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ケンカするメダカたち・その1

メダカは意外と喧嘩する.どうやらメダカの間には序列が形成され,強いメダカは水槽の中で一定のナワバリのようなものを形成し,弱いメダカは端のほうに追いやられてしまう.どうも,餌をやった直後などには強いメダカが弱いメダカを追い回すことが多いようだ.メダカによって気性がかなり違うらしく,ずっと追い回されつづけるダカを見ると心配になってくる.

隔離の失敗と,あるメダカの死

7月初旬.
あまりにも数匹のメダカがケンカするので,一旦メダカを0.9Lのサテライト水槽に隔離して,おとなしいメダカから順に1匹ずつ本水槽に戻してみた.サテライト水槽は狭いが,本水槽と繋がっており水質は保つことができる.狭い水槽の中では逆に争いは起こりにくいらしく,最後に2匹のメダカが残ったが数日観察しても特に問題はみられないようであった.その後,本水槽に戻したが,一旦力関係がリセットされたのか,追い回す行動はかなり減少したようである.

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7月下旬.
7匹のメダカのうちで最も気性が荒かったのが,その1週前から水槽に加わった楊貴妃メダカ(メス)だった.タラコ唇がユニークなメダカで,赤色が水槽に映え,一気に華やかになった.しかし,このメダカが困ったことに一番体格が大きく食欲も旺盛で,餌を投入すると狂ったように餌を独り占めしようとする.それだけでなく,他のメダカを執拗に追い回すので,怯えてしまい餌を摂れないメダカまで出てきてしまった.

水槽にアナカリスを入れて視野を遮ってみたり,餌の与え方を変えてみたりしたが上手くいかず,一旦サテライト水槽に隔離することにした.また餌を入れた時の興奮状態が激しいので,餌も減らしてみた.少し落ち着いた5日後に本水槽に戻してみたところ,環境変化のストレスが大きかったためか以前の元気は失われてしまっていた.あわてて再度サテライト水槽に戻したが,翌朝には死んでしまっていた.
 
我が家に迎えてからわずか2週間,この楊貴妃メダカがうちのアクアリウムで初めて死んだメダカになってしまった.本水槽への戻し方をもう少し工夫したほうが良かったか,と悔やまれる.隔離したメダカを本水槽に戻す際にも注意しなければならないと反省する出来事だった.

論文を紐解くと

メダカのなわばり争いについては,愛知教育大学名誉教授の岩松先生が記されたメダカ学全書(大学教育出版)にも記されている.そこで紹介されている論文をいくつか入手することが出来た.最近の論文についても渉猟してみたが,専門外の領域であるからか検索が下手なのか得ることができなかった.

飼育密度については,森井による報告「野生メダカのたたかい行動に及ぼす場の大きさの影響」(動物心理学年報 1970)で小さな5x5x10cmの容器に10対のメダカを入れた場合に,他の3つのサイズの容器と比較して最もたたかい行動が少ないと報告されている.しかし残念ながらこの研究は観察時間が20分と短く,あまり実際の飼育に参考になるデータであるようには思われない.

おそらくメダカのたたかい行動に関する論文としての初出は1954年,九州大学の川端による「メダカの社会生態学的研究 Ⅰ.社会行動について」(日本生態学雑誌 1954)であろうか.半世紀以上前の論文であるが,たたかい行動のおこる密度や時間帯,回数と日数経過などについて様々に観察されており興味深い.

メダカは野外では群れて生活している事が多く,なわばり行動はあまりみられないが,容器に飼育すると顕著ななわばり制を示す.
時にはバット内をどこ迄も追い,度々攻撃が繰返され,敗者が水面やバットの隅迄逃げ廻る事もある.
たたかいの見られるのは主に昼間で,夜間はほとんど行われない.夜間はほとんど動かない事が多く,恐らく休眠するものと思われる.

このあたりの観察記述は,まさに自宅の水槽の観察と一致している.ただし異なるのは,川端の論文では順位の高いメダカが水槽の底近くに縄張りを形成することだ.我が家では,水面近くに順位の高いメダカが居座ろうとする.これは,実験ではガラスの側面を紙で覆ったバットを使用していることと,4面が透過ガラスの水槽との違いによるのかもしれない.ただし,論文では水藻の配置によってなわばりのできる部位が変化するとも述べられている.

ある種の魚類では順位の高い個体が低位の個体を攻撃して,多くの食物を得ることが報告されているが,本観察でも1頭が餌の周囲にいて,他の個体が来ると追うのが屡々みられた.

と記されており,これはまさに我が家の状況と一致する.ところで屡々って「しばしば」って読むんだな.

飼育密度によるたたかい行動の変化についても述べられており,高い密度と低い密度での飼育では,飼育を始めてからの経過日数で,たたかい行動の頻度が変化する.中密度の飼育では,1,2日目にたたかい行動が起こりやすく,高密度の飼育では,当初少ないものの5日程度経過してからたたかい行動が増えるようだ.

どうやら限られた水槽のスペースの中では,個体同士の順位形成は必然的におこりうるものらしい.

ケンカをどうするか?

「ある程度高い密度で飼育すると,めだかのケンカは減る」という情報もネット上にあり,おそらくそれは真実だろう.ただし,密度が高いといっても大きな水槽やトロ舟と,小さなキューブ型水槽では状況がことなるかもしれない.小さなキューブ型水槽でメダカを飼うと決めた以上,端に弱いメダカが出ないよう保護したり,隠れるスペースを作って飼育のストレスを減らすことが必要だと思う.また攻撃性の高いメダカを一時的に隔離する場合,強いメダカだからといって本水槽に戻す際にはストレスに注意しなければならない.それが今回の教訓となった.

現在,1匹減った水槽では一番大きいオスが序列一位のようであるが,他のメダカに対して執拗すぎる攻撃はみられない.やはり餌を巡って他のメダカを追い払おうとするようだが,他のメダカも餌を奪うためのしたたかさを徐々に身につけてきているようである.

そして解決へ (9月中旬追記)

さらに1ヶ月が経過し,やっと狭いキューブ型水槽でのメダカのケンカをコントロールする一つの方法がわかってきたように思う.まとめて次記事で述べたい.

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