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次世代AI翻訳機で実験してみた。

今までにない翻訳ツール、DeepL(https://www.deepl.com/translator)が今年の3月19日に日本に上陸した。DeepLは2017年、ドイツ・ケルンの会社DeepL GmbH社から始まった人工知能(AI)を軸とする新しい翻訳サービスである。DeepLの出資元は、Benchmark Capitalとbtov Partnersであり双方とも投資業界では名の知れたベンチャーキャピタルである。なお、投資額は非公開だ。

DeepLはAIのディープラーニングによって、一瞬で英語や日本語を翻訳できるだけでなく、まるでネイティブスピーカーが書いたような自然な文章に翻訳してしまうのである。巷でも「自然」で分かりやすく、Google翻訳より断然使いやすいと話題になっているので、世界の著名人の名言と話し言葉を用いて実際に検証してみた。


<ダイアナ元妃>
I like to be a free spirit. Some don’t like that, but that’s the way I am.

<Google翻訳>
「私は自由な精神が好きです。嫌いな人もいますが、それが私のやり方です。」

<DeepL>
「私は自由奔放なのが好きです。それを嫌う人もいますが、私はそういう人間です。」

この2つの翻訳結果をみて目を丸くした。「自由奔放」という言葉にも驚いたが、何より、「私はそういう人です。」という言葉は我々ネイティブの日本人が日常で使い、まさに「自然」な表現である。
試しにもっと長い文章も訳してみる。

<マザー・テレサ>
Spread love everywhere you go: first of all in your own home. Give love to your children, to your wife or husband, to a next door neighbor. Let no one ever come to you without leaving better and happier. Be the living expression of God's kindness; kindness in your face, kindness in your eyes, kindness in your smile, kindness in your warm greeting.

<Google翻訳>
「どこへ行っても愛を広めましょう。まずは自分の家で。 あなたの子供、あなたの妻や夫、隣の隣人に愛を与えてください。 誰もあなたのところに来て、より良い幸せを残さないでください。 神の親切の生きた表現であること。 顔の優しさ、目の優しさ、笑顔の優しさ、温かい挨拶の優しさ。」

<DeepL>
「どこに行っても愛を広めましょう。子供たちにも、妻や夫にも、隣人にも愛を与えましょう。誰もあなたのところに来て、より良く、より幸せにならずにはいられないようにしましょう。顔に優しさを、目に優しさを、笑顔に優しさを、温かい挨拶に優しさを、神の優しさの生きた表現者となりましょう。」

DeepLでも一度読み返す必要があったが、日本語特有の「を」「に」「は」など助詞が綺麗に訳されているのですんなりと理解できた。この文章の長さでも全く問題ない、むしろ文末表現からマザーテレサの優しさをも感じ取れるような翻訳で感心のあまり唸ってしまった。Google翻訳と比べると明らかに読みやすいし自然な表現で訳されている。それでは、慣用表現などが多様に含まれる話し言葉は訳せるのだろうか。

<話し言葉①>
Keep up the good work! (その調子で頑張って!)

<Google翻訳>
「今後ともよろしくお願いいたします。」

<DeepL>
「その調子で頑張って!」

まさにDeepLの訳のように使う表現である。間違ってもGoogle翻訳の場面のように使ってしまわないように気を付けたい...。

<話し言葉②>
Do not cut corners.(手を抜いてはいけない。)

<Google翻訳>
「角を切らないでください。」

<DeepL>
「手を抜いてはいけない。」

DeepLは意味が文字通りからでは理解できないものをしっかり意訳していた。
今回は英語から日本語への検証結果だったが、逆に日本語から英語に翻訳する際も同等の質で翻訳される。三重県の方言をそのまま安々と英語に翻訳できたことからTwitterで「なにこれどうなっとんの?」と驚きの声があがり大きく話題になった。

さらに驚くのは、実はこの言葉を、英語を含め11か国語に翻訳できてしまう。(英語、中国語、オランダ語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ポーランド語、ポルトガル語、ポルトガル語(ブラジル)、ロシア語)

試しに友達の中国人とイタリア人の友達にマザーテレサからの引用文をそれぞれの言語に訳して意味が通じるか聞いてみた。すると二人とも口をそろえて「この翻訳だと理解できるしすごい!」と驚いていた。イタリア人はそれに続き、「超最高!」とかなり興奮した様子だった。

DeepLのブラインドテスト調査によると、Google翻訳など他の翻訳機に比べて、DeepLはプロの翻訳者からの評価が圧倒的に高い。青色がDeepLだが他のサービスに比べて何倍も分かりやすいのだ。

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無料版で十分!だが注意が必要

2020年8月現在、DeepLには無料版と有料版のDeepLPROがある。有料版の場合は年払いで、月々750円~だ。

翻訳する文章量とそのセキュリティー対策、その他翻訳機能によって異なる。とはいえ無料版でも5000文字を一度に翻訳することが可能だ。それ以上翻訳する場合でも、無料版は何回でも翻訳できるので、少々手間がかかってしまうが長い文章のキリの良いところで区切って翻訳しなおせば無料版でも十分利用可能だ。

有料版で特筆すべき機能は、翻訳丸ごと機能と語調の切り替え(敬称/親称)機能である。翻訳丸ごと機能は、Wordファイル(.dox)や、PowerPointファイル(.pptx)をドラッグ&ドロップするだけで元のファイルのフォーマットを残しつつ言語を丸ごと翻訳してしまう機能である。いちいち文章をコピー&ペーストしなくて済むのだ。

語調切り替え(敬称/親称)機能は、まだ日本語は未対応だが、丁寧な表現やカジュアルな表現がある言語において、翻訳とともに語調の切り替えもすることが可能になっている。2020年8月現在、ドイツ語、オランダ語、ポーランド語、フランス語、イタリア語、ロシア語、ポルトガル語に対応している。

様々な機能に広がりと可能性を見せる一方、気を付けなければいけない点がある。セキュリティーである。
無料版DeepLと有料版DeepLPRO双方とも、通信経路はHTTPSによって暗号化されるので翻訳内容の情報漏洩リスクは低いようだ。だが、無料版DeepLには、AI翻訳アルゴリズムの改善のためにDeepLサーバーに情報が一時的に保存される。利用規約にも、「個人情報の類が含まれるテキストはいかなる場合も使用しないでください。」と念を押している。
一方、有料版DeepLPROでは翻訳の際に入力した情報がDeepLサーバーには保存されることはない。だが、こちらも同じく利用規約に上記と同じ文章が最後に書かれていた。機密事項の翻訳はサーバーに保存されない有料版PROで行うのが必須だろう。ただ、どちらにせよ個人情報の入力には十分気を付ける必要がある。

DeepLでも誤訳はある

DeepLの使い方としては、一般的な論文や英字新聞の翻訳という使い方もあるが、実は語学の勉強にも使える。翻訳された文章表現が「自然」だからこそ英語学習者には色々と発見がある。日本語が、他言語でどのように置き換えられるかを瞬時に調べることができる。
和製英語だと正しく認識されないという情報があったので試しに「ノートパソコン (lap top)」「マンション(apartment building)」「コンセント(electrical outlet/ plug)」をDeepLに読み込んでもらったが、2020年8月1日時点では全く問題なくしっかり英語に訳されてあった。AIによって学習したのだろう。

ただ、DeepLのような翻訳機があるからといってそれに頼りっぱなしは少々危険である。というのも、主語が明記されていなかったり、「ヤバい」などの若者言葉があると誤訳してしまう可能性があるからだ。DeepLは前後の文脈を汲み取って訳してくれるが、しばしば主語や意味を取り間違えて頓珍漢な表現になることもある。

外国語で書かれた論文の情報収集のために、もしくはある程度の言語知識を持ったうえで翻訳の確認としてDeepLを使うのは全く問題ない。誤訳にもすぐ気付き修正ができるからだ。
だが一方で、翻訳後の言語知識が全く無い状態で、メールを書いたり、何かを執筆する際に、翻訳前の文にある主語や「若者言葉」などを確認せず翻訳を全てDeepLに任せるにはまだ懸念がある。毎回、原文を読んで主語が明記されているか、訳後の「ニュアンス」を確認することが必須だろう。翻訳後のチェックは、訳文を再び元の言語に翻訳し直すことでその文のニュアンスを確認できる。


課題は幾つかあるものの、DeepLは従来の翻訳機に比べて翻訳技術に優れていて使い勝手が良い。是非、これからの翻訳の効率化のため、もしくは英語学習のために頻繁に使っていきたい。

Written by Kyogo Luke Ikemoto

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