【第14回】2023年2月24日 ZOOM対談-1
格谷義徳 先生(阪和第二泉北病院 阪和人工関節センター 総長)
箕田行秀 先生(大阪公立大学大学院医学研究科整形外科学 准教授)
格谷:
学会で発表したことって,すぐ忘れてしまうではないですか。
箕田:
そうですね。
格谷:
発表にあたってせっかく資料も調べるのに,シンポジウムでは時間に制限があるじゃないですか。ですから,学会の記憶が新しいうちに,自分の関係する媒体(note)に記憶として残しておくことは意味があるのではないかと思って,今回先生にお出でいただきました。
箕田:
はい。ありがとうございます。
格谷:
では早速,シンポジウムのプログラムを見ていきましょう。
格谷:
これが今回のシンポジウムだったんだけど,箕田先生,今回の学会の印象は全体的にどうでしたか?
箕田:
プログラム全体を見渡しますと,スモールグループ・ディスカッションなど若手医師を対象とした参加型のセッションや,Knee Implant Technology(KIT)研究会などDeepに掘り下げるセッションなど,さまざまな新しい試みがなされたのが印象的でした。僕は実際,色々なところで座長や演者で参加している時間が長かったので,残念ながら全体を見わたす時間がなかったので残念です。参加された若手の先生方に聞いてみると,とてもいい評価がなされていました。
格谷:
あまりにもみんなのdutyが多すぎて,オピニオンリーダーといわれている人はほとんど座長や演者となっていて,他の講演を聞けない状態でしたね。
箕田:
はい,そうでした。
格谷:
QUOカード(主催から講演後にもらうもの),先生は何枚もらいました?
箕田:
僕は3枚くらいでした(笑)。
格谷:
僕は4枚かな。
このシンポジウム「ここまできた!:TJAパフォーマンスの現場と課題」もちょっと詰め込みすぎて,消化不良のようなところも正直あったと思います。時間には限りがありますので。
箕田:
そうですね。
格谷:
「人工関節パフォーマンスの現状と課題」といっても,これなかなか難しいので,座長の松原先生と赤木先生も,シンポジウムの前から「まとまるかな?」と不安がっておられましたけど,実際はやっぱり難しかったですね。
ではまず,人工関節のパフォーマンスとは何か,ということなのだけど,僕の講演スライドを順番に見ていきたいと思います。
格谷:
人工関節のパフォーマンスっていうと,「痛みがないこと」,「支持性」,あとは「長期成績」だと思うんだけど,そういう意味でいうと,一番目の痛みと機能するという点にに関しては,ほとんどの人工関節は解決できていますよね。
で,箕田先生がHigh Performanceについていくつか話してくれましたけど,もう一度お願いします。
箕田:
僕はHigh Performance自体の定義が難しいと思ったんです。それで,High Performanceと思われる項目(Forgotten Knee, スポーツ活動,可動域,早期回復,長期耐用性)についてreviewしました。ただ人によって何を求めてるかって多分違うと思うんですよ。
格谷:
そうですね。
箕田:
たとえば80歳のおばあちゃんのHigh Performanceと60歳のおっちゃんのHigh Performanceって明らかに違うと思うんです。
格谷:
はい。
箕田:
同時にすべてを叶えるってなかなか難しくて,例えば五角形,六角形のレーダーチャートにするとなると,絶対どこかに偏ってしまうと思うんですよ。
格谷:
ああ,あの五角形のチャートね。
箕田:
ゴルフのドライバーでもあるじゃないですか。操作性とか打ち出し角度とかスピン量とか。それを基にどのレベルのゴルファーがどのドライバーを選択するか…
格谷:
年齢によって求めている形が変わってくるということですね。
箕田:
年齢もそうですし,患者さんが何を求めているか,例えばゴルフが好きな人とか,山登りしたいとか,走りたい人もいるでしょうし,あとは曲がりが重視できたらいいという人もいらっしゃるでしょうし…
格谷:
レーダーチャートで表すというのは一つのおもしろいやり方かもしれませんね。
箕田:
あなたはどれを重視したいんですかっていうことです。その極端な例が先日引退した,プロレスラーの武藤敬司選手だと思うんです。
格谷:
誰ですか?
箕田:
すごく有名なプロレスラーなんですが,数年前にTKAを受けたんです。
格谷:
そうなんですか。
箕田:
「武藤選手にTKAしていいの?」っていう感じがあったんですけど。テレビのドキュメンタリーでもやっていたんですが,とりあえず何年間かは選手生活を続けられれば,あとは歩けなくなってもいいと。プロレスをやめる=自分は死んだも同然だから,手術で引退が1年でも2年でも延びるんだったら,その後膝が潰れても構わないという覚悟でTKAをやって,実際それで引退を何年か延ばすことができたと思うんです。
格谷:
なるほど。
箕田:
もう,長期成績を考えたら最悪じゃないですか。
格谷:
そうですね。
箕田:
ただ,彼が自分の人生はそれでいいというのであれば,彼にとってはHigh Performanceかと思います。
また,1回しか手術したくないという人であれば70歳くらいまで待って,安定性のあるインプラントを入れれば,それもその人にとってはHigh Performanceですし,あとは曲がりたいということであればよく曲がるインプラントを入れてあげるのもHigh Performanceだと思います。
あと,例えば個人的には,階段の昇り降りするような作業したいっていう人は,まだそこまでevidenceはないですけどMedical Pivotを入れるとか。曲がりは5度から10度くらい落ちるかもしれませんけど。まあ,階段の昇り降りする人,特に下りは結構いいっていうのでそれを入れるのもHigh Performanceかもしれません。
あとは,UKAです。若くても,longevityは悪いんですけど,曲がりとか,早急に回復を考えるならHigh Performanceかもしれません。ただ,長期成績を考えるとそれはマイナスかもしれないんです。その人にとってのHigh Performanceに寄り添うのが一つの方法じゃないかと思うんです。
格谷:
レーダーチャートの形が変わるということですね。人によって五角形の形は違うから,それに合わせた治療を選択する必要があるということかと。
箕田:
そうですね。
格谷:
なんで五角形の形が変わるかというと,その人のキャラクターや人生における優先度が関係しますが,それ以上に,High Performanceのもう一個上のレベルの,「意識しない感覚」や「満足度」などとの間には,なんともいえないギャップがあるように思います。
箕田:
はい。
格谷:
五角形で測れるものって,多分パラメータで表せますけど,頭の中はどうかわかりませんよね。
例えば車を運転するときに,加速力とか,どれだけブレーキが効くとか,最小回転半径とかの数値はパラメータで表せるけど,運転していて楽しいか(drivability)は個人の好みじゃないですか。
箕田:
そうですね。
格谷:
それと似ているような気がします。その意味でForgotten Joint(意識しない)という考え方は,めちゃめちゃややこしいことを持ってきたような気がします。
格谷:
「意識しない」というのが,こういう感じで立っているのかもしれないし,もっと下までズボッと行っているのかもしれません。
非常に難しいと思うんですけど,どう思われますか。
箕田:
本当に意識しないといったら,もう本当の生体膝に近いものを作ってあげたら本当意識しなくなったりとか,正座できたり,スポーツもできたり無痛性もあったりするんですけど,格谷先生がKIT研究会でも話されたようにTKAって妥協の産物なので,ある程度どこかで妥協しないと…。
格谷:
そうすると,究極の意識しない関節となると摩耗も大きな問題になるし,生体としてもCharcot関節になるんじゃないかということですよね。
箕田:
そうですね。
格谷:
フィードバックがかからなくなると,生体にとっては絶対に悪いですね。長くもたそうと考えると意識してもらわないといけなくて,それって非常に難しい問題ですね。
箕田:
そうなんです。
格谷:
皆さんあまり考えないで,スキーとかやテニスとかスポーツしてますけど,そこまでやってはいけないのかもしれません。
意識しないっていうことがいいこととは思えないんですけど。
格谷:
満足度っていうことに関しては,また意識しないと別のレベルなんですね,もっと上位の“人生の価値観”みたいな物を含めてね。多分。スポーツしている人たちはすごく満足しているんだと思うけど,長期成績から考えれば良くないでしょうし。
この辺りがすごく難しいと思いますし,noteにまとめたいとは思ってますけど,こういうことを考えていると,何にも進まないんですよね。
箕田:
そうですね(笑)。
格谷:
この辺りは哲学的な話になりそうですけど,箕田先生,思うところがありますか。
箕田:
あくまで個人的な意見ですが,例えばLow Impactだったらいいっていわれてるじゃないですか。High Impactがちょっと長期成績に差し障るからやめときなさい,っていうのが一般的なコンセンサスだと思います。
High Impactができない患者さんが多いですけど,もしできちゃった場合にどうするかということですよね。患者さんに「やってもいいですか?」って聞かれることがTHAでもTKAでもよくあります。
医師の立場からすると,High Impactは長期成績に差し障るし,早く潰れるかもしれないので止めたいとも思います。でもそれをやりたくて,早く潰れることをわかったうえでやるのであれば,それを止める権利もないし,法的に縛ることもできません。
僕は患者さんに「潰れたら怖いけれども,骨母床が残っていたらrevisionは何とかなるので,とんでもないことにならないように半年から1年に1回は定期検査に必ず来るように」といっています。
格谷:
箕田先生,今のお話を車に例えるとwear(摩耗)とか耐久性って,タイヤが減るのと一緒ですよね。
箕田:
そうなんですよ。
格谷:
だから,High Performanceをしてタイヤが減るのも仕方がないし,減ったら減ったで変えたらいいじゃないかということにもなるかもしれませんね。何のために手術したの? といえば,自由に走り回りたいから手術したんでしょ? それなのにタイヤが減るのを気にしても仕方がないよね,っていうことを僕はよくいいます。
箕田:
はい。
格谷:
車の運転に例えると,この話はわかりやすい点があるかもしれません。さっきdrivabilityの話がありましたけど,車の運転とちょっと似てますね。実用車かスポーツカーかも含めてその人が何を欲しているかですよね。
もうひとついうと,運転が上手な人はタイヤを減らしませんよね。スポーツでも,上手な人はやってもいいけど,下手な人はやめといたほうがいいとよくいいます。
箕田:
そうですね。
格谷:
そこまでスポーツ活動を考えると,またこれが難しいんです。
確かにさっきの話のように,五角形のレーダーチャートでperformanceを表すのもおもしろいし,車に例えてperformanceを考えるのもおもしろい。いろいろアイディアが出てきたので,何かおもしろそうなことができそうですが,難しい問題もありますね。
箕田:
これはevidenceを取りようがないですからね。RCTができませんから。
格谷:
もう,RCTもevidenceもいらないんじゃないですか? 最近,自分でそう思ったらそれでいいんじゃないかという気になってます(笑)。
だから最近noteに連載を書いているんです。誰にもreviewされないから。論文出したらreviewされるし,reviewする人が自分より若くなってきましたし(笑)。
それは冗談としても,RCTとかできないですよね。
箕田:
そうなんですよ。こっちのおばあちゃんに「走り回れ,走り回れ!」,一方でこちらに「歩くな,歩くな!」とはできないですからね。Retrospectiveに見ることくらいしかできません。あとはExpert Opinionがくらいしかないですよね。
格谷:
今思えば,僕たちが手術を覚えたときはExpert Opinionが一番大事で,それしかなかったですからね。
箕田:
以前僕のところに再置換目的で紹介された患者さんですが,30歳代くらいのMental Retardationの方で,趣味がソフトボールっていう方がいました。
「しゃがめるし,キャッチャーもできます」と喜んでいってましたが,「最近,膝の調子悪いんです」っていっていて。インプラントが緩んでグラグラになっていて。
格谷:
何が入ってました?
箕田:
普通のconventionalのTKAでした。これはやっぱりいけないな,という状態だったんですけど。
格谷:
ここだけでも突き詰めたらnote 2,3回分にはなると思うので,がんばって書いてみようと思います。
(つづく)
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