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財務省、医療政策にグイグイ口出しする。

毎年6月頃に閣議決定される、「骨太の方針」の案が出てきました。
医療に関して気になることがあったので、少しまとめてみます。

■「骨太の方針」とは?

現在の正式名称を「経済財政運営と改革の基本方針」といいます。正式名称は過去に何回も変わっており、通称である「骨太の方針」という言葉が定着しています。
内閣総理大臣を議長を務める「経済財政諮問会議」での決議を経て、閣議決定されることにより、年末の予算編成や法改正等の指針となります。各省庁はこの方針に基づいて方針を定め、予算要求を行っていくことになります。

■2021年の「骨太の方針」は?

5/25の第7回経済財政諮問会議で骨子(案)が示されました。
まだ、目次だけしか公表されていません。
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2021/0525/shiryo_04.pdf

6月中旬に閣議決定される予定です。

■医療分野について

骨子(案)が出た当日に、麻生財務大臣が提出した「財政健全化に向けた建議の概要」がすごく気になったのでご紹介します。
経済財政諮問会議は医療機関を代表する参加者はおらず、総理大臣と官房長官、経済財政担当大臣、総務大臣、財務大臣、経済産業大臣、日銀総裁、民間の経済に詳しい財界人や学者によって行われます。残念ながら医療関係者はいないんですよね。この中で財務省はやはり大きな力を持っているので、どんな案が出てくるのか気になってしまいます。

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2021/0525/shiryo_06.pd

(2)医療
・ これまでの医療提供体制の課題に加え、新型コロナへの対応状況を分析し、効率性と質の改善を両立させ、地域医療構想の推進など、医療提供体制の改革を進める必要。「医療提供体制の改革なくして診療報酬改定なし」。
・ 災害時の概算払いを参考に、新型コロナ入院患者を受入れた医療機関への、感染拡大前水準での診療報酬支払を検討すべき。
・ 全世代型社会保障改革の残された課題として、医療費適正化に向けたガバナンスの強化のため、
 ➣ 後期高齢者医療制度の更なる見直し、
 ➣ 都道府県医療費適正化計画の在り方の見直し、
 ➣ 国保改革の徹底、
 ➣ 生活保護受給者の国保等への加入 などが必要。
・ 新規医薬品の薬価算定方式や既存医薬品の保険給付範囲の見直しなど、薬剤費の適正化にも引き続き取り組む必要。
・ 医療法人の事業報告書等のデータベースを整備し、経営状況の「見える化」を実現する必要

財務省だから当たり前なのかもしれませんが、いかに社会保障費を減らすか?ばっかりですね。笑。

ここから、さらに気になる項目について抜粋してみます。

■医療提供体制の改革なくして診療報酬改定なし

新型コロナの影響で2022年度の診療報酬改定に向けての議論が進んでいないところですが、医療機関の機能分化・連携と地域医療構想を推し進めるような診療報酬改定にしてくださいね、ということですね。日本は民間医療機関が多く、医療従事者や医療資源が分散してしまっています。そのため、救急医療の看板を掲げていても実際は受け入れキャパが小さいことが多く、結果として本当に救急医療が必要な患者に対して、医療を提供できないという事例が多く起こってしまっています。このような状況ができるだけ早く改善されるように、診療報酬改定を利用して、適切な医療機関の機能分化をしていく必要があるということです。
ただし、この裏には病床削減や病院統合により、日本全体の医療費総額削減を推し進めたい。診療報酬をそのインセンティブに活用すべきという本音がありそうです。

■災害時の概算払いを参考に、新型コロナ入院患者を受入れた医療機関への、感染拡大前水準での診療報酬支払を検討すべき

現在は新型コロナ感染者を受け入れるための病床確保や、後方施設の整備、医療従事者への慰労金等のために、国庫から補助金が支給されている状態です。財務省はこれに変わって「診療報酬の不足は診療報酬で補うべき」と言っているのです。
具体的には、都道府県知事の同意を得た、新型コロナ感染患者を受け入れている医療機関において、コロナ前または前年の診療報酬と同水準が維持されるよう、1点単価を12.5円等に補正しましょう、というものです。
これ、患者負担だけ1点10円というわけにはいかないのかな?と思います。例えば、初診料270点に対して、1点10円であれば患者負担分は3割負担として810円ですが、1点12.5円になったら1,012.5円ですね。特定の医療機関にかかった患者だけ、負担が上がってしまうというのはちょっと受け入れ難いですね。電子カルテベンダーとしても、対応はかなり難しいので「やめてくれーーー!」と言いたいところです。

■生活保護受給者の国保等への加入 などが必要

社保の被保険者の場合、社保の被保険者のまま生活保護を受給することが可能なのですが、国保の被保険者が生活保護を受給する場合はそれができません。
なので、生活保護受給者の医療費は原則として100%国庫から出ることになります。
国保に加入したままということになると、その保険料はどこから出るのでしょうね?
生活保護に関しては色々な考え方があると思いますが、この制度は国民のセーフティネットです。セーフティネットというのは「もうどうしようもない!ということになっても必ず助けてもらえる」という前提のために制度設計がされるものと思います。
社会情勢上、どうしても受給者が増える傾向にあるとは思いますが、将来に悲観して自死が増え続ける社会になるよりはマシなので、あまり厳しい制度にすることには反対です。

■新規医薬品の薬価算定方式や既存医薬品の保険給付範囲の見直しなど、薬剤費の適正化にも引き続き取り組む必要

最近、すごく高額な医薬品が承認されつつあるので、どうにかしなさい、ということですね。確かに2019年2月に承認された「ステミラック注:約1500万円」を皮切りに、超高額薬剤が承認されることが多くなってきました。このあたりの薬価算定方式が本当に適切ではないのか?ということはちょっと判断しかねます。
ただ、この新規医薬品の問題と一緒に提言されているのが、特定の医薬品を保険給付対象外にするようにというものです。花粉症治療薬や保湿剤など薬局でも購入できる薬剤は全額自費にしてはどうか?という案ですね。
保湿剤はともかく、花粉症治療薬については一時的に使用するならそれほどでもないかもしれませんが、年中使用するような場合はかなり負担になりそうです。

■まとめ

いかがでしたか?
ちなみに財務省の提案の詳細が気になる方は、下記URLの資料もご参照ください。

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20201008/01.pdf

実際の診療報酬を検討するのは中医協ですが、その検討の方向性などを決めるのは厚労省です。2021年度の骨太の方針に上記の提言が採用されてしまうと、次の診療報酬改定がどんなことになってしまうのか心配です。
案外、中医協で骨抜きにされることも多いので、今後どうなっていくのか楽しみでもあります。

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