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【第15回】2023年2月24日 ZOOM対談-2

格谷義徳 先生(阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター 総長)
箕田行秀 先生(大阪公立大学大学院医学研究科整形外科学 准教授)

格谷:
続いて,関節による差についてですけど,TKAのperformanceは,肩・肘・足には全然勝ってますよね。

箕田:
はい。

格谷:
で,股関節には負けるってよくいうけど,かつてのTKA Surgeonは「Hipに負けてはいけない」って意識がとても強くて,今でもそういう気持ちがあります。

箕田先生はHipも膝も両方されてますけど,仮にどっちかしかやってはいけないとなると,正直どちらですか?

箕田:
患者さんの喜び具合というか,外来での時間のかからなさでいうとHipの方があっさりしてらっしゃいますね。

格谷:
そうですか。

箕田:
X線撮って「何もいうことないです」というと「ああそうですか。ではまた来年」といって帰られることが多くて。膝もほとんどそうなんですけど,やっぱり膝のほうが外来に時間がかかる患者さんが若干多い印象があります。

格谷:
どっちかしかできない,となったら股関節ですか?

箕田:
とんでもない合併症は膝の方が少ないので,そういう意味では膝かもしれません。

格谷:
Hipは100点が多いけど,ときどき大変な患者さんが出てくると。

箕田:
そうですね。

格谷:
そのHipと膝の満足度に関してですが,昔,僕らが医者になった頃,Hipはdysplasia(形成不全)に対する手術が多かったです。若い頃から患っている患者さんたちです。でも,最近はどちらかというとDysplastic Hipが少なくなって,primaryみたいなHipが多くなってきました。そうなると満足度はHipがよくなっている気がします。症例的に。

箕田:
はい。

格谷:
ひどいdysplasiaで脚長差があることって少なくなったでしょ。そのへんもちょっと違うのかなあと…。

あまり学会ではいわれないけど,股関節の手術の対象自体が変わっているのではないかと。そんなこと,股関節の学会で言われていますか?

箕田:
言っている人もいるのかもしれません。何となくそういう雰囲気は感じてます。

ただ経験上,Crowe分類3とか4とかは減ってます。やっぱり出生時の股関節検診で早期治療されるようになったからでしょう。

格谷:
そうでしょうね。

箕田:
ただやっぱりDDH自体はあるので,CE角が10度くらいの人がだいたい70歳代くらいになると軟骨が削れてくる,とか。

格谷:
軽いdysplasiaが基盤にあってのOA? 本当のprimaryというのは今でも少ない?

箕田:
primaryはあまり見ないと思います。

格谷:
そうですか。最近,同僚の金先生の患者さんをみたら「結構primaryっぽいな」というのがありました。

箕田:
はい。はい。

格谷:
昔に比べたらやはりHipの症例が違うと思いますね。

箕田:
ただ,やっぱりCE角20度は切ってますけどね。

格谷:
ああ,20度はないんでしょうね。

箕田:
はい。15度とか17度とかっていう人が…。

例えばCE角が0度っていう人だったら,人生半ばで削れると思うんです。
CE角がマイナスだったら10歳代で症状が出てしまうんですけど。

10度くらいなら60歳くらい,20度弱であれば70歳くらいでそろそろ削れてくるかな,という印象です。

あとは,腰が曲がってきて骨盤が後傾します。本来はCE角が20度の場合に,骨盤が後傾すると立位でのCE角が10度くらいになってしまうんですよ。

それで一気に削れる人が多いですね,最近。

格谷:
膝はあまり股関節や脊椎との関係はいわないけど,Hipは脊椎変形ととても関係がありますよね。

箕田:
そうですね。

格谷:
20年,30年の長期成績を考えたときに,「これからこの患者さん,腰が曲がるんだ」と思うと理想のポジションはどこなんだ,ということになりますね。

箕田:
そうなんです。変わるんです。

格谷:
そういうことを論議されてるんですか。

箕田:
されています。

腰・Hip両方とも問題があるときは,腰を先にやった方がいいのか,Hipを先にやった方がいいのかっていうのは,5年,10年位前から論議されてたと思います。

格谷:
でも最近,おじいちゃんおばあちゃんに脊椎矯正やるじゃないですか。平気で。

箕田:
やりますね。それも見越したら本当に複雑なことになってきますね。

骨盤ってふわふわしているので,alignmentをいくら調整しても,Cupのalignmentは変わっていってしまうんですね。だから,最初は皆いろいろ考えていたんでしょうけど,最近は骨頭(ヘッド)が大きくなりつつあります,また。

一時,Metal-on-Metalで大きくなって,それがダメっていうので小さくなったんですけど,最近では,32mmだけでなく,36mmとか40mmとか結構使う人が増えてきてます。

格谷:
ポリエチレン(ライナー)はやっぱり4~5mmですか?

箕田:
薄いの使ってますね。みんな。

格谷:
そうでしょうね。クロスリンク・ポリエチレンだから大丈夫ということなんでしょうね。

箕田:
10年くらいは全然wear(摩耗)がないっていわれていますから,かなり薄いものでも10年はもつのではないですか。

格谷:
でも,人間てバカですから,喉元すぎればすぐ忘れますからね。

僕も金先生に「こんなに薄くていいんですか」ってよくいうんですけど。
またwearが問題になるのではないですか。

箕田:
また,行ったり来たり,ですね。

Metal-on-Metalの大きなヘッド使って痛い目にあって小さくしたのを忘れて,今,またどんどんどんどん大きくなってきていますね。

格谷:
また,痛い目にあうまで大きくなるんでしょうね。

箕田:
そうですね。で,また痛い目にあうと今度は小さくなるという…。

あとはアプローチが少しずつ変わってきたので。

後方の関節包を温存する前側方アプローチが広がってきています。後方アプローチでも後方の軟部組織を修復することで脱臼が少なくなってきています。

格谷:
先生は,Hipと膝と両方されていますが,腰椎変形と膝というのは当分考えなくて良いですよね。

だって腰が曲がってきても,膝を曲げて歩くだけで,屈曲拘縮が残っていてもいいし,だんだん屈曲拘縮してくるということですけど,今のところ脊椎と膝ってあまり問題になりませんよね。

箕田:
そうですね。OAのetiologyとかには関係があるのかもしれませんが,TKAそのものにはどうしようもないですからね。

格谷:
すごい腰が曲がっていて,膝を曲げて歩くおばあちゃんがいるじゃないですか。そういうおばあちゃんは完全伸展を目指さなくてもいいんじゃないかと思うときがあります。

箕田:
ありますね。

格谷:
完全伸展させても結局曲がってしまうだろうなと考えたら,一応真っ直ぐにしておいたらいいのかな,くらいに思っています。

箕田:
腰が曲がっている人も,staticでしか多分評価されていないと思うんですよ。立位の2方向のエックス線画像しか撮ってないじゃないですか。

格谷:
全身撮れる機械が大学にあるんじゃないですか? なんていう機械でしたっけ。

箕田:
EOSですね。

格谷:
大学にはありませんか?

箕田:
ないです。

EOSも結局staticなもので,「気をつけをしてください」といって背中を反らして撮るんですけど,おばあちゃんたちは普段はそうじゃなくて,腰を曲げて歩くじゃないですか。

格谷:
腰を曲げた状態では撮れないのですか。

箕田:
あまり見たことないですね。staticな評価しかしていないと思います。
dynamicな状態での評価というも今後は必要なのではないかと思います。

格谷:
高齢者社会になってきたら,脊椎と股関節はすごく関係があると思いますけど,膝までは,当分来ないんじゃないかと思うんですけど。

箕田:
ちょっと,まだ遠いんでしょうね。

(つづく)


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