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【第20回】Complex TKAに対する考え方-7

阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター 総長
格谷義徳 かどや よしのり

実際のインサートの選択

Constraintの判断基準

Constraintの選択は,基本的には軟部組織の不安定性に選択する。加えてConstraintを上げたことによる総体的な固定性不足がないかの検討も必要である(図18)。RHKはヒンジ型であることを考慮してフルセメントが推奨されている。

インサート選択の実際

多くの場合,術者の主観に委ねられているのが現状だが,関節ギャップの計測値として許容範囲(それ以上であればConstraintを上げる)を数値化してみると

  1. 屈曲位での外側弛緩性(胡座位で外側が開く) :<10度

  2. 伸展位での外側弛緩性(内反ストレスで外側が開く):<5-7度

  3. 伸展位での内側弛緩性(外反ストレスで内側が開く):<5度

  4. 屈曲位での内側弛緩性(トンビ座り位で内側が開く): <3-5度

が目安になろう。もちろんギャップ計測値は肢位や体型により影響を受ける。その数値自体にEBMの観点で証拠があるわけではない。しかし私が長年これを目安に対処して大きな問題は起こっていないので “当たらずとも遠からず” の数字と考えていただきたい。

現実的には最終トライアル時に,徒手的に不安定性を評価して決定することが多いだろうが,その際には上記の数値を1 度 = 1mmで換算すれば目安になるだろう。

固定性と安定性

ここで固定性のためのオプション(ステムやConeなど)と,Constraintに関するもの(拘束性インサート)区別と両者の関連をもう一度説明しておこう。

固定性不足があればステムやConeで対応するし,バランス不良があればConstraintを上げて対応する(図19)。話はシンプルであり分かりやすい。

次にバランス不良がありConstraintを上げた場合を考えてみよう。Constraintを上げることにより骨−インプラント間へのストレスが上がる。言わば相対的な固定力不足の状態である。そうなると固定力を上げるためにステムやConeの使用を考慮しなければならない(図20)。

ところが,固定性の確保のために使用したステムやConeは(当然ですが)バランス不良とは全く関係がないのでConstraintを上げる必要はない。だから難治症例でもバランスさえ良ければインサートは通常のもの(例えばPS型)を使用すれば良いことになる(図21)。

Primary症例でのVVCについての現状と将来展望

VVCインサートを使用した際は,骨−インプラント間へのストレスが上がり,固定性に影響するためステムの使用を考慮しなければならないことは先述した。ここでは実際に遭遇する状況を仮定して考えてみよう。

Primaryの高度内反変形症例で手術終盤に内外反動揺性が認められたとしよう。高齢で活動性も低い患者さんであればVVC型インサートを使用したくなる。なぜなら,Looseningが長期生存率に影響する因子であるのに対して,不安定性は術直後から顕在化する問題だからである。その際,教科書通り大腿骨,脛骨側共にステムをつけるのが力学的にはベストなのだが,手技的に難しい上,手術時間,侵襲の増大によるデメリットも考えに入れないといけない。

骨質により脛骨側にステムを使用するのがよい?

そう考えるとStemless VVC型インプラントで“本当にLooseningが増加するか?”が問題になる。我々が調べた範囲ではStemless VVC型の生存率が通常のPS型に比べて劣っているという報告はなかった。これらを総合的に判断すると,活動性が低く骨質に大きな問題がなければStemless VVCの使用は正当化できるだろう¹⁾。 

今回導入されたCPSはCCKよりやや拘束性の低いmid-Constraintと位置づけられており,選択肢が増えたことは事実である。しかしこれが安定性と長期成績を両立させる丁度良い落とし所になるどうかは今後の検証が必要となる。

CPSインサートも含めたVVCインサートは,内外反不安定性に対する即効性のある特効薬だが,副作用の可能性(Looseningの増加)も無視できない。その意味で,その使用に当たってはrisk-benefitを勘案した上で”禁断の果実“であるという意識を持って使用すべきだろう。

ここまでで7回にわたってなんとかして”骨にインプラントを固定する方法” と”膝関節の安定性をConstraint Implantで獲得する方法”の説明をしてきたが,お役に立てただろうか?

いずれにせよ新しいPCCK Tシリーズ では,ステムバリエーションの追加やコーンサイズの改良により,各Zoneでの固定性を得るオプションとConstraintインサートの選択肢が増加したのは間違いのない事実なので,それらを上手く活用することが大切である。

次回は実例を提示しながら,さらに実際的な方法を示していく。

文献
1) D.A. Crawford et al. Midlevel Constraint Without Stem Extensions in Primary Total Knee Arthroplasty Provides Stability Without Compromising Fixation. The Journal of Arthroplasty 33 (2018) 2800-2803


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