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承認欲求を、なめるな。

こんにちは。達川幸弘です。

今はCAMPFIREという会社でマーケティングをしたり、ほそぼそと個人でも企業のマーケティングのお手伝いをしていたりします。

マーケティングと進化心理学をつなげるブログという実験的な試みをしております。

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皆さん、承認欲求は多めですか?

インターネット・SNSの普及以降、拡散やいいね!で自身への承認が数として可視化されるようになったことで、露骨にそういった「承認可視化カウンター」狙いの投稿をする人を揶揄し、「承認欲求おばけ」などと言われたりもします。

露骨な承認欲求をみせずにナチュラルに承認を受けるという高等技術がはびこる現在ですが、はたして「承認欲求」とはそもそも人間にとってどのような意味があるのでしょうか?

実は生物にとって「承認欲求」とは非常に重要な欲求で、ともすれば生死にかかわる欲求です。

個人的には違法・非倫理的な振る舞いによって「いいね」稼ぎをするような場合を除き、承認を公に求める姿勢に対しては寛容になりたいなと思う次第です。

では、その欲求を生物的な観点から紐解いていきます。

ホモ・サピエンスとネアンデルタール人

ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は、共通の祖先から約40万年前頃*1に分岐した近縁種です。どちらも高度な知能を持ち、火の使用や石器製作などの技術を発達させていました。しかし、両者にはいくつかの重要な違いがあります。

  • 体格: ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスよりも筋肉質で骨格が頑丈だったとされています。

  • : ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の脳の大きさはほぼ同じ、もしくはややネアンデルタール人が大きかったとされていますが、形状には違いがあったとされています。ネアンデルタール人は、言語に関わる領域が小さく、感覚運動に関わる領域が大きかったと考えられています。

  • 社会: ホモ・サピエンスは、ネアンデルタール人よりも大きな集団を形成していました。

これは両方の生物の性質をあらわすごく一部の切り取りですが、生物としてはネアンデルタール人が優れているように見える部分があるように見えます。にも関わらず、なぜネアンデルタール人は絶滅し、ホモ・サピエンスが生き残ったのでしょうか?

完璧な結論は出ていませんが、ひとつの説として社会性があります。ホモ・サピエンスは抽象思考を得意とし、力が弱い分社会性や協力関係を築くことに優れていて、集団で問題解決をする能力が高かったのではないかとする説です。

因みに余談ですが、ネアンデルタール人とホモサピエンスは交配をしていたことも分かっており、我々のDNAにネアンデルタール人のものが含まれていることも分かっています。

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フリーライダーと餌の分配

我々ホモ・サピエンスは、社会的な性質を強みに、狩猟採集民として多くの期間を過ごしてきました。農耕が始まったのが1万年前と言われていますが、それ以前の数十万年を狩猟採集民として過ごしてきたのです。

つまり、安定して餌を獲得できない環境の中で、適切な配分を考え集団を生かすための進化圧を我々は受けているのです。

そのため、他者との良好な関係を築き、維持することは、個々の生存と繁殖にとって非常に重要だったのです。

承認欲求は、まさにこの社会性の根幹に関わる欲求と言えるでしょう。具体的には、以下の2つの側面から説明できます。

集団内での生存・繁栄

狩猟採集時代においては、集団で協力して獲物を捕らえ、外敵から身を守る必要がありました。そのため、集団内で受け入れられ、信頼を得ることが重要で、承認欲求はこうした社会的な信頼を得るための行動を促進する役割を果たしてきたと考えられます。

具体的には、以下のような行動が挙げられます。

  • 他の集団員への協力

  • 規範やルールへの従順

  • リーダーへの忠誠

  • 集団への貢献

これらの行動は、集団の利益に貢献し、ひいては個々の生存・繁栄に繋がりました。役割を果たすことで、餌の配分を得る資格を主張する権利が得られるのです。

社会的ステータスの獲得

人間は、社会的な階層構造の中で生活してきました。社会的地位が高いほど、より多くの資源や権力、異性との交配機会を獲得することができました。

承認欲求は、こうした社会的地位を獲得するための競争を促進する役割を果たしてきたと考えられます。具体的には、以下のような行動が挙げられます。

  • 競争や自己アピール

  • 権威や富の獲得

  • 才能や能力の誇示

  • 社会貢献活動

これらの行動は、社会的地位を高め、個々の生存・繁栄に有利に働きました。

つまり、集団の中での「承認」を得られず「フリーライダー」として認識されることは、適切な餌の分配を得られない可能性があり、集団から爪弾きにされるということは、「死」に直結するということです。

承認されないことが、死につながる

集団の中で適切な役割を持ちそれを果たしていることを証明し、承認を受けたいという欲求は、自身をフリーライダーではないというアピールをする上で重要な能力であり、適切な餌の配分を受けられるかどうかに関わる、すなわち生死に関わる重要な欲求としての進化圧があったといえるのではないでしょうか。

この原始的な恐怖こそが、我々の本能の中に残る根源的な承認欲求の正体だと考えられます。

フリーライダーを見つけ出すモジュール

逆の視点から見ると、フリーライダーを放置することは、自身が役割をはたしているのにも関わらず適切な餌の分配が得られない可能性を高める行為です。

ですので、人間は本能的に裏切り者がいないかを監視するためのモジュール社会性や公共性に反する行いをする人を排除したいという「裏切り者検知」の本能が宿っています。

裏切り者検知モジュールと言われており、人間が社会的環境に適応するために進化してきたと考えられる心理メカニズムの一つです。これは、集団内における裏切り者や非協力者を検知し、排除することで、集団全体の利益を守ろうとするものです。

SNSなどで、社会的に非倫理的と思われる行為に対して、条件反射的に攻撃が加えられる背景には、こういった進化圧の中で培われた人間のモジュールによる効果が、あるときには適切でない形で表面化することで、社会問題化しているものと考えられます。

裏切り者検知モジュールに関する論文には以下のようなものがあります。

人間関係における報酬とコストの重要性を示した「The logic of social exchange: Has natural selection shaped how humans reason? Studies with the Wason selection task Cosmides, L. (1989).」や、社会交換を可能にする認知メカニズムを明らかにした「Evolutionary psychology and the generation of culture, part II: Case study: A computational theory of social exchange Cosmides, L. (1989)」があります。

進化心理学者のCosmidesによれば、人間は“裏切り者”を検知するモジュールを進化させてきたと考えられている。「裏切り者検知」能力が人間に実際に備わっているかどうかを実証する研究のなかで、Mealeyら(1996)やOda(1997)は、顔の再認課題において非協力者とラベル付けされた人の顔は、協力者とラベル付けされた人の顔よりも記憶されやすいという結果を示した。下間ら(2002)では上記のようなラベル付けをしない再認課題においても、実際にPDで非協力を選択した人の顔の方がHit率・Fa率がともに高いという結果を得ている。この結果は、非協力者の顔に何らかの特徴が存在しており、人間は協力者と非協力者を瞬時に区別している可能性を示唆している。

裏切り者は見極められるか? —顔写真を用いた“裏切り者検知”の探索的研究—

本能を否定するのではななく、向き合う

いかがだったでしょうか? このように、SNSなどにおける問題のようなものは、人間が如何に原始的な欲求によって行動を支配されているかを表しているように思います。

そこでは、ここ数十年でできた社会システムの中で形成された、ともすれば生物的観点からは後付にも見える「合理」に従うことに、ある種の苦痛を伴うのは必然とも言えます。

ですので、承認欲求を満たすための発信の渦と、フリーライダーを見つけ出すための裏切り者検知モジュールの間で、SNSという渦を我々はさまよい、時に本能に任せて判断を誤ります。

しかし、先にも述べた社会性こそが我々にとって生存確率を高める手法だったとするならばこれほど皮肉なこともないとも言えます。

では、それぞれの自尊心を保ちながら、人間らしく振る舞うためにはどのような心構えが必要なのでしょうか?

人間らしさとは何か?というこの問いに対してはまた別の機会で記述してみたいと思います。

まずは、そういった「承認」も「裏切り者検知」も人間がもつ「食欲」「睡眠欲」のような、ごく自然な欲求なのだというところと向き合ってみるところから始めていみると良いかもしれません。

*1:分岐の年代は諸説あり80万年前とする研究もあります

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