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コロナ禍の医療現場はもう限界!いま我々ができること、政府ができること

終息の気配が見えない新型コロナウイルス感染症(COVID-19/以下 新型コロナ)。東京都では、1日あたりの新規感染者が1000人を超える日も珍しくなくなりました。

危惧されていた医療崩壊も現実化し、もはや医療従事者の「自助」だけで困難を乗り切れないことは明白です。では私たちは、どのような「共助」によって医療現場を支えるべきなのか? あわせて国や自治体による「公助」のあり方についても考えました。

医療現場を支える「共助」は基本的な感染対策の徹底

私たちが医療現場にできる「共助」とは、これ以上感染を広げないこと。そのためには一人ひとりが、以下の3つのことを徹底する必要があります。

1.手指消毒、マスク、三密回避により、体内へのウイルスの侵入を防ぐ。
2.不要不急の外出や旅行を控え、人から人への感染を極力封じる。
3.機会があればPCR検査を受け、自分が感染していないかを確かめる。

今さら言われるまでもないことかもしれません。しかし医療現場の負担を増やさないために現時点で考えられる最善策は、これらの「当たり前」を徹底するしかありません。何よりも医療従事者がこのことを望んでおり、日本医師会も基本的な感染対策を呼びかけています【1】。

一方で「新型コロナは風邪と同レベル」、「日本人は感染しにくい」、「うがい薬で重症化を防げる」といった噂も耳にします。しかし、それらに根拠はなく信憑性に欠ける情報です。

最新の研究によると、新型コロナの致死率はインフルエンザの約3倍【2】と言われ、軽症から重症化して命を落としたり、回復しても後遺症が残るケースは多く報告されています。

Twitterでは「#感染したから伝えたい」というハッシュタグが立ち上げられています。そこで語られている切実な声を聞くかぎり、安易に侮れるウイルスでないことだけは確かです。

ワクチンや治療薬が普及するにはまだまだ時間がかかり、変異種の存在も明らかになるなど、新型コロナを巡ってはまだ予断を許さない状況が続きそうです。エビデンス(根拠・証拠)のはっきりしない情報に惑わされず、医療従事者や専門家の言葉に耳を傾けるのが賢明でしょう。

医療崩壊の要因は専門医の「分散」にあった

医療崩壊とは、必要な医療を必要なタイミングで、必要とする人が受けられないことです。新型コロナ病床がひっ迫したため、重症化した感染者が自宅待機のまま亡くなるケースも相次いでいます。実はこうした悲劇の原因は病床数(ベッド数)の不足でなく、新型コロナに対応できる専門医の「分散」にあると指摘されています。

日本の病床数は世界的にみると、むしろ多い方です。

●急性期病床数(※1):人口1000人あたり7.79床で、OECD(※2)加盟国平均(3.6床)の2倍以上【3】。
●重症の新型コロナに対応可能なICU等の病床数(※3):人口10万人あたり13.5床で、アメリカ(34.7床)、ドイツ(29.3床)に次ぎ、イタリア、フランス、スペイン、イギリスを上回る【4】。

※1 急患など一刻を争う治療や応急措置、手術を行うための病床。
※2 経済協力開発機構。先進国および一部の新興国を含む37ヵ国が加盟。
※3 ICU(集中治療室)、 HCU(高度治療室)、 ER(救急救命室)のいずれかを備える病床。

しかし病床という「器」があればよいわけではありません。重症化した新型コロナの治療には、人工呼吸器やECMO(エクモ・人工心肺装置)を取り扱える知識や技術を持った「人」が必要です。

2020年12月に発売された書籍『医療崩壊の真実』【5】の中でも、こうしたノウハウのある集中治療専門医が複数の病院に分散し、本来のパフォーマンスを発揮できないでいることが医療崩壊の要因になっていると指摘しています。

同著では、東京都内でICUなどの設備を備え、集中治療専門医が在籍している41病院について調査し、このうち15病院には、1名しかいないことが明らかになりました。このほかに、設備はあるものの専門医が不在の病院も19院ありました【6】。とてもではありませんが1名では対応できず、重症患者が増えたら受け入れを断るしかありません。

また、受け入れた病院では専門医が必死に治療にあたりながら、なんとか持ちこたえているケースも少なくありません。看護師も防護服で身を固め、トイレに行く時間も惜しんで対応するなど、大変な負担を強いられています【7】。

だからといって「もっと多くの病院で受け入れて、大人数でケアすればよい」というのは現実的ではありません。設備や人材などのノウハウがない民間病院では、新型コロナ患者を受け入れること自体が高いハードルです。

それがたとえ軽中等症であっても、院内感染を防ぐための導線確保や病床のゾーニング(清潔・汚染区域との区分け)、対応に当たるスタッフのトレーニングなど多くの準備が必要だからです。場合によっては、新型コロナ患者以外の受け入れを停止しなければなりません。

こうした背景を無視して、患者を受け入れない民間病院に医療崩壊の責任を転嫁する声も聞かれます。今必要なのは誰かへのバッシングよりも、分散した医療資源を集中させる方策を建設的に考えることではないでしょうか。

「公助」で感染症に強い国づくりのグランドデザインを

国は緊急事態宣言が出された1都3県の病院に対し、新型コロナ患者を新たに受け入れた場合1床あたり最大1950万円を補助する方針です【8】。

国や自治体による「公助」として、こうした金銭的なサポートはもちろん欠かせません。それと同じぐらいに重要なのが「医療崩壊しない医療体制づくり」や「感染症に強い国づくり」のビジョンを示すこと。新型コロナは、日本の医療が抱えるさまざまな問題点を浮き彫りにしました。

●「新型コロナ専用病院」のような、感染症に特化した医療拠点を設置する必要性。
●「地域医療構想」(※4)に、感染症対策をどのように盛り込むか。
●感染症に対応できる専門医やスタッフの配置をどうするか。
●感染症が発生した場合、医療機関に対する国や自治体の命令権限はどうあるべきか。
●地域における感染症対策の要を担う保健所の統廃合(※5)は適切だったのか。

こうした課題を解決し、制度設計などのグランドデザイン(全体構想)をつくるには、国や自治体の力が必要です。新型コロナの封じ込めに成功したと評価される台湾やニュージーランドでは、国が強力なリーダーシップを発揮しました。ニューヨークは1日2万人近い感染者を出しながらも、アンドリュー・クオモ知事の号令のもとで医療崩壊が食い止められているといいます【9】。

新型コロナを受けて閣議決定された「新型インフルエンザ対策特別措置法」および「感染症法」の改正案には、入院を拒否した感染者への刑事罰や、受け入れに従わない病院名の公表が盛り込まれています。しかし罰則よりも先に、議論することがあるはずです。

※4 高齢化時代に適応すべく、2025年を目処に地域の医療機関の役割分担や連携の仕組みを再構築する構想。
厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000080850.html

※6 全国の保健所数は469(2020年現在)、800以上あった1990年代の半数近くに減少。
全国保健所長会HP  http://www.phcd.jp/03/HCsuii/

「自助」「共助」「公助」のパートナーシップで解決の糸口を

医療崩壊を食い止める第一歩は、私たち自身が感染しないよう「自助努力」することです。しかし新型コロナの感染ルートは完全に解明されておらず、自助だけではどうにもならないケースもあります。

エッセンシャルワーカーなど、感染リスクの高い環境で働かざるを得ない人もいます。私たちの誰もが新型コロナに感染する恐れと、医療従事者のお世話になる可能性があるのです。感染してしまった人を非難するのは無意味です。

今求められているのは、感染者が排除されず、医療従事者が孤立しない「共助」の仕組みをつくること。そして、国や自治体の「公助」によるバックアップが必要です。「自助」、「共助」、「公助」の三者が連携して支え合った先に、コロナ禍を克服する道筋が開けるでしょう。

【1】日本医師会HP「国民のみなさまへ」
https://www.med.or.jp/people/info/people_info/009162.html

【2】Health Day「COVID-19の致死率はインフルエンザよりもはるかに高い」(2021年1月11日)
https://consumer.healthday.com/b-12-18-covid-19-is-far-more-lethal-damaging-than-flu-data-shows-2649775789.html

【3】OEDC Data Hospital beds
https://data.oecd.org/healtheqt/hospital-beds.htm

【4】厚生労働省医政局「ICU等の病床に関する国際比較について」
https://www.mhlw.go.jp/content/000664798.pdf

【5】『医療崩壊の真実』(渡辺さちこ・アキよしかわ著/MdN新書)
https://shinsho.mdn.co.jp/books/3220903020/

【6】同著第3章 P.131~ P.138

【7】毎日新聞(2021年1月12日 東京夕刊)日本赤十字看護大名誉教授・川嶋みどりインタビュー「看護師軽視しないで」
https://mainichi.jp/articles/20210112/dde/012/040/019000c

【8】日本経済新聞(2021年1月8日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODF0847H0Y1A100C2000000

【9】テレビ朝日ニュース(2021年1月17日)
https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000204347.html

■著者プロフィール
長濱慎(ながはま しん)
都市ガス業界のPR誌で約10年、医療機関の省エネやBCPへの取り組みを取材し、地域の生命と健康を守る医療の大切さを認識しました。引き続き「すべての人を幸福にする医療」の実現に向けて、地域包括ケアシステムやPHRなど、新しい社会に求められる医療の仕組みを、利用者目線に立って伝えていきたいと考えています。

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