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十二人の怒れる男(1957)感想: 90分で分かる議論の進め方

十二人の怒れる男を観ました。Prime Videoでの平均評価は驚異の☆4.8。
高評価を裏切らない見事な作品でした。


概要

少年が父親を殺した容疑で罪に問われる裁判が終わり、判決は無作為に選ばれた12人の陪審員に委ねられることになりました。有罪で一致すれば少年は死刑が決まり、無罪となれば少年は解放されます。真夏の蒸し暑い一室に12人の成人男性が集められ、事件の犯人が少年か否かを話し合います。

良かった点

上記に記載の概要で90分が経過します。裁判の内容や事件当時の再現映像も無し。ただ男たちが部屋に集まって話をするだけなのに、90分が一瞬に感じるほど引き込まれます。
議論は最初に予想される展開とは違った動きを見せていきますが、各登場人物の持つ意見の相違が熱意を持って表現されているのは見事です。12人が12通りの考え方や思惑を持っており、議論が進むにつれて柔軟に思考を変えて行く様も素晴らしい。
映画が公開された当時の社会情勢を思い起こさせるようなシーンは多くありませんが、社会規範や偏見等は少ないながらも登場人物の背景説明に効果的に作用しています。
物語の面白さもさることながら、議論の進め方も洗練されています。司会者が立てられ、各陣営は自身の考えを発表する時間を平等に与えられ、意見の変更を確認するための投票も適宜開かれます。円滑な進行のために脱線が防がれたり、建設的な意見のため例外で意見の差し込みを認める等、会議で必要とされる技術が詰め込まれています。
多数決ではなく全会一致の原則に則って話し合われるため、全て現代の話し合いに応用できる訳ではないですが、こうしたテクニックが映画という手段で巧みに表現されている点には脱帽です。

気になった点

良かった点にも書きましたが、映画の内容は殆ど議論で終わるため合わない人には退屈に感じると思われます。実際に会議が始まるまでの10分余で寝てしまう人がいても驚きはありません。
途中で場面が切り替わることも話が停滞することもないため、途中で止めてしまうと集中力を削がれる可能性があります。観始めたら一気に全て観てしまう事をお勧めします。

最後に

60年以上も前に撮影された映画ですが、伝えたいメッセージは現代でも強く心に残ります。むしろ今の方が適用される事象が多くなっているようにも思います。
ネタバレになるので議論の中身は詳しく書きませんが、インターネットの普及やSNSの流行に際して見落とされがちな「推定無罪の原則」を強く思い起こさせてくれる映画でした。
今では誰もがSNSで勝手に陪審員になれる時代です。自分の意見を発信して誰かを傷付ける前に、脳内で話し合いの場を設けてもいいかもしれません。

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