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【特集・前職候補者の「今期の業績」を見てみよう!】軍師とスポークスパーソン:ベテラン議員の次のステージは?―宮城5区・安住淳候補

投票には、選挙運動での信条や政見・政策や人物の経歴を踏まえた「未来の選択」の要素とともに「過去の業績評価」という側面もあります。
今期、衆議院48期に宮城県の前職衆議院議員はどんな活動をしていたか。役職などの目に見えるだけの経歴だけではなく、それがどんな内容を持つのか、国会での活動や政党での活動の実際や実態も考慮しながら、政策だけにとどまらない、その政治家の個性も含めた政治家全体としての活動を、公的な情報に基づきながら振り返ろうとするものです。

今期の各候補者の業績や活動を振り返るこの企画【リンク先は記事一覧】。二人目は、宮城県の衆議院議員のなかでは最も当選回数を重ねる、立憲民主党所属の安住淳氏です。

おことわり

・文責・著作権は、筆者(池亨)に属します。また評者の所属先にも一切関係しません。
・資料協力:海辺の図書館 庄子隆弘さん
・本批評は、特定の候補者への支持投票を呼びかけるものではありません。

宮城県第5区 情報

宮城5区には他に、自由民主党公認・森下千里候補が立候補しています。森下候補について知りたい方は、ぜひ動画インタビューを覧ください。

なお安住淳候補は、メディアージが複数回申入れを行った独自インタビュー、ボートマッチについて、一切返答をいただくことができませんでした。

野党第一党の国会戦略を司る「軍師」として

 2017年衆議院議員選挙時のいわゆる「希望の党」騒動による民進党の「空中分解」という混乱の中で、財務相経験のある重鎮として旧民主党系の一体性への配慮からか、最初は立憲にも希望側にも所属せず、しばらくは「無所属の会」という会派で活動されていました。国会で2019年に立憲民主党に入党、国会対策委員長となります。
 この「国会対策委員長」という役職、一見国会の公的な役職のように受け取ってしまいがちですが、各政党の私的な役職のひとつにすぎません。とはいえ、国会でどの法案を通すか、どのように政府与党側と妥協するか、あるいは野党側の要求を飲ませるか、という高度な駆け引きや取引の最前線に立つ重要な役職です。

 同じ立憲民主党で最初に国会対策委員長を務めた辻元清美氏はこのように述べます。「与党と野党の駆け引きは、囲碁や将棋の世界と似ているのでしょう。国会法や衆議院規則や先例集などのルールに従い、互いに何手も先を読み合い、石や駒を取り合いながら、盤面をつくっていく。時に花を持たせることはあっても、最後は大局で勝つために死力を尽くす。」(東洋経済オンライン2021年1月11日記事)
 そうなると、安住氏のような国会を熟知したベテランの役割は、野党の戦略づくりにおいて大きくなるといえるでしょう。いわば国会という戦場における「軍師」の役割です。就任時に自民党側から「やりにくい。押したり引いたりしながら裏をかかれる」という声が上がったと指摘されています。また民主党時代に一時対立したとされる小沢一郎氏からも「彼は大したもの。現実の政治を知って動いている」と評されているといいます。(経済界ウェブ2021年8月23日最終更新記事https://net.keizaikai.co.jp/54399)
 さらに、「一強多弱」のなかで、バラバラになった野党を、野党第一党の国対委員長として、各野党の国対委員長とのあいだでそれぞれの要求をまとめながら、与党と対峙していく役割も担うことになりました。ご本人いわく「次の総選挙まで野党をいかにまとめるかが私の結果責任」と。この結果責任が問われる総選挙になるわけです。

スポークスパーソンとしての立憲・野党連合の「顔」

 「軍師」は通常表にみえないところで暗躍するイメージですが、安住氏にはもう一つの「顔」があるといえます。立憲民主党や「野党連合」の主張を、国会審議を通じて広く世論に訴えかける、あるいはマスメディアの質問についてコメントするスポークスパーソン(広報者)としての役割です。
 政府であれば通常これは官房長官の仕事です(与党自由民主党であればナンバー2の幹事長がこれにあたるかもしれません)。立憲民主党は旧民主党にあったシャドー・キャビネット(影の内閣)のしくみを持っていないため、影の官房長官はいません。実質的に野党連合を戦略的に率いる国対委員長安住氏が実質的なスポークスパーソンになっているところがあるといえます(「55年体制」下の自社の馴れ合いのなかではこういう形で国対委員長が表に出ることはそうありませんでした)。

 このことを象徴的に示した出来事が、国会での「新聞記事論評張り出し」でした。
 図らずも、「国会」対策だけでなく、野党の言い分を伝えたいという思いにかられて、「世論」対策を気負うからこそ、野党質問を取り上げた新聞社を褒め、与党を大きく取り上げた記事を載せた新聞社に悪態をついてしまうという行動に出てしまったのかもしれません。この出来事は党の内外から大きな批判を受けました(ご自身はその後反省の意を表されています)。

 政治家とマスメディアの間にはつねにお互いに緊張があり、相互の批判がかかせません。ご自身もNHK記者出身ですからその辺もおわかりだろうと思います。「広報官」たりうるため、またいずれまた政権を担おうとすれば、メディアとの距離感や情報発信の仕方が問われることになるでしょう。昨今も自民党総裁選のテレビ・メディアでの集中報道や、共闘を組む共産党への事実に反する発言に対してのいらだちを示していました
 そのただでさえ立場上不利な野党がその「公平性」「事実性」をBPOに訴えるなど問題にするのは大いにありです。ただ、「(番組を)チェックするのは良くないが、暴走されたら国民を扇動する暴力装置にテレビがなりかねない」という牽制発言の言葉づかいは(事実に反する発言がもととはいえ)意味の正確さを欠きます。本来、暴力装置(ドイツ語でgewaltにあたる)は軍隊や警察などの国家権力による物理的強制力の機構を指す言葉です。仮に「不当」とはいえ、言論は言論です。
 相手の報道内容をチェックし、苛立ちをこういう発言でぶつけるよりどういう形で有効な反論やアピールを組み立て伝えるかの広報戦略に意を用いるほうが生産的でしょう。

政策面では財政・金融が専門――地域のあり方や国民生活とどう結びつけるか

 こうして「軍師」と「スポークスパーソン」の側面が今期では大きくクローズアップされる安住氏ですが、もとは民主党政権期に40代で財務相を務め、財政・金融分野を政策のフィールドとしていました。当初の混乱と国対での多忙を極めた今期の議員活動のなかで、数少なくはありますが安住氏によって行われた国会委員会での質問が、基礎的財政収支(プライマリー・バランス)の黒字化をめぐる問題と地銀再編をめぐる問題でした。

 このときの質問は、基礎的財政収支の黒字化を求める趣旨でした、この基調は政権担当時から変化していないように見えます。現況の経済情勢下、またマクロ経済と国民福祉のあり方をめぐって、いま黒字化が目指されるべきなのか、立憲民主党が進めようとしている現在の政策とどのように関連するのかははっきりせず、ぜひご本人に聞いてみたいところです(震災復興時の財源確保は過去の実績としてはわかりますが、「これから」がやや見えにくいのです)。

 また地域での「お茶飲み会」や「座談会」がライフワークとのことですが、党幹部としての多忙、また「コロナ」の状況で、なかなか頻繁には開催されていないようです。
 主な発信手段はWebサイトと、登録者しか見ることができないLINE公式アカウントに限られているようですが、SNSなどを利用して、地元有権者(とくに若年〜中年層)へ向けて、上記のような課題について安住さんご自身の政策観や構想を、どのように立体的な情報発信をされていくのかもひとつの課題になるのではないでしょうか。

データ

安住淳 候補【宮城県第5区】立憲民主党公認(当選回数8回)
個人Webサイト

衆議院 第48期 2017(平成29)年10月22日〜2021年10月19日
国会会期 第195回国会〜第204回国会
質問・出席回数は、政治学者菅原琢氏作成のWebサイトによる。

国会役職 なし
委員や理事として所属した委員会 
決算行政監視委員会(10回出席 1回発言)
沖縄及び北方問題に関する特別委員会(7回出席)
政治倫理審査会 
ほか出席した委員会
懲罰委員会(1回出席)
財務金融委員会(1回出席 1回発言)

質問主意書 0本

注意:政権与野党どちらに所属しているかの違い、政府や国会の役職によって、議員としての出席や発言回数は異なりますので、あくまでこれらの数値は参考に留めてください。与党議員は質問主意書を出さないのが慣行となっています。野党のほうが発言回数・質問主意書数が多くなります。

政党役職 立憲民主党国会対策委員長(2019年9月 立憲民主党に入党し就任)

2021年衆院選(宮城県選挙区)特集について

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*池亨(いけ・とおる) 1977年、岩手県一関市生まれ。埼玉県で育つ。宇都宮大学教育学部社会専修(法学・政治学分野)、東北大学大学院情報科学研究科博士前期課程(政治情報学)を経て、東北大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学(政治学史・現代英国政治思想専攻)。修士(情報科学)。現在、㈱日本微生物研究所勤務。これまでに、宮城県市町村研修所講師(非常勤)、東北工業大学特別講師ほか。著書に『新幹線で知る日本』(天夢人刊)。

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