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働き方ノート Vol.13 藤原圭史先生

専門クリニックの少ない郊外で
下肢静脈瘤と痛みで悩んでいる
人のお役に立てると思い、
愛知県・岡崎市に開業しました。

おかざき足の血管外科・痛みのクリニック院長

藤原圭史

■ 仕事編

画像下治療・放射線科医を目指したきっかけ、
仕事のやりがい

 私は金沢大学出身なのですが、当時も現在も放射線科は人数も多くとても活気があります。当時は肝臓の画像診断・IVRで有名な松井 修先生が教授で、今の教授の蒲田敏文先生や、過去には眞田 順一郎先生というIVRのトップの先生など、学生の中ではスターのような先生方がたくさんいらっしゃいました。
 そこで放射線科に興味を持ち調べていたところ、ドクターネット創業者(現 宇都宮セントラルクリニック院長)の佐藤俊彦先生の「だから放射線科医はおもしろい!次世代医療を担う若き医師、そして医学生へ(現代書林)」という本に出会いまして。是非直接お話を聞いてみたいと思
い、巻末に載っていた佐藤先生のメールアドレスにご連絡させて頂いたところ快く会って頂き、画像診断や働き方についてお話を聞き、放射線科医になろうと決めました。もともとIVRに興味があったのでまずは手技をできるようになって、年齢を重ねて手技が難しくなったらハワイで遠隔画像診断をしながら生きて行こうと軽く考えていました(笑)。 でも、最初はIVRは全然下手くそで。人生で初めて施行したCVポート留置術で気胸になり、患者さんや当時の上司のみなさんには大変ご迷惑をかけました…。

下肢静脈瘤の現状

 下肢静脈瘤は日本人の10人に1人は発症すると言われ、とても有病率が高い病気です。
 しかし専門的に診る事ができる医師は少なく、そもそも何科に行けばいいかよく分からないと言われます。下肢静脈瘤は遺伝性が非常に高く、患者さんから、「私の家族も下肢静脈瘤があります」といったお話もよく伺います。
 東京などの都会には専門クリニックがたくさんありますが、岡崎などの郊外にはほとんどなく、自分でもお役に立てるかもしれないと思い開業させて頂きました。

岡崎で開業した理由

 私は、岡崎の隣の市にある安城更生病院という病院で、初期研修をしました。三河地方には大きな病院が、安城更生病院、刈谷豊田総合病院、岡崎市民病院の3つあり、当時その3病院は常軌を逸した忙しさだと言われておりました。毎回の当直は部活の走り込みの前のように憂鬱でしたが、そもそもこの地方は医療機関が足りていないのではと感じていました。
 初期研修後は関東と大阪で修業をして、地元の愛知で開業するとなった時に、どこで開業するかすごく迷いました。実は名古屋駅前も候補だったのですが、当時の三河地方の印象が強く、医療機関が足りていなくて困っている人がたくさんいるのではないかと思い、岡崎で開業する事に決めました。

クリニック 受付カウンター

超音波検査に力を入れている理由

 整形外科領域では今、超音波診療が診療革命と言われています。超音波を用いる事で診断だけでなく、超音波ガイド下に「治療」を行う事ができるからです。今までの整形診療ではレントゲンを撮影して異常がなければ痛み止めを処方して帰すパターンが多かったのですが、レントゲンでは骨しか見えません。一方、超音波を用いると、骨はもちろんのこと腱、靭帯、神経、脂肪組織、皮下組織も見えるので、情報量がとても増えました。よって、今まで見えていなかった、痛みの原因なども可視化できるようになったのです。また、痛みは神経からくることも多いため、超音波でダイレクトに神経を狙うハイドロリリースという手技を含め質の高い治療を行う事ができます。
 整形外科学会も超音波診療について多数のセッションが行われています。30~40代の若いドクターが中心となり様々なセッションで積極的に講演し、後進の育成に励んでいます。とてもいいシステムが出来上がっているので整形外科の若手でエコーを勉強したいという人は多く、放射線科にも是非こういったシステムがあればいいなと思います。

痛み診療について(モヤモヤ血管を中心に)

 モヤモヤ血管治療はオクノクリニックの奥野先生が考案した治療法で、僕は4年前からオクノクリニックに在籍させて頂き、この治療を実施しています。もちろんうまくいかないケースもありますが、今まで治療が難しかった患者さんが治るのを目の当たりにしており、とても価値のある素晴らしい治療の1つだと思っております。論文作成にも力を入れており、昨年CVIRに論文がPublishされました。今も別の論文を執筆中です。

クリニック 診療室 超音波検査を使って診断・治療を行います

開業されてから思う事

 たくさんのご予約、問い合わせを頂きありがたいのですが、同時に、改めて下肢静脈瘤と痛みで困っている人が多いのだと感じます。初診はなるべく話を聞きたいと思い、診療時間は長め(とはいえ15分ですが)に設定しております。これまでの経過が長い患者さんは治療歴もお伺いしますし、患者さんからも、カテーテルをこのクリニックで出来るのか等、沢山の質問をお受けするので説明に時間が必要になります。
 ですが、当院で診療するまで病名が分からなかったという人も沢山いらっしゃいます。病院ですと先生方も忙しいですし、命に直結するような病気でもないので、「膝下が痛くて、だるくて、むくみが強いです。足もぼこぼこしていて」と症状を伝えても、「弾性ストッキング履いておいてよ」と言われることが多いと患者さんから伺います。ですが、これを積極的に治療することによって、足の症状もかなり 取れますし、副次的ですが見た目も良くなり、患者さんに とっての満足度もかなり高いです。

適切な治療にご案内するために心がけていること

 治療も日々アップデートされているので、まずは勉強する事が重要だと思います。例えば、一口に肩関節周囲炎といっても色々な治療法があります。それを身体所見や画像所見などもあわせてベストな治療法が異なりますから、自分の経験や他の先生方の意見も鑑みながら選択していきます。
 ただ、どうしても自費の治療は費用がかかりますので、患者さんによっては医療的に適応でも社会的、経済的な理由から適していない場合もあります。
 また、これは開業スタイルの話になってしまうのですが、当院は駅前ですが小さなテナントで開業しています。仮に大きくクリニックを作ってしまうと、経営上の損益分岐点が高くなってしまいます。そうするとある程度ノルマのようなものが発生してしまい、もちろん値段が高くてもベストであればいいのですが、場合によってはあえて高い治療を勧めることや、患者さんにベストな治療法を選択できないケースもあるのではと思っています。私は郊外でかつできるだけ小さく始めて、損益分岐点を小さくすることで、診療中はできるだけ経営の事から離れて診療を行うようにしています。

コロナ禍で変わったこと

 仕事でいえば打ち合わせなどあらゆる事がオンラインで出来るようになり、良い面もあったように思います。
 ただ、情報収集においては学会に行って実際に施術した先生のお話を伺うことが一番良いとも考えます。先日、北海道で行われた日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(通称JOSKAS)に参加し発表もしたのですが、その中で何人かの先生とお話をさせて頂いて、「治療の効果はどうなんですか」、「こういうパターンの時はどのようにやっていますか」等じっくりと伺うことが出来ました。Webで講演を聴くだけでは得られない情報を得られたことから、改めて現地で学会が開催出来ることのメリットを感じました。
 また、人と直接会いにくくなったことや、海外旅行に行けなくなったことは残念に思います。

クリニック 手術室 ゆったりと施術を受けていただけます

ある一日のスケジュール

6:40 起床。
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7:20 上の子供を学校に送る
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9:00 仕事(おかざき足の血管外科・痛みのクリニック、時に宮田整形外科・皮フ科や遠隔読影も多少) 
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20:00 夕食・晩酌
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12:30 午前の診療終了。コロナ禍で密を避けるために、食事は院内で分散して摂ります。私はMRIの操作室で、自作のおべんとうを食べます。当院は介護施設を併設しているため、頼んでおけば1食300円で給食を食べることもできます。昼休みが1時間30分あるので、その間にノートパソコンで仕事をすることもあります。短いゲラはPDFで来るので、テザリングでネットに繋ぎ、ゲラを受け取って校正し、昼休みのうちに戻すことも。
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22:00 ラグビー観戦(TV か Jスポーツ)
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23:00 就寝
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■ プライベート編

 私には、6歳と2歳の子供がいるのですが、朝は上の子供を小学校までバスに乗せるか、直接送り届けるところから始まります。その後仕事に行き、遠隔読影も少し行っています。また、整形外科医である妻の勤めている、宮田整形外科・皮膚科でも時に働いています。
 帰宅後は夕食時、リフレッシュに家族とお酒を飲むことが多いです。夕食後、テレビでラグビーの観戦をすることもあります。休日は子供と遊ぶことも多いです。子供の成長は早いので、一緒に過ごす時間を出来るだけ大切にしたいなと思っています。

趣味

 ラグビー観戦やサウナに行くことが趣味です。ラグビーは自身でもプレイしていて、ポジションは、高校時代はスクラムハーフ、大学時代はスタンドオフかフルバックでした。サウナについては最近のブームに乗った感じなのですが、ドクターの友人に誘われたことをきっかけに通うようになりました。外気浴がすごく気持ちよくて、その後のビールが最高です。忙しくなかなか行けない時もありますが、月に1~2回は行きたいなと思っています。

■ 藤原先生に聞きたい!

学生時代にやっていてよかったこと

 部活動での経験は今でも自分の中で生かされています。高校に入学し、小学校の時にしていたラグビーを久々にやってみたいと思いラグビー部に入部しましたが、想像以上にキツくて。めちゃくちゃ怒られましたし、当時まだ体ができていなかったので、辞めようと思ったことが何回もありました。ですが、辞めずに 3年の秋まで続けることが出来ましたし、その経験があったからその後の辛い状況を乗り越えてこれた気がしています。大きな結果を出す事はできませんでしたが、自分の中で一生懸命やり切った思いが強かったので、「あの時やり切ったから今回もやり切れるな」と自信がもてるようになりました。
 また社会に出て思うことは、医者になっていれば学歴等は気にしないですし、結局は人間力やコミュニケーション能力、「この人と一緒に仕事をしたいな」と思われることの方が圧倒的に大事だと思います。そういったことは生まれ持った気質も大きいですが、後天的には部活動などで養われる事が多いと思います。部活動はプラスアルファの課外活動ですが、人間育成の場だと考えます。

大学ラグビー部時代のお写真

不安や葛藤

 不安や葛藤は無いわけではないのですが、意識的に楽しみながらやろうと心がけていますね。まあ大丈夫でしょと楽観的に様々な事に取り組んでいます。

今後の展望

 まずはクリニックが安定して軌道に乗るように頑張ります。あとは費用が掛かりますが、自前の血管造影室を持ちたいと思っています。現在は提携病院の血管造影室をお借りしているのですが、場所が離れることや患者さんのアクセスが悪くなってしまう点、自分の持ち物ではないので自由が効かないというデメリットがあります。
 また、できるなら名古屋駅周辺にもう一つクリニックを作ってみたいです。メディカルツーリズムを強化して、アジア圏など海外の患者さんが治療を受けれるようなクリニックにしたいです。
 僕は漠然と海外への憧れがあり、海外の人との繋がりも持ちたいと思いツイッターを始めました。英語で投稿することにより興味を持って頂き、多少ながら海外の人とも繋がっています。日本の医療技術は世界と比べても遜色ないと思いますので、海外の人にも治療を受けてもらえる仕組みができるといいなと考えています。それは、ずいぶん先の話になりますし1人では難しいので、仲間作りも必要です。もし「Rad Fan」をご覧の方で整形超音波や下肢静脈瘤に興味がある方は是非当院のHPの問い合わせフォームからご連絡頂ければと思います。非常勤医師募集中です(笑)。丁寧に教えますし、勤務時間も子育て中の方も働きやすいと思います。

これから放射線科医を目指す方に向けて一言

 仕事、楽しいですよ。扱う疾患も1つではないですし、全身を診られて飽きがこなくて面白いと思います。今後、放射線科IVRがどうなるかわかりませんが、少なくとも低侵襲化の流れは止められないですし、整形外科医がIVRをしているという話でもそうですが、IVRに関してはあまり放射線科という枠組みに縛られずに物事を考えるといいのではと思います。
 また、科の選択だけでなく、重要な選択をする際に知っておいて欲しい事ですが、「大事な事は頭で考えてはダメ、どっちが楽しいかで決めなさい」という事を漫画「宇宙兄弟」のシャロンに教えてもらいました。なんでかわからないけどカテ室に入ったらテンションが上がるんだよね、そんな直感的な理由で決めた方が実は正しい選択だったりすると思いますし、実際僕はそんな理由で決めています。

IVRの専門医として今気になるトピック

 IVRの世界では今、GAE(膝のカテーテル治療)がトピックになっていて、 論文、いわゆるエビデンスと言われるものは膝が一番多いです。奥野先生の運動器カテーテル治療の論文が世界初の報告なのですが、日本の新臨床研究法により新しい薬剤・治療の研究で高いエビデンスの研究をするのは至難の業になっています。これはあくまで予測で個人的見解なのですが、海外で運動器カテーテル治療のRCTなどを行い、そのデータを日本に逆輸入し、国内に広がっていく形になるのではと思っています。データが認められ保険診療になれば、費用負担が下がり患者さんにとっては喜ばしいと思いますので、国内外問わずデータが蓄積されるのはいい事だと思っています。

この先取り組んで行きたい事

 医師という仕事は続けていきたいですがその他には、もっと医療系のスタートアップとつながりを持っていきたいと思っています。現在も2社、出資させて頂いていますが、1つがUbie株式会社で、流行りの医療×テック系の企業でAI問診やポータルサイトの運営をしています。こちらはシードラウンドの早い段階で出資しました。もう1つは神経難病の課題を解決しようとしているGene Therapyという株式会社遺伝子治療研究所です。医療における課題を解決している企業を積極的に応援していきたいですし、自分自身も関わっていければと考えています。

お仕事をする上でのこだわり

準備をしっかりすることを大切にしています。

尊敬している人

 素敵だなと思う先生は沢山いらっしゃるのですが、この人のようになりたいという特定の方はいません。その人達の良い所を少しずつ盗んで自分のオリジナリティーを出していけたらと思っています。

「make it count」
映画「タイタニック」で有名になった言葉ですが、「それを価値のあ るものにする」ということで「今を大切にする」という意味です。10 年後まで見据えて考える、といったことをよく耳にしますが、私は今 までの人生でそこまで長期的に物事を考えた事はありません。この 度の開業も突発的に決めた事です。これだけテクノロジーが進歩 しているので、10年後の未来がどうなっているかを予想するのは 困難だと思います。それよりは目先の事に集中して今を大切に生き る事が重要だと思っていますし、そうありたいと考えています。

おかざき足の血管外科・痛みのクリニック ホームページ
https://okazaki-varix-pain.com/
〒444-0838 愛知県岡崎市羽根西1丁目6−4

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