係や活動内容、財政状況を開示するよう義務づけられている。ハンターの、「ブリスマ」(ウクライナ、)や「CEFC」(中国)とのビジネスは、本来FARA法のもと登録が必要だった可能性があると報じられている。一部報道では、ワイス特別検察官がFARA法違反での3度目の起訴を視野に捜査を進めているとか。

真偽:
まだ捜査中と見られるのでFARA法違反に該当するのか詳細は不明だが、ハンターが米政府にエージェント登録していなかったことは事実。

深刻度:
★★ 
FARA法違反の時効は5年。ハンターがブリスマやCEFCと取引があったのは2019年までなので、時効目前であるにもかかわらず大きな動きがないこと、そして、FARA法違反単独で起訴されることは稀で、過去の大抵のケースでは偽証罪や詐欺罪などとセットで起訴されていることから、ハンターがFARA法違反で起訴される可能性は低いと見られる。ただし、今年中に起訴されるようなことがあれば、その場合はジョーの弾劾訴追と密接に絡むので深刻な問題になり得る。

備考:
2016年までは、FARA法が実際に適用されたケースは稀で、半ば形骸化した法律だった。ところがトランプ政権時代のロシア疑惑捜査をきっかけに、トランプの側近だったマイケル・フリン元大統領補佐官、ポール・マナフォート元選対本部長などがFARA法違反絡み(いずれも虚偽証言などとの抱き合わせ)で訴追されるなど、近年FARA法の執行に力を入れている様子がうかがえる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?