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【第16回】2023年2月24日 ZOOM対談-3

格谷義徳 先生(阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター 総長)
箕田行秀 先生(大阪公立大学大学院医学研究科整形外科学 准教授)

箕田:
最近,TKAの発表ではintroductionで枕詞のように「TKAは患者満足度が悪いです」ってよくいうじゃないですか。20%不満足っていう。これをよく調べてみたら全部2000年初頭の論文なんですよ。今はそんなに患者満足度は悪くないと思うんです。

格谷:
これは僕のスライドにもありました。

患者満足度について,これが一番良く引用されるRobert B Bourneの論文で2010年です。もっと最近の論文はないんですか。

箕田:
この10年は多くの人がintroductionでこれを引用しますよね。患者満足度を向上させるために,ロボットを使いましょう,alignmentを変えましょう,などなど。

格谷:
TKAの論文の枕詞としてはすごく使いやすいんでしょうね。使いやすいんだけど嘘ですね。

箕田:
最近調べてて,AOANJRR(The Australian Orthopaedic Association National Joint Replacement Registry)ってあるじゃないですか。今年の2022年度版から術後6カ月後の満足度を出し始めたんですよ。

格谷:
満足度のscoreはどうやって取るんですか。

箕田:
very satisfied, satisfied, neutral, dissatisfied, very dissatisfiedの5段階です。

格谷:
箕田先生の発表ではこれに触れてましたか?

箕田:
今回は出していませんでしたが,別の機会に出そうと思っていて。AOANJRRを見ると実は,hipではvery dissatisfied, dissatisfiedがそれぞれ4.4%と2.1%で合計6.5%,膝では両方とも3.8%で合計で7.6%なんですよ。確かにneutralっていうのが,Hip 4.3%,膝8.7%で膝の方が多くて,satisfied はHip 16.1%,膝25.2%で膝のほうが多くて,very satisfiedはHip 73%,膝 58.5%で,very satisfiedはHipの方が多いんですけど,どこで切るかですね。

neutralを不満足にいれるか,neutralを満足に入れるかですけど。dissatisfiedでいったら昔のように20%とかではないんですよ。7%程度ですから。

格谷:
でも,very dissatisfiedはHipの方が多いんですね。まあ,有意差はないんでしょうけど。

箕田:
はい。

格谷:
Hipもdislocationがあるからですかね。

箕田:
抜けたらたらすごく不満足なんでしょう。

格谷:
そう,抜けるからでしょうね。

箕田:
膝ですごく嫌なのは,感染と,曲がりが悪いことですね。

格谷:
でも,これはもっともなデータですね。

箕田:
そうなんです。ですから膝も,チャレンジは必要ですけど,無謀なチャレンジは必要ないのではないかと思います。

格谷:
いつでもすべてのTKAの,そのチャレンジとかKAとかなんでも,Hipに負けるなというのがあるけど,最近のregistryでもあまり差がなくなってきたんで,そう負けてもいないということでいいんですよね。

箕田:
そうですね。そこまで躍起になってする必要ってありますかって最近ちょっと思うんですけど。

格谷:
全然ないと思います。チャレンジのなかで,僕が最近気に入らないのはKAだけなんですけどね。

箕田:
理論がないんですよ,全然。なんとなく自然な風に入れたら自然な感じがするって。

格谷:
美容整形に例えると何となく感じがつかめるのかと思うんです。綺麗になりたくて手術を受けるのに,“貴方の昔の顔が一番自然なんだからそれが良いんだ”と医者が勝手にいっているのと同じじゃないですか。さらにいえば美人の定義ともいえる(目標alignmentや靱帯バランス)もふらふらしていて,その主犯格がKAですよね。実はこのような目標の設定の合理性が一番の問題なんでしょうね。

付け加えればOAになる膝はOAになるような力学的環境にあったともいえます。ピサの斜塔は設計にミスがあって傾いたんですから,建て直すなら,なにも斜塔になるようしなくてもいいと思うんです。

箕田:
内反だから内反OAになるんですよね。もともと外反の膝って外反OAになるじゃないですか。

格谷:
だってそっちに荷重がかかるんだから。

箕田:
そうなんですよ。もとの状態に戻すのがいいのであれば,KAされる人がDDHのTHAするとき,Cupのalignmentやstemの前捻をもとの状態(DDH)に合わせて入れるのでしょうか? Cupの外方開角は大きく,ステム前捻も大きく,脱臼しますよね。

格谷:
だからOAになったような膝のalignmentをなぜそれほどリスペクトしないといけないのかと…。

本当に軽いのをやるのはそうかもしれないけど,それはUKAで対処したらいいということになりますよね。

箕田:
そうですね。

格谷:
最近Howellが(YouTubeで言ってましたけど),Mechanical Alignment(MA)以外で争ってますね。KAがいいのか,functionalがいいのかanatomicalがいいのか,MA以外のところでまた喧嘩しだして,あれもみているとおもしろいですね。

箕田:
そうですね。それで今, alignmentに関するReview Paperの執筆の依頼が日本人工関節学会の新しい英文雑誌(Journal of Joint Surgery and Research)からきまして,文献を網羅したので,一番,メチャクチャ詳しいはずなんです。とても大変でしたけど,調べるの(笑)。

格谷:
もう書きましたか?

箕田:
書きました。結局,調べたところではEvidence BaseでKAとMAですごく差が出てる論文はほとんどないです。

格谷:
でも,HowellやDossettの論文ではとても差が出ていますよね。

箕田:
そうなんです。

Howellは基本的にSingle-seriesだけなんです。Comparative Studyはほとんどないです。しかも初期の方法と今の方法は全く別なものです。それからDossettは,Howellの今のやり方ではなく,昔のPSIを使った群で....

格谷:
Otis Medですよね。

箕田:
はい。今,Howellがやっているやり方とは全然違うやり方なんですよ。それをやって同じコホートで2枚のpaperを書いてるんです。

格谷:
Dossettのfirst authorのやつですよね。あれはすごくKAの方が良いですね。

箕田:
6カ月と2年で出したんですかね。

2年のpaperがBJJ,JBJSのBr版に出ているんですけど,みんながいっていますけど,MAの成績が異常に悪いんですよ。

格谷:
そう,そうなんですよ。

箕田:
今まで見たことがないくらい臨床スコアの点数が悪いんです。

あれ2つがすごくいいので,Meta-analysisの結果をすごく引っ張るんです。
Meta-analysisも,PROMをやろうと思うといろいろなPROMがあって,KOOS使ったりKOOS Jr.使ったり,FJS使ったり,KSS使ったり,WOMAC使ったりで,いろいろなpaperがそれなりにあるんですけど,皆違う評価基準でやってるので。

例えばKnee Society Scoreだったら3つぐらいしかないとか,WOMACだったら5つぐらいしかないとか,reviewっていっても4つとか3つとか,下手したら2つしかなかったりするんですよ。

格谷:
はい。

箕田:
文献が2つでMeta-analysisっていってるんですけど,そういうとんでもないのがボーンと行ったら,その文献が引っ張るんですね,上に。

格谷:
そうでしょうね。

箕田:
なので,4つ論文があってDossettが2つを占めてしまい,それがガーッと引っ張るので,結局Meta-analysisすると p-valueが出るんです。

格谷:
ほとんどの報告でKAの方がいいというのは,あの2つの論文が引っ張っているからだと思っていました。

箕田先生,そういう信用できない?論文が全体の結論をゆがめている可能性がある事を雑誌に書いたらどうですか?

箕田:
reviewって淡々と書くだけなので。

格谷:
淡々と書かずに,感情的に書いていただきたいですね(笑)。
noteに感情的に書いていただいてもいいんですけど。

箕田:
それと問題は,同じKAでも,A先生のKAと,B先生のKAとC先生のKAでは違うんです。

格谷:
それはRestrictedとか…

箕田:
いや,同じKAでも違うんですよ。同じRestrictedでもRestrictedは角度でboundary(安全域)をもうけているんですけど,そのboundaryが5度の先生と,3度の先生と,7度と…

格谷:
7度はほとんどないのでしょうけどね。

箕田:
その問題があるのと,言葉の定義がかなり曖昧なんです。

Howellにしても,今やっているKAと昔のKAとで全然違うやり方なので。

以前はKinematic Axisに合わせてPSIを用いてインプラントを設置していました。kinematicなラインには全然合わせ込みにいかなくて,関節面に合わせ込みにいってるだけなので,kinematicではないんですよ。むしろanatomicalですからね。

terminologyがあまりにばらばらで,Restricted,Inverse,Modified,Functional……。

FunctionalでもKinematic Alignment FunctionalとMechanical Alignment Functionalっていうのが出てきて,それを比べているんです。

格谷:
なにかMechanical Alignment以外で比べ出したなあ,というが最近の印象です。仲間割れし出したなあと。

箕田:
そうですね。

あと,「3度で切ってます」っていうんですけど,本当に3度で切れてるの?っということもよくいわれています。ナビゲーションを使ってもロボットを使っても1度,2度くらい簡単にずれるじゃないですか。だから3度内反で切りましたって思ってるだけで,本当にそれが3度か検証しないと,KAと思ってKAに切れていない可能性もあるんですよ。

格谷:
そうですね。

箕田:
terminologyの問題もありますし,あとfunctionalになってくると靱帯バランスもちょっとみていって,靱帯バランス何度以内っていってますけどその何度の測り方を何で測っているかってことも定義されていなくて,まあ,手でキュッキュッってストレスをかけてやっているだけなんですけど,格谷先生が測る力と若いレジデントの先生が測るの力では全然違うじゃないですか。レジデントの先生のほうが力が強いんで当然広がるでしょうし…。

だから,terminologyと定義がバラバラすぎて比較しようがない。ただKAをやっている人が最近良くいうのが,2つComparative Studyをしているけれども,確かにに良くはないかもしれないけど,KAの方が悪いというのは少ない。一緒か少し良いっていうのが内反の人の主張ですね。この前アメリカに行った時も,内反やっている人がメチャクチャいいかどうかはわからないけど,とりあえずMAと一緒か,少しいいかなあと。

格谷:
先生は最近Insallのトラベリングフェローとしてアメリカ各地を周ってこられた訳ですが,アメリカもそういう感じですか。KAやっている人少ないでしょう?

箕田:
少ないですね。ただちょっと気になるんで内反に入れている人が多いんですって。

格谷:
それは上を甘くするの? 下を甘くするの?

箕田:
人それぞれですね。ちょっと味付けしてるのは。

格谷:
最近,内反で切っても罪の意識はなくなったから,もうそういう方向ですか。

箕田:
はい。そういう感じですね。 

総括すると,全体としてKAが全米的に受け入れられているかというと決してそうではなく,Howell自身への評価は???なところがあります。さらにMedial Pivot型のデザインと組み合わせてKAを推奨していますが,これが正しい方向性なのかは疑問があり,どちらかといえばメーカー主導のコマーシャリズムの影響が大きいように感じています。

格谷:
結局,僕が言いたいのは,Hipが膝よりいいということ自体も曖昧なところがあるし,かつ正しいアプローチとしては全体的に見て必ずしも確立されていないので,まあ,初めはMAのちょっと甘めの内反(大腿骨側をやや内反に。脛骨は90度)ぐらいをギャップテクニックでやるのが一番安全かな,と思います。

箕田:
インプラントをちょっと変えるぐらいで満足度があがるんだったら苦労ないな,と思うんですけど。もっと違うアプローチが良いのではないかと思うんですけど。

格谷:
UKAですか?

箕田:
いえ,僕が思っているのは,一つはリハビリテーション。例えば大腿四頭筋訓練などのリハビリとか,あとはexpectationが高いと満足度が減るので,その点をrealizeするような教育とかを考えています。

格谷:
expectationを下げるというのは,患者さんに過度な期待をさせないということですね。

栄養指導も含めた,術前患者指導ということですか?

箕田:
術前術後ですね。

格谷:
それはとても手間がかかりますよね。

箕田:
今,各企業が患者さんと医療従事者とをつなぐアプリを作ったりしているので,それを使うのもいいのではないかと。あとは,術前術後の不安感を取ってあげること。ちょっとくらい痛かったり,内側が突っ張ったり,音が鳴ったり,膝の皮切の外側の方も「感覚ないんです」とよくいわれるじゃないですか。そういったことは「問題はないです」と伝えて安心してもらうことも必要ですね。

格谷:
患者教育の一環として,正しい情報を与えることによって過度な期待を下げるほうが,メカニカルなことより必要で,もっといえば栄養も含めた全身的なアプローチも必要ということですね。その方がよっぽど大事かもしれません。

ところで,KAについての先生のreviewはいつ出ますか?

箕田:
多分,第1号に載ると思います。

格谷:
ではそれを見て,その紹介をしながら僕が感情的なnoteを書きますよ(笑)。

箕田:
僕は感情を押し殺して,無の境地で書きますので。

格谷:
「KA死ね」みたいのを僕が書きます(笑)。


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