不育症の治療方法②

不育症の治療法は、何度も言いますが流産率を上げる不育症や流産のリスク因子を少しでも減らすことです。それぞれのリスク因子ごとの治療法を解説します。
前回に続き、今回は「糖尿病や肥満」「免疫異常」「生活習慣」「女性の年齢」「原因不明不育症」を取り上げます。

糖尿病や肥満

妊娠前からの管理が重要

糖尿病や糖尿病予備軍といわれる耐糖能異常や肥満は流産のリスク因子になります(文献1)。肥満があれば妊娠前から適度なダイエットや栄養管理をすることも流産予防には重要です。
また糖尿病もしくは糖尿病予備軍であれば、妊娠前から糖尿病を専門とする内科による精査と治療が必要になります。

免疫異常

免疫異常の治療法は解明されていない?

妊娠において、半分男性から由来する受精卵を拒絶せずに受け入れる免疫状態(免疫寛容)になる必要があります。前述の通り、今までさまざまな免疫療法が原因不明不育症に対して臨床研究が行われ、明らかに効果がある治療がわかっていません(「流産は治療できる?」参照)。

ただ、免疫異常は妊娠に影響することはわかってきていますが、免疫異常に対する治療は効果がある報告とない報告とさまざまで、現在もきちんとしたエビデンスにはなっていません。

ビタミンD:免疫機構を調整してくれる

ビタミンDは、免疫機構を調節してくれる栄養素で、十分にサプリメントすると、異常に上昇したヘルパーT細胞であるTh1/Th2細胞比を正常に近づけてくれることがわかっています(文献2)。ビタミンD不足を認めるようなら、十分なサプリメントが必要です。採血で貯蔵型ビタミンDである血清25OHビタミンDを測定し、20~30 ng/mLと軽度低下している場合は、1日1,000IU(25μg)摂取、20ng/mL未満と高度に低下している場合は、1日2,000IU(50μg)摂取をお勧めします(「妊娠前からできること プレコンセプションケア②」参照)。


ヒト免疫グロブリン療法は妊娠前からなら効果がある?

免疫療法の臨床研究は、明らかに効果がある治療はわかっていないと伝えましたが、唯一ヒト免疫グロブリン療法というのが、妊娠後から投与しても流産予防に効果がないと多数報告されてきたのですが、妊娠前から投与することで流産予防に効果があるかもしれないということが報告されています(文献3)。また日本からは6回以上流産した既往がある女性では妊娠後から投与しても流産予防があることも報告されました(文献4

ヒト免疫グロブリン療法は高額!

ただヒト免疫グロブリン療法というのは非常に高額で、1回の治療で100万円以上かかる場合もあります。特に妊娠前から投与する場合は、妊娠するかわからないなかでこの高額な治療を行うことを一般的な流産の治療法とすることは難しいです。かつ人の組織に由来する製剤のため、輸血などのように安全性の問題もあります。

タクロリムス

私の施設では、ビタミンDでもコントロールできない免疫異常、特にTh1/Th2細胞値が高値の場合に、免疫療法として免疫抑制剤であるタクロリムス(プログラフ®)を用いています。その詳細についてはあらためてお話しします。

生活習慣

生活習慣の中の流産のリスク因子を改善することで流産率を少しでも下げることができます。将来生まれてくる自分の子どものことを考えて、もう一度生活の改善をしてみましょう。

喫煙:禁煙を目指しましょう

喫煙に関しては、女性は必ず禁煙してください。なかなか減らせない方は、病院で禁煙外来を行っている施設もありますので、一度受診して相談することをお勧めします。ご主人も禁煙・減煙をご検討ください。ご主人の副流煙によって流産率が増えることもわかっています(文献5)。喫煙は、妊娠にとって百害あって一利なしですので、妊娠を考えたらカップルで禁煙を目指してみてはいかがでしょうか?

アルコール,カフェイン:妊娠がわかったら摂取をやめてください

アルコールやカフェインの摂取は、適度であれば妊娠前は問題ないです。無理に飲むことを中止してストレスがあるくらいなら、むしろ摂取して構いません。しかし、妊娠がわかった後は必ず中止してください。アルコールは妊娠すると悪阻(つわり)もあるためか、自然と飲みたくなくなる方も多いですし、今はノンアルコールのビール(正確には全く0%とは言えないものもありますが)やデカフェのコーヒーもありますので、それでぜひ我慢してください。

ストレス:気分転換は大切です

ストレスも流産のリスク因子です(文献67)。ただ「ストレスを感じないようにしてください」と言ってもストレスを突然なくすことは無理です。流産した女性をみると、私もいつも胸が締め付けられます。妊娠の喜びとその後の流産の悲しみで、時間が経過しないと流産によるストレスを無くすことはできないのかもしれません。流産した後に何か月も来院ができなくなってしまう方もいます。
流産したあとは何をしていても将来の妊娠のことで、頭がいっぱいになってしまうかもしれません。もしかしたら、姑さんから「孫はいつなの?」とプレッシャーを受けているかもしれません。そんなことは気にしないでください。ご主人に言ってそんな姑さんは黙らせてください。
あまりにも不妊治療や不育症治療で頭がいっぱいになっているようなら、気分転換も大切です。運動してみるのも良いですし、旅行をしてみるのも良いと思います。適度ならお酒も良いと思います。

「流産をくりかえす人の85%が無事に出産までたどりつきます」

ただ知っておいてほしいことが3つあります。
1つ目は、流産の約8割は胎児の染色体異常によるもので、その胎児はもともと生まれてくる前に亡くなる運命なのです。
2つ目は、妊娠した後はインターネットで妊娠にかかわる情報を見ないでください。インターネットはいろいろな情報がありますが、妊娠後に関してうまくいっている方はあまり書き込まないと思います。むしろ流産した方が書き込みます。そういった書き込みを見ると自分もまた流産するかもしれないという気持ちになります。
わからないことがあれば、ぜひ担当の産婦人科医に相談してください。
3つ目は、流産をたくさん経験していても、きちんと治療すればそのほとんどの方が出産できます。

厚生労働省の不育症研究班のポスターをみてください。「流産をくりかえす人の85%が無事に出産までたどりつきます」、まさにそのとおりです。不育症の方のなかには、妊娠した後に、自分が流産するんじゃないかと怯え不安になってしまう方も多いと思います。そんなストレスが流産率を上げてしまう可能性があります。妊娠しても気楽にいつもどおり過ごすことも大事です。
この3つのことを知っておいてください。

女性の年齢

年齢とともに流産率が上がるため、少しでも早く妊娠・出産を目指してください

女性の年齢は、前述の通り年齢とともに妊娠率が低下し、流産率は上昇します(「年齢は妊娠にどのくらい影響するの?」参照)。

不育症の女性の年齢とその後に出産成績についてまとめた報告があります(文献8)(図)。

年齢が30歳未満であれば、5年で80%以上の女性が出産できていますが、30歳を超えると60~70%へ減少し、40歳以上になるとわずか40%しか出産できません。
流産を繰り返しても、85%の方が出産できると厚生労働省のポスターでもありましたが、私の臨床研究のデータでも、出産までたどり着けないで終わってしまう方の多くは、40歳以上の高齢の女性です(文献9)。今まで自然に妊娠していたとしても、40歳を超えると女性の流産率は40%を超えるため、積極的な不妊治療、特に体外受精で少しでも早くで妊娠・出産することを目指してください。

40歳以上では着床前スクリーニング(PGT-A)を検討してください

また年齢に伴う流産率の上昇は、卵子の老化が関係しています。そのため、現在は体外受精で受精卵の染色体異常を確認する着床前スクリーニング(Preimplantation genetic testing for aneuploidy: PGT-A)という方法があります。受精卵の将来胎盤になる細胞の一部を採取し23対46本あるヒトの染色体の数の異常を見る検査です。前回解説した着床前診断(PGT-SR)と手技は同じですが、区別されます。
PGT-Aを行い染色体数が正常な胚を子宮内に移植し妊娠をした場合、流産率は年齢に関係なく10%弱になります(文献10)。もともと流産率の低い若い女性ではメリットはほとんどありませんが、40歳以上と高齢で体外受精まで進む場合には、検討すべきです。
ただPGT-Aは保険適用がなく高額になることと、行うことのできる施設とできない施設がありますので、行いたい場合は病院でよく相談してください。

原因不明不育症の治療法

プロゲステロン療法が効果的な場合があります

不育症や流産のリスク因子がない場合は、前述の通りプロゲステロン療法で、流産予防ができる場合があります(「流産は治療できる?」参照)。

プロゲステロンの投与は、排卵後から妊娠12週まで推奨されています(文献11)。臨床研究では腟から投与する天然型プロゲステロン腟錠が用いられていますが、内服薬のジドロゲステロンというプロゲステロン製剤(デュファストン®︎)は比較的良好な流産予防効果の報告があります(文献12)。

参考文献

1. Metwally M, et al. Reproductive endocrinology and clinical aspects of obesity in women. Ann N Y Acad Sci. 2008;1127:140-6.

2. Ikemoto Y, Kuroda K, et al. Vitamin D regulates maternal T-helper cytokine production in infertile women. Nutrients. 2018;10(7):902.

3. Wang SW, et al. The effect of intravenous immunoglobulin passive immunotherapy on unexplained recurrent spontaneous abortion: a meta-analysis. Reprod Biomed Online. 2016;33(6):720-36.

4. Yamada H, et al. Intravenous immunoglobulin treatment in women with four or more recurrent pregnancy losses: A double-blind, randomised, placebo-controlled trial. eClinicalMedicine. 2022;50:101527.

5. Venners SA, et al. Paternal smoking and pregnancy loss: a prospective study using a biomarker of pregnancy. Am J Epidemiol. 2004;159(10):993-1001.

6. Li W, et al. Relationship between psychological stress and recurrent miscarriage. Reprod Biomed Online. 2012;25(2):180-9.

7. Sugiura-Ogasawara M, et al. Depression as a potential causal factor in subsequent miscarriage in recurrent spontaneous aborters. Hum Reprod. 2002;17(10):2580-4.

8. Lund M, et al. Prognosis for Live Birth in Women With Recurrent Miscarriage What Is the Best Measure of Success? Obstet Gynecol. 2012;119(1):37-43.

9. Kuroda K, et al. Novel approaches to the management of recurrent pregnancy loss: The OPTIMUM (OPtimization of Thyroid function, Thrombophilia, Immunity, and Uterine Milieu) treatment strategy. Reprod Med Biol. 2021;20(4):524-36.

10. Harton GL, et al. Diminished effect of maternal age on implantation after preimplantation genetic diagnosis with array comparative genomic hybridization. Fertil Steril. 2013;100(6):1695-703.

11. Coomarasamy A, et al. Micronized vaginal progesterone to prevent miscarriage: a critical evaluation of randomized evidence. Am J Obstet Gynecol. 2020;223(2):167-76.

12. Kumar A, et al. Oral dydrogesterone treatment during early pregnancy to prevent recurrent pregnancy loss and its role in modulation of cytokine production: a double-blind, randomized, parallel, placebo-controlled trial. Fertil Steril. 2014;102(5):1357-63.e3.

 

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