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第40回太宰治賞最終候補作に選ばれまして。/rediscovery



 率直に申しまして、『勝っていない』のでそれなりに大人しくしているつもりでしたし、実際にすすんで謙虚をやろうと思っていたわけでもないのに贈呈式ではガタガタ震えてしまう程度には場違い感に怯えていたのですが、沢山の方々に「最終選考に残るのはほんとうにすごいことなんだよ」と激励をいただいたので、せめてその御恩に報いるために記録だけでも残しておこうかと思い、この記事をしたためました。もう書いてきました。これでは冒頭があとがきになっちゃいますね。しかし世の中にはあとがきから読み始める通な方もいらっしゃるとか。
 現時点で右上のカウンターは4,800字くらいを計測しています。
 このタイトルの記事を読もうと思ってくださった活字好きな方であれば許容範囲の文字数であると信じたい……。あなたを信じて、最新版のわたくしはイントロとしてフェードアウトします。では、残りは過去の私へ、バトンタッチ!

友人からお祝いにもらった響で区切ります。


discovery


 と、いうことで長らく折っていた日記用の筆を執ります。

 以前の日記にも書いたことがあったような気もしますが、ひと目で概要が理解できる動画サムネのようなタイトルを妙に苦手とするのが私です。
 しかし視認性とプライドなんて天秤にのせたらそりゃあ視認性に軍配が挙がりますので、「はいよろこんで!」と返事大きくベストスマイルでこのようなタイトルを打ち込みました。自分のプライドを真っ先にベッドするのが私のやり方。さあ書こう。

 ずっと文章を書いて生きてきました。
 趣味というよりは生理にちかく、文筆の休憩にまた他の文章を書くような生活をしてきました。12歳くらいからかな。携帯ホムペとかやってましたね。モバスペとかの時代です。おかげで当時の文が残っていません。
 誇張なしに私の人生でもっとも『楽しい』ことが文章を書くことです。書いていられるならずっと楽しく機嫌よくいることができます。書きたいものについて考えているだけでずっと楽しいという、我ながら扱いやすい性質です。

 ですが、自分が小説を書けるとは思っていませんでした。つい最近まで。

 今まで書いてきたのはたしかに小説です。純文学もエンタメも長編も掌編もなんでも書いてきました。
 ですがこの『私』に『小説』が書けるとは思ってもみなかったのです。

 そんな私があらためて『小説』をやろうとしたきっかけは、言葉が降ってきたからです。
 書いても面白くないので我が人生のどん底については割愛をしますが(数がありすぎるし)、直近のサバイバルにて、私はとある人から唐突に
「書いて賞に送りなよ」
 と言われました。宣告された、というほうが正しいかもしれません。天啓ほどふわっとしておらず、半ば強制的なその言葉は、私をひどく狼狽させました。
 そのときの細かい部分については私だけの思い出なので今は開示しません。いつかとっておきのネタとして使います。

 ともかく、衝撃的でした。
 その宣告者は元々私の読者さんだった人です。その人には全く文芸とは関係のないジャンルのオフ会で読者であることを告げられたときにも度肝を抜かされましたが、まさか今度は「書いて送れ」と言われるとは。『青天の霹靂度』でいったら、引退した殺し屋が仕事柄距離を置いていた娘にやっと会いに行けるというタイミングで復讐者に刺されるくらいのやつです。過去は未来に復讐する。私の場合も、過去が未来に復讐しにやってきたと言えるかも。まあ、そのくらいの心当たりが若干あるけど綺麗に念頭にはなかったパターンの衝撃です。
 そのショック、右フック。相手の拳から伝わる波状の衝撃は一旦私を経由し、また向こうへ。一方的に打ちのめされておいて次の左フックはある意味カウンター。己の内側から相手のからだを借り、誘きだされる、シリアスな憂慮。
……「無理だ」と思いました。マジのシリアスに。

 私に小説なんて書けないと思い込んでいました。
 なぜなら、

「私は大学に行っていないから」

(ちょっと羞恥に耐えらんないな。叫ばせてください。んなわけあるかい! と今では思います。んもーほんと恥ずかしい……)

 私にはなぜかそういう偏見がありました。
 小学校の図書館にある本を読み尽くし、中高も学校をサボって図書館に入り浸っていた(時効ということにしてください)にもかかわらず。

 だって、作者近影の下にさ。
 大抵の場合、皆さんご立派な出身大学名が書いてあるんですもの。

 だから私はずっと、ずーーーっと、文芸というものはハイソサエティな方々にしか生み出すことの許されない高尚なものだと思い込んでいたのです。おそらく、そう思ってしまったのがかなり早い段階だったからこそ、いい大人になるまで「そういうものなのだな〜」とすんなり納得してしまっていたのでしょう。思い込みって、怖いですね。

 大学行ってないんですけど。
 書けるわけないですよ。

 そうやってぶつくさ言い訳を並べ立て、半ばキレ気味になってはいましたが、気づいたらPCの前に座っていました。いくらか自棄になっていたのかもしれません。
 それにしても読者の力ってすごいですね。熱量で以て書き手に書かせることができるのです。

 そうして二本ほど書きました。
 自分を救うために。
 一本目『ハーネス・デザイン』は試作というか、『はじめて』小説を書くにあたって我流でどこまでもやってみようと書いた作品。原因不明に家から出られない状態になってしまっていたので、血反吐と吐瀉物にまみれながら、えんえんと泣きながら書いた作品です。泣きすぎて涙の垂れた部分に生態系が生まれるのではと危惧されたノートPCのタッチパッド部分が、しまいにはイカれたことはいい思い出です。
 noteで公開もしましたが、ブラッシュアップしてイベントに出すために現在は非公開にしています。
 あまりにも陰鬱で重たすぎたおかげで、逆にそれまでの執筆活動史上最も多くの感想をいただいた作品です。個人的憂鬱が刺さることってあるんですね。インナーブルーはリニアブルー。


 もう一本は創作大賞2023に出しましたので、現時点(2024年6月21日)では中長編マガジンから読むことができます。

 こちらは有志の方調べによりますと、恋愛小説部門へ投稿された『規定を満たしている』作品の中でのいいね数が上から11番目だったとのことで、なんというか…… 救われました。
 作品に対する♡が可視化されることってあまりなかった時代の民なので(拍手とかBBSとかメールフォームとかはあったけどね)、首の皮一枚繋がったなと安堵したことを覚えています。少なくともそこそこ素面で書いたテンション感のものを人に見せても大丈夫だということが判明しただけでも大収穫です。

 荒削りですが『フォルムレス・ヒール』の世界観とすこしリンクする部分があるので、興味のある方は是非読んでみてください。(空振りだった場合にnoteで公開しようと思っていたため、ファンサのためにライニルの要素を入れてみたのですが、その部分にまつわる段落の粗を選考委員の先生にご指摘されてしまったので、笑い話&反省点として昇華したいですね。迂闊! 喝!)

rediscovery


 そして三作目。
 私は私を救うことをやめました。
 それは前二作で終えたことなので、今度は誰かのために書こうと思い、作風を変えました。第三者目線で変わっているかどうかはわからないのですが……。
 その作品が『フォルムレス・ヒール』です。

 最終候補に選ばれたという連絡をいただいて、電話を切ったその途端に口から漏れ出た言葉は、「そんなことある?」でした。そのくらい、思ってもみないことでした。

 それからは担当編集さんのご指摘の鋭さに魂がふるえたり、『ゲラ』ってこれのことなんだ! と驚いたり、赤ペンを買いに走ったり、これが音に聞きし校正さんのお仕事……! と感動したり、驚きの連続でした。こんな表現が適切かどうかはわからないのですが、とにかく楽しかったです。

 結果、受賞とはなりませんでしたが、選考委員の皆様に読んでいただくまさにその場に持ち込まれた私の作品は、もう私ひとりが作り上げたものではないという感動で胸がいっぱいでした。いまもいっぱいです。

 ひとりじゃなかったな、と思うとそれだけでこれから生きてゆかれそうな気がします。
 ほんとうにありがとうございました。


こわすぎて手袋して扱ってる。


 そしてきょう『太宰治賞2024』が発売されました。
 ひと足先に拝読しましたが、選考委員の皆様のご指摘が痛み入るどころか、重傷です。宝物の傷です。
 こんな機会は滅多にありませんので何度も何度も読み返しております。
 不安に思っていた部分というのはやはり第三者目線でもわかるものなのですね……。皆様ものすごく的確で、自分の中にあった「……?」が簡潔な文章となり、視認性も抜群に胸を突かれました。言葉ってすごいですよやっぱり。他者が書く文章ってすべてひかりなんです。照射され、はじめて自分があらわになるといいますか。
 非常に勉強になりました。そして今後は書き方を変えてみようと思い立せてくれる選評でした。

 そして選考委員の先生方からも、編集部の方からも、『食事シーンがいい』と仰っていただけたのは大きな強みかなと。嬉しいです。

(以下、若干の宣伝。三十秒、お時間ください!)

 前々から友人や読者の方々からも食事の描写は褒めていただいていたので、自分はグルメものが得意なのかも?と思い立ち、今は人生の息抜きも兼ねてゆるっとグルメ小説を連載しています。

⬇こちら第一話。

⬇こちらマガジン。

 ファンタジー色強めSFグルメ小説。
 概要は『人外バディがバカンスしながら飯を食う』ですね。性指向も嗜好もなんでもありの、スナック感覚で気軽に読めるシリーズです。

 ありがたいことにもFAや二次創作もしていただいておりまして、少なくとも誰かに『刺さる』ものが書けているのかもなという実感があります。誤用とわかっていてあえてこの言い方をするのですが『ヘキ』を書いています。
 一次創作のキャラものも読めるよ! という方は是非。

 きちんと取材や潜入(?)もしながらガチにゆるーくやっています。

 これも宣伝なのですが、創作大賞2024にエントリー中ですので、マガジン収録済みの記事にいいねを押してくださると力になります。よろしくお願いいたします。

(以上、宣伝終了。お時間いただき感謝です!)

 人にウケてもウケなくても。自分にウケてもウケなくても。
 私の性分として書くことは止められないのでこれからもどんどん書いて活動していきます。各種イベントにも顔を出す予定ですので、各所で「お、いるな?」とこの名前をお気にとめていただけたら幸いです。
 文字仕事ならなんでもやれますので(Web記事なんかも得意です。バリバリ取材行きます)各種お誘いもお待ちしております。

 そしてもし『太宰治賞2024』をお読みいただき、『フォルムレス・ヒール』にご感想をお寄せいただけるようでしたらハッシュタグ

   #蒼生行  

 をつけて各SNSにご投稿いただけると励みになります。
 私に読まれたくない場合は『🌹』を添えていただけると検索から外します。
 もちろんnoteからでもリプライからでも、どこからでも大歓迎です。

 私をもっと照射してください〜〜〜!
 暴かれ焦がされ死にそうになりたい。あなたの言葉で。


 ここまで読んでくださりありがとうございました。

 蒼生行という名前は、
 一度死んだあとに、これからは「生きて歩いて行こう」と決めて名付けたものです。そして地平線まで逃げて生き残らねばならなかったときに、捨てた名前でもあります。
 このたびはこの名前でまた再誕しました。蒼生行です。
 いや、再発見と呼ぶのが適当かもしれません。
 またお会いしましょう。

 私自身の再発見を祝して。
 いつか私の作品が、あなたの再発見を手伝うことを祈って。

 2024年6月21日 蒼生 行あおい ゆく

X→ @bulletjournxx
Bluesky→ @jewelledbullets

一次創作
X&Bluesky→ @caremoonNYmake


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