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TKA術後の効果的なROM運動について

”TKA術後のROM運動はどのような方法が効果的か?”

整形外科の病院で働く理学療法士であれば,誰しも一度はこの疑問を持ったことがあると思います。
今回のブログでは,各種ガイドラインよりこの疑問を解決していきたいと思います。

1. TKA術後において有効なROM運動の種類

いきなりですが,結論です。

“TKA術後の膝関節可動域制限を改善させる目的においては,自動ROM運動が有効であり,CPMや徒手的な他動ROMは効果は乏しく,実施は推奨されていない”

これは当たり前と感じる人もいれば,意外に感じる方もいるかもしれません。それでは一つ一つ解説していきましょう。

2. ROM運動実施の有無について

APTA(American Physical Therapy Association)の診療ガイドラインによると以下のように合意がなされています。

“理学療法士はTKAを受けた患者に対して他動・自動介助・自動ROM運動を実施するように指導し,推奨するべきである”

Diane U Jette, Stephen J Hunter, Lynn Burkett, Bud Langham, David S Logerstedt, Nicolas S Piuzzi, Noreen M Poirier, Linda J L Radach, Jennifer E Ritter, David A Scalzitti, Jennifer E Stevens-Lapsley, James Tompkins, Joseph Zeni Jr, for the American Physical Therapy Association, Physical Therapist Management of Total Knee Arthroplasty, Physical Therapy, Volume 100, Issue 9, September 2020, page 1615.
https://doi.org/10.1093/ptj/pzaa099

まぁ,これは予想通りというか,当たり前の結果ですよね。
しかし,エビデンスの質は不十分(ROM運動は標準治療とされており,ROM運動を受けた患者と受けなかった患者を比較した研究は存在しないため)であり,あくまで専門家の意見として推奨するとなっております。

では,どのような方法がいいのでしょうか?
APTAガイドラインに「CPMの使用」の項目がありましたので,そちらを見てみましょう。

3. CPMの使用について

CPMは実施すべきではない
(エビデンスの質:高,推奨度:中)

Diane U Jette, Stephen J Hunter, Lynn Burkett, Bud Langham, David S Logerstedt, Nicolas S Piuzzi, Noreen M Poirier, Linda J L Radach, Jennifer E Ritter, David A Scalzitti, Jennifer E Stevens-Lapsley, James Tompkins, Joseph Zeni Jr, for the American Physical Therapy Association, Physical Therapist Management of Total Knee Arthroplasty, Physical Therapy, Volume 100, Issue 9, September 2020, Pages 1611-1612.
https://doi.org/10.1093/ptj/pzaa099

本邦ではCPMを実施している病院も多いため,これは意外に感じる方もいるかもしれません。

4. 自動運動と他動運動

次は,日本理学療法士協会の理学療法ガイドラインに自動運動と他動運動についての記述がありましたので見てみましょう。

自動運動:推奨グレードA エビデンスレベル2
他動運動:推奨グレードD エビデンスレベル2

理学療法ガイドライン第1版(2011)より引用

つまりTKA術後のROMを改善させる目的においては,自動運動におけるROMエクササイズが有効で,他動運動のみでは効果は乏しい,むしろ行わない方が良いということになりますね。

5. まとめ

若手の頃にTKA術後の患者さんを担当した際に思うようにROMが改善せず,どうにか曲げようと他動でROM運動をひたすら行った経験はないでしょうか。

しかし,他動運動で無理に最終域まで持っていくと炎症の助長や痛みの増悪につながったり,防御性収縮が強くなってしまったり最悪の場合,可動域制限が増悪してしまうケースも想定されます。

ただ,術後症例では疼痛や筋出力低下によって自動運動が思うように行えない症例も多くいるので,物理療法による炎症管理やPTのサポート下による自動介助運動から実施していき,徐々に症例にあったセルフエクササイズを選定していくことが重要になってくるかと思います。




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