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【テーマ:台湾総統選挙の結果について、台湾人に聞いてみた】政治を気軽に語るオンラインカフェ「コーヒー・ハウス」2024年1月15日の話題まとめ

メディアージは、政治への関心、知識がある人もない人も、気軽に話し合えるイベント「コーヒー・ハウス」をリアル・オンラインで開催しています。

今回は、以前から台湾の方が「コーヒー・ハウス」に参加してくれていたご縁もあり、1月15日に実施された台湾総統選挙と、台湾立法委員選挙の結果について、オンラインでつないで台湾人の方にいろいろ聞いてみようというテーマで開催しました。
大変興味深い話を沢山伺うことができましたので、記録として残しておこうと思います。

なお数名の台湾人と、数名の日本人(仙台在住)が今回の「コーヒー・ハウス」に参加しましたが、その中で誰の発言だったかは、わからないように記事をまとめています。
(記録・編集:メディアージ漆田)

なお会話の流れを詳細にまとめた記録、正確な発言の記録ではありません。
備忘録としてご覧ください。


◯アイスブレイク

台湾からの参加者の雑感

  • 就職したが、学生時代に比べると、政治に関する周りの情熱が減ったように感じる。周りの人と、あまり政治の話をしなくなった。

  • 今回の選挙は、面白い結果になった。

仙台からの参加者の雑感

  • 日本の選挙はだいたい日曜日に投開票が行われるが、台湾の選挙は土曜日にやるんだな、と思った。韓国は平日にやると聞いたこともあるし、国によって実施する曜日が異なる理由が気になった。

  • 宮城県に力晶積成電子製造(PSMC)が進出することもあり、宮城県民の台湾への関心も高まっているのではないか。
    →半導体は、環境負荷がそこそこかかる(汚染はそんなにしないが)。
    →あと、半導体は給与がいいので他の産業がぼろぼろになる

◯台湾の政治情勢についての整理

台湾の政党について

  • 現与党の民主進歩党、通称「民進党」(カラー:緑)は台湾独立を目指し、野党の中国国民党、通称「国民党」(カラー:青)は中国共産党との交流拡大を目指している。

  • 台湾の二大政党といえば、国民党と民進党だったが、今回は新しい政党、台湾民衆党、通称「民衆党」が存在感を増し、三つ巴の選挙になった。

台湾の政治機構について

  • 台湾の体制は、日本よりもアメリカなどに近く、元首を国民が直接選ぶ大統領制(台湾では「総統」と呼ばれる)。

  • 議会は一院制で、「立法院」と呼ばれる。

  • 1月13日は、総統選挙立法委員選挙の両方が実施された。

◯台湾人参加者による、今回の選挙の3つのポイント

  1. 【三党不過半】
    …立法院(日本の国会にあたる)で、三党とも過半数を獲得できなかった

  2. 【40%鉄板基本】
    …台湾内における、民進党の鉄板支持層は、40%程度と推測される。

  3. 【第三政党】
    …台湾の歴史上稀に見る、影響力のある第三党が登場、ただし今後失速の恐れもある。

◯台湾の選挙の歴史的な経緯について

  • かつて国民党政権が続いていた時代は、メディアを開放しなかったり、様々な弾圧もあった。

  • その後2000年に最初の民進党政権・陳水扁総統になっても、腐敗などいろいろなトラブルが起こった。

  • 台湾人は最初の民進党政権に失望して、国民党に再度チャンスがまわってきた。しかしその結果はまた失望だった。

  • そういった選挙と政権交代の繰り返しで、今に至っている。

  • 国民党も民進党も信頼できない、どちらの党の支持層でもない「中間有権者」というグループがでてきた。その層が徐々に増えてきている。

◯立法院の過半数割れについて

  • 今回、総統選挙では民進党の頼清徳氏が勝利したが、立法委員選挙では定数113に対していずれの政党も過半数を獲得できなかった。

  • それだけでなく総統選挙で勝利し引き続き政権を担うことになった民進党は51議席、野党の国民党は52議席でねじれが生じ、第三党である民衆党が8議席を確保しキャスティングボートを握ることになった。

  • 国民党も民進党も、民衆党の顔色を伺わないと立法院の運営に支障が出る状況になったが、どちらも新しい政党である民衆党のことは警戒している。

日本の視点

  • 日本から見ている限りでは、もっと民進党が勝つと思っていた。

◯各党の鉄板支持層について

民進党

  • 民進党が総統戦に3回連続(2016年、2020年、2024年)で勝利したのは台湾史上初めてだったが、今回(2024年)の頼清徳候補の得票率は40.05%に留まった。

  • 民進党は、前回総統戦に負けたとき(2012年)も得票率は41.55%あり、今回は勝利したにも関わらずそれを下回ったことになる。
    (参考: Wikipedia 中華民國歷任總統得票率 ※繁体字版 日本語なし)

  • この「およそ40%」という割合が、民進党の鉄板支持層と言えるのではないか。

  • 2016年、2020年の蔡英文氏の得票を参考にすると、16%ぐらいの無党派層(中間有権者?)が民進党に投票していたということになる。

国民党

  • 国民党は2016年が過去最低の得票率で、31%を記録しているので、このあたりの数字が鉄板支持層だと仮定できる。

  • 今回は国民党の侯友宜候補の得票率も33.4%なので、二大政党のどちらも、ほぼ鉄板支持層の得票しか得られていないのではないか。

無党派層(中間有権者)の流れ

  • どちらの政党も信頼できないという層の票が、かなり民衆党に流れたのではないか。

  • その結果として、民衆党の柯文哲候補は今回26.46%の得票率を記録した。

◯質問:国民党は大陸から追われた立場であるにも関わらず、なぜ今は中国に近い立場を取っているのか。

歴史的な経緯

  • 第二次世界大戦後に、中国国内の内戦に破れた中国国民党の蒋介石は、多くの党員(中国人)を連れて台湾に逃れてきた。

  • つまり現在の台湾には、先祖の代から(5世代以上)台湾に住む人と、蒋介石とともに台湾に来た人がいる。

  • 前者は「私は台湾人」、後者は「私は中国人」と称する事が多く、両方のルーツの人が混在していることになる。
    (編者注:なお両者とは別に、台湾島には先住諸民族もいる)

  • その中で様々なトラブルも起きてきた。

  • なお前者の人は増えているが、後者の人は少しずつ減ってきている。

  • 中国国民党と中国共産党は、政治的に対立していて内戦もあったが、同じ国(中国)の仲間という意識もあるということ。

  • 台湾は戦前日本に編入されていたので、元々住んでいた台湾人たちは日本の教育を受けていた。

  • しかし中国本土からやってきた人たちが、戦後台湾の統治者層になった。

  • 実際のところ、台湾の民法や土地関連、都市計画関連の法律などは、日本のそれと似ている。

  • (参考:Wikipedia 台湾問題

余談:日本の状況との対比

  • (台湾人からみた考察)日本は地方の人口がどんどん減っているのに自民党が強いままなのは何故か。
    それは日本は代議士制(間接民主制)だからという事情も大きいのではないか。

  • もし台湾も代議士制だったら、いまのような結果にはなっていないかもしれない。

  • 最近日本では「ゴールデンカムイ」という漫画が流行ったが、北海道には内地から多くの日本人が移住した、そうなってしまうとアイヌの人たちの民族的な独立は難しい状況になる。
    台湾の場合は、もともと台湾にいた人のほうが人口的に多かったので、それとは異なる状況にあるのかもしれない。

◯第三の政党、民衆党について

前段:これまでの台湾の少数政党と、台湾民衆党

  • 台湾の政党は、これまでにも何度か分裂したことがあった。しかし、これまで国民党から分裂してできた政党は、あくまで民進党とは敵対していた。
    そしてそれらの政党は、いずれも台湾の歴史の中で勢力を維持することができなかった。

  • 一方、2019年に台湾民衆党を立ち上げた柯文哲氏は、民進党と国民党どちらにもすり寄らず、微妙にこすることぐらいしかしなかった。
    どちらからも独立して、透明さをアピールしたし、どちらとも手を組みうる立ち位置だった。

  • 台湾の「中間有権者」は、まさにそういった立ち位置の政党を欲していた。今回の選挙は、民衆党にとっては非常によい結果だった。

  • しかし、今後もバランスを取り続けることは非常に難しいのではないか。これからが正念場だと思う。

日本のメディア等を通じて、民衆党はどう見えているか

  • どちらかというと民進党に近くて、しかし独立を目指していない、穏健な党に見える?

  • 一方で、日本の報道では、国民党と同じく中国に融和的な政党と紹介している番組もある。

  • 民衆党はポピュリズム政党じゃないか、という見方もあるが。

質問:民衆党はどういう政党なのか?

  • もともと民進党の政治家だった方が、今回民衆党から立候補するケースも多くあった。

  • 実際のところ、民衆党はさまざまなテーマを持っている。経済、国際問題、軍事……。
    テーマによって、民進党や国民党と組むかどうかケースバイケースで決めるとのスタンス。

  • 党首の柯文哲氏は、元医者で、大学病院の先生。
    台北市長選挙では無所属の民進党支持で当選したが、市長になってから民進党を裏切り、対中友好路線をとった。
    「私は緑(民進党)より緑」と主張したこともあるが、その後、だんだん青く(国民党寄りに)なってきた。

  • 2024年の選挙では、当初国民党と手を組むかと見られていたが、揉めて、自ら立候補。結果、国民党側からも裏切り者と思われている。

  • 現状は柯氏にとってはチャンスだが、相当警戒されている。
    国民党と民進党は、手を組んで民衆党を消滅させようとするのではないか(そうしないと自分たちが危ういから)。

  • 民衆党は、まだまだ金もない、人材も揃っていない。
    なぜなら、二大政党に行き場所がないような人しか、柯氏と手を組もうとしないから。
    企業も民衆党にはお金をだしづらい。

◯質問:中国の選挙介入について、日本でも報道されているが、台湾の人たちは実際どのように認識しているか。

日本でも他人事には思えない。

  • もし実際にディープフェイクが流通したら、見抜けない人がたくさんいるのではないか。
    →日本の場合、どちらかというと災害時などに悪質なデマが出回る事が多い。

  • 日本でも選挙のとき、ディープフェイクではないが相手陣営に対する嘘まみれのゴシップが飛び回っている。マスコミ宛にも真偽不明のタレコミを流すよう、けしかけられることがある。

  • 日本では国家を二分するような話題がそもそもないから選挙が盛り上がらないが、台湾の人たちは、若い人たちが選挙のスキルを磨いている?

フェイクニュースは見抜けるか

  • 常に「誰が発信しているか」を気にしているか。なるべく気をつけるようにしているし、そうでない人もいる。

  • まさに今フェイクニュースが出てきている最中なので、気づいていないまま影響を受けている可能性はある。

  • 「誰が発信しているか」という情報だけでは足りず、その「who」がどこかからお金をもらっているか、など……すべてを把握するのは難しい。

  • マスメディアはそれは嘘でしょ、と止めることができる(できないこともある)が、ネットは歯止めがきかない。

  • ファクトチェック活動は台湾にも日本にもあるが、客観的な見方をしている、という立場は両方から嫌われる。
    実際のところ、日本にもそういう団体は複数ある(あった)が、なかあか活動が継続できていない。
    そしてまた、こういったサイト自体も100%は信頼できない。

  • 「私はフェイクニュースに影響されているかも?」と自覚がある人なら大丈夫かもしれない。
    とはいえ実際のところ、全ての情報を精査するのはとても疲れる。

◯質問:今回の選挙は、中国との関係の他に、経済政策が争点となっているという日本の報道もあったが、実際はどの程度影響したのか。

(民進党政権が経済政策に弱いという報道もあるが、)そもそも台湾のGDPは落ちていない。

中国に近づけば経済がよくなったのは、昔の話?

  • 2008年より前は、中国と仲良くなれば台湾経済がよくなるという傾向はあった。

  • しかし最近はそうでもない。国際的に中国とアメリカの関係性もあるし、中国の中でビジネスがやりづらい面もあるし、中国に進出した台湾人の会社は、台湾に戻る流れもある。

  • 今はアメリカや日本やいろんな国と交流があるので、国際的にはアメリカと仲良くなったほうが経済的によいかなと思う。

  • 要素が多すぎて一言では言い切れないが、リスク分散の視点から、中国に集中するのは避けたいという考えもある。

どんな争点があったのか

  • 一方、この8年間の民進党政権に対して、パワハラ、セクハラ、証拠隠蔽、汚職などいろいろなニュースがあった(その中には、フェイクニュースが混ざっている可能性も否めない)。

  • 一定数、政権交代を期待する空気はあった。

◯台湾人は選挙への関心が高いのか?

台湾人の本音

  • 台湾人は、金さえあれば政治には関心持ちたくない!?
    政治に関心を持つのはあくまで身を守るため。
    4年に一度、これからの未来を考えるチャンス。

  • 投票率は、今回低い方だった。

  • お金があれば海外に移住する?? 戦争になるかもしれないし。
    香港や中国の人も実は……?
    (参考:実業之日本フォーラム - 「中国人の中国離れ」で遠のく習政権の強国復権の夢

  • 現実的な話、政治家は遠い存在。
    家族友達が幸せならそれでいいが……でも現実的には無理。

  • 中国という果実、世界分散という果実、どちらを選ぶか。

  • 台湾に中国との関係性の問題がなかったら……もっと他の政治の話もできたのだろうか?
    あるいは逆に、こういう課題が眼の前にあるからこそ、熱心に政治に関心がもてるのか。

  • 台湾国内でも少子高齢化とか、家賃が高いとか、いろんな問題がほかにもある。

日本は平和だから投票率が低い?

  • 日本は、選挙にいかなくていいぐらい平和? それは本当にそうなのだろうか。
    30年間ろくに経済成長もしていないし、地方やばい。
    多くの日本人が危機感を持ってないことに、不安を感じる。

  • いや、それは日本だけではなく、台湾も地方やばいです。
    政治システムと関係なく、どこの世界でも地方はやばいのではないか。
    →ヨーロッパ諸国には、地方に活気がある(=経済や資本が分散している)国もある。

まとめ

今回の台湾の選挙は、総統選の結果だけを見れば(中国からの独立を目指す)民進党が政権を維持したが、実際は立法院においては与野党が逆転して国民党が第一党となっており、また台湾史上稀に見る影響力のある第三党として、民衆党が台頭してきたことにも注目しなければならない。
一方で、フェイクニュースなど民主的な選挙を脅かす様々な出来事もあった。
中国との関係性をめぐる与野党の駆け引きは、戦後の歴史的な経緯が複雑に絡み合っており、日本も決して他人事ではない。

一方、政治への関心が低く政治的な課題が山積している日本は、台湾から何を学べるか。
台湾は民主的な体制存続のリスクがあるから投票率が高く、日本は身に迫る危機がないから投票率が低い、ということのままで良いのかどうか。
どちらの国にも、少子高齢化や地方の人口減少、エネルギー問題など課題は山積しているはずなのに、有権者や政治家の関心がなかなかそこに目が向かないという意味においては、似たような状況に陥っているのかもしれない。

終わりに

今後も「コーヒー・ハウス」では、様々なテーマを取り上げ対話の場作りを行ってまいります。

ぜひ皆様も気軽にイベントにご参加ください。内容に関する質問や感想も歓迎です。

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