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これからの社会の“共通言語”SDGsを知っていますか(2019年冬号より)

2030年までに、気候変動や貧困・飢餓の撲滅など、地球規模の課題解決に向けて行動を起こそうという世界的なムーブメントである「SDGs」。現状、日本国内での認知度はまだ十分とはいえないが、昨年から経済界を中心に盛り上がりをみせている。健康・福祉分野でも解決すべき課題が設定されており、この流れは近いうちに医療界にも波及するかもしれない。ここでは、SDGsの基礎知識を紹介する。

SDGsとは何か? 〜成り立ちと歴史

「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」は、産業革命以降急激に活発化した人間活動により、経済・社会の基盤である地球の持続可能性が危ぶまれていることに端を発する。

1972年、マサチューセッツ工科大学のメドウズらにより発表された「成長の限界」は、地球資源をふんだんに使いながら拡大してきた世界経済の成長は、このまま続くと100年以内に限界を迎える、という衝撃的な提言だった。その後、1987年に「環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)」による報告書『我ら共有の未来(Our Common Future)』で「持続可能な開発」の概念が提唱されたことが、SDGsの根底にある。

それからしばらくの期間を経て2000年に開催された国連ミレニアム・サミットにて、SDGsの前身となる「ミレニアム開発目標(MDGs)が採択される。
MDGsは2015年を目標年として、極度の貧困や飢餓の撲滅など、8つのゴールを設け、加盟各国がその達成に向け努力することとされた。

そして目標年が近づいた2012年、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで「持続可能な開発会議(リオ+20)」にて発表された成果文書『我々が望む未来(The Future We Want)』で環境・経済・社会の3つを統合したSDGsを採択すること、さらに SDGsをMDGsの後継として統合することが決定され、2015年9月の国連サミッ トでSDGsが採択された。

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図 SDGsで掲げられた17のゴール

SDGsで掲げられたゴールは、地球の持続可能性に直結する環境・気候に関するものだけでなく、人権や教育など、人が安心して暮らしていくためのものも含まれている。

「すべての人に健康と福祉を」というゴール3も、人々が持続可能な活動を続けていく基盤として欠かせないものだ。

ゴールは17に分けられてはいるが、貧困や飢餓の解消は、健康・福祉 にも影響するし、健康と安全な水とトイレ、すなわち公衆衛生も切り離せないテーマだ。ゴールはそれぞれ密接に関連しており、個別に達成を目指すというより、すべてのゴールに目を配りながら、各セクターができることを担っていく、という捉え方が適切といえる

SDGsの17の「ゴール」と、169の「ターゲット」

図に示すように、SDGsは健康・福祉を含む全17のゴールで構成されている。そのいずれもが、人間がこのまま地球で暮らし続けるために解決しなければならない課題であり、それぞれのゴールは重なり合う面も多い。

そのため、どれかひとつを選んで取り組むのではなく、メインのゴールを定めつつ総合的に取り組むべきといえる。また先進国・開発途上国というように経済的・社会的な発展の度合いを問わず対策が求められている課題ばかりだ。まさに「世の中のすべての課題」解決を目指したものであるといえる。

これまでの国際的取り組みでは、各国政府やNGO/NPOがその主な担い手であったが、SDGsではそれ以外の企業・団体・市民の積極的な参画が求められている。そして、各ゴール達成への取り組みは一過性の寄付や支援事業、ボランティアとしてではなく、各主体が「本業を通じて」継続的に取り組むことが重要とされていることも、SDGsの大きな特徴だといえる。

掲げられた17のゴールをみてみると、解決のために、何から、どう手を付けてよいのかわからない…と思われるほど根源的な課題も多い。しかしSDGsが国際的アクションを促すしくみとして優れているのは、これらのゴールが単なる “お題目”にならないよう、手を付けるべき「ターゲット」と、その進捗状況の目安となる「指標」を設けていることにある。

ゴールの達成を目指すことが、ビジネスにもなる?

国だけでなく、企業や市民までを巻き込んで地球規模の課題解決を目指す 「SDGs」。この枠組みの面白さは、課題を解決しゴールを達成することが将 来世代のためだけでなく、現役世代の利益にもかなうように設計されていることだ。

また、国際経済の分野ではSDGsの採択と前後して、全世界的に“事業の持続可能性”を支援する動きが続いている。一例を挙げると、本誌2019年冬号で紹介したような社会課題解決のための資金調達法であるソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)の普及や、地球温暖化に影響を与える事業から投資を引き揚げる(投資撤退:divestment)、といった金融界の潮流がある。

「持続可能な事業でなければ、取引相手とみなされない」という状況になりつつある反面、持続可能な課題解決策を提供することが“売り”になる社会になったともいえる。

日本国内での動き

さて、日本での動きはどのようなものだろうか。日本政府は、SDGs採択後の2016年5月に内閣総理大臣を本部長・全国務大臣を構成員とした持続可能な開発目標(SDGs)推進本部を設置、省庁横断的に、国を挙げてSDGsに取り組むこととした。

さらに2017年には上場企業の集まりである日本経済団体連合会(経団連)が定めている企業の倫理規定である「企業行動憲章」が改定、このなかにSDGs が盛り込まれたことが経済界では大きな話題となった。昨年からは各企業の取り組みの加速がみられ、企業によってはSDGsを専任で担当する部署が設けられたり、SDGsを基盤にしたビジネスの開発を目指すチームが結成されたりするなどの動きが出始めている。

また、2017年に学校指導要領のなかに「持続可能な社会の創り手」を担うとの記載がなされたことで、学校教育の現場においてもSDGsが注目を集めており、子ども・学生たちの間でも認知度が高まっている。

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「PPAP」で一世を風靡したピコ太郎氏が外務省の「SDGs推進大使」となり、SDGsのPRに一役買っている
UN Photo/Mark Garten, 2017/7/17

健康・福祉分野におけるSDGs

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表 SDG 3:健康・福祉におけるターゲットと指標。

SDG 3においては、乳幼児・小児の健康や結核・マラリア・AIDS等の感染症、薬物乱用・アルコール使用障害等の精神疾患関連への対策に加え、衛生環境の確立や医療・福祉へのアクセスが解決すべき課題(ターゲット)として挙げられている。このターゲットに対する数値的な評価軸が本表右側の指標であり、達成状況を数値的に把握できるように設計されている
※ ターゲット・指標の原文は稿末の参照サイト1、4を参照(本稿掲載の仮訳は2018年12月時点のもの)

SDG3「すべての人に健康と福祉を」で掲げられたターゲットと指標をみてみよう(表)。MDGsから引き継がれた乳幼児・小児の健康や感染症への対処、衛生的な環境の確立のほか、薬物乱用・アルコール使用障害等の精神疾患系の課題も解決すべきターゲットとして挙げられている。

日本において妊産婦死亡率の低下や感染症への対策はすでにある程度達成されていることのように感じるが、一方で自殺率の低下や薬物乱用・アルコール使用障害などへの対策はやはり取り組まねばならない重要な課題だ。また、日本国内である程度成果が上がっているターゲットについては、その知見を海外に発信することで世界的なゴール達成に寄与できるという側面も忘れてはならない。

なお、健康・福祉分野における日本企業の動きとしては、住友化学によるマラリア防除用の防虫剤処理蚊帳「オリセット®ネット」の開発や、洗剤メーカー・サラヤによるウガンダ、カンボジアでの手洗い活動による衛生向上への取り組みなどがあり、この2社は2017年の第1回ジャパンSDGsアワードでSDGs推進副本部長(外務大臣)賞を受賞している。

SDGsは地球課題解決のための“共通言語”

遠大な目標のように思えるSDGsの達成だが、今こそ「人が暮らし続けられる地球のため」に行動すべきときだと、各国政府や企業、NGO/NPOなどが一丸となって動き始めている。

ゴール達成のためには背景の異なる多様なセクターとの協働が必要になる が、そのときに要となるのが、SDGsの17のゴールのメッセージ性だ。多様な 立場の人々が、17のゴールを“共通言語”としてそれぞれの力を持ち寄って解決に向かう。ゴールの17番目は「パートナーシップで目標を達成しよう」であるが、まさにSDGsの共通言語としての性格を表しているだろう。

日本の医療水準・技術は世界に誇るべきものだ。世界の課題解決のために、日本の医療界が貢献できることは多いのではないだろうか。

More Information
1)国際連合 SDGs特設サイト(英語

2)国連開発計画 駐日代表事務所
3)外務省 Japan SDGs Action Platform

 4)総務省 政策統括官(統計基準担当)|持続可能な開発目標(SDGs)

5)グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン

この記事の初出:『メディカルコミュニケーション 2019年冬号』(2019/1/15発行)より

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