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経営危機の医療機関、「新型コロナ専用病院」は光明を見出すカギになるか


新型コロナウイルス感染症(COVID-19・以下 新型コロナ)によって、医療機関の経営が悪化しています。感染を恐れた患者の受診控えや、新型コロナ対応のために医療機関が病床数を減らしたことによって、収益の柱である外来や入院が落ち込み、検査や手術が減少したことが原因です。
とくに、新型コロナ患者を受け入れた医療機関の減収が顕著になっています。コロナ禍の収束に向けて、最前線で努力を重ねるほど経営が悪化するという悪循環に出口はあるのか、今後の展望を探りました。


■「新型コロナ受け入れ病院」は月1億の赤字

2020年8月19日、日本医師会は72病院に対して行ったアンケート調査「新型コロナウイルス感染症の医師会病院経営への影響」を発表[1]。新型コロナ患者の入院を受け入れた病院(以下「受け入れ病院」)の、厳しい経営状況が明らかになりました。

〔受け入れ病院の経営状況〕
・3月~6月の医業収入(対前年同月比):-10.8%(全体平均:-8.3%)
・3月~6月の医業利益率:-24.6%(受け入れていない病院:-9.7%)
・1病院1ヵ月あたりの赤字額:1億980万円(受け入れていない病院:2010万円)

また、8月6日に日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会の3団体が共同で行なったアンケート調査結果は以下です[2]。やはり厳しい結果になりました。

(2020年6月の経営状況データ)
・受け入れ病院の赤字率:82.1%(受け入れていない病院の赤字率:60.8%)
・院内感染などで病棟閉鎖を行なった病院の赤字率:82.9%

これに先立って5月に行われた記者会見[3]で、全日本病院協会の猪口雄二会長は「新患や救急外来が減ると、まず急性期病院の経営が悪化し、その影響が次第に回復期リハビリ病院や慢性期病院にも及びんでいく」と説明。経営悪化が広範囲に及び、状況が長期化することを懸念していました。


■「医療報酬3倍」の特例だけで経営難を脱するのは困難

政府は特例的な対応として、重症患者に対する診療報酬を3倍に引き上げました[4]。これにより、もっとも点数の高い「特定集中治療室管理料1」(7日以内)は平時の1万4211点から4万2633点に。集中治療室(ICU)で重症患者を診ると、42万6330円の報酬が得られることになります。

しかし、先述の通り「受け入れ病院」の1ヵ月あたりの赤字額は1億円を超えています。診療報酬の引き上げだけで、経営難を克服するのは困難なことは明らかです。日本医師会の松本吉郎常任理事は「緊急性のない手術の延期や新型コロナ患者受け入れのために病床数を調整していることが、病院全体の収入に大きく影響している。診療報酬だけの対応では難しい」と、引き続き政府に支援を求める考えを示しました(8月19日の定例記者会見より[5])。


政府も静観しているわけではありません。8月28日、新型コロナウイルス感染症に関する今後の取組」[6]を発表。軽症・無症状者については宿泊療養や自宅療養とし、重症者に医療資源を集中させる方針を打ち出しました。新型コロナ患者を受け入れた医療機関に対してさらなる支援を行うことなども明記されています。これが具体的にどのような内容になるのか注目したいところです。

新型コロナの終息までにはまだ時間がかかりそうです。WHO(世界保健機関)は、世界的流行があと2年未満で終息するとしていますが、依然予断を辞さない状況です。こうした現状を見るかぎり、短期的な支援策では根本的な解決に結び付きそうにありません。「感染症に強い国と医療体制をつくる」といった、長期的かつ大きなビジョンに基づいた施策が求められるでしょう。


■台湾を手本に「新型コロナ専門病院」の設置を

医療機関の経営危機を克服する方法として考えられるのが、新型コロナ専門病院の設置です。そこに新型コロナの患者を集中させれば、それ以外の医療機関における感染リスクが低下し、受診を控えていた患者が戻ってくることを期待できます。

東京都医師会の尾崎治夫会長は「都内で言えば、少なくとも500床の病院を4つ、計2000床の新型コロナ専門病院を『都立』でつくってほしい」と、自治体が役割を担うよう訴えています(「AERA」8月24日号)。
同医師会の猪口正孝副会長は「専門病院が患者をいったん受け入れ、病態に応じて他院に転送するバッファ的機能を担わせることで、スムーズな患者の振り分けが可能になる」と、医療現場の混乱解消へ期待を寄せました(7月10日の記者会見[7])。

これは新型コロナ専門病院で一括して患者を診て、重症の場合はICUなどの治療環境が整った感染症指定病院へ、中等症の場合は重点医療機関へ、軽症・無症状の場合はホテルなどへ搬送するという考え方です。こうした体制を確立できれば、個別の医療機関で受け入れるよりも迅速な対応が可能になるわけです。

8月7日、小池百合子東京都知事は新型コロナ専門病院を2ヵ所(計約200床)開設すると発表[8]。うち1ヵ所で、中等症程度以下の患者を受け入れるとしています。

新型コロナの封じ込めに成功した国や地域のひとつとされる台湾では「応変病院」(急な変化に対応する病院)が、大きな役割を担ったといいます[9]。平常時は通常の病院で、非常時に病棟または病院が丸ごと感染症専門に切り替わる仕組みです。

台湾は2003年にSARS(重症急性呼吸器症候群)の流行を経験し、これを教訓に感染症対策が強化されました。そこでは政府が強力なリーダーシップを発揮するなど、日本と事情が異なる点も少なくありません。この仕組みをそのまま取り入れるのは難しいかもしれませんが、成功事例として大いに参考にすべきでしょう。

参考:
[1]新型コロナウイルス感染症の医師会病院経営への影響
[2]新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査
[3]全日本病院協会会長 記者会見
[4]新型コロナウイルス感染症患者の受入れに係る診療報酬上の特例的な対応について
[5]日医定例記者会見 8月5・19日
[6]新型コロナウイルス感染症に関する今後の取組
[7]「新型コロナ専門病院」を都立か公社が担ってほしい
[8]東京都「コロナ専門病院」2か所開設へ 9月以降、約200病床確保
[9]台湾におけるCOVID-19対応

■著者プロフィール 
長濱慎(ながはま しん)
都市ガス業界のPR誌で約10年、エネルギー・環境分野のオピニオンリーダーへのインタビュー、全国各地の事業者の取り組みについて取材執筆を担当しました。現在は医療ライターの修行中です。医療は人々の生命と健康を守る大切な分野なので、緊張感と使命感を持って伝わる記事を執筆したいと考えています。


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