民法 問題14

 Aは、B所有の甲土地上に乙建物を所有していた。Cは、Aに金員を貸し付けて乙建物に抵当権の設定を受け、その旨の登記を了した。その後、Cの抵当権が実行され、Dが乙建物を買い受けた。
(1) Bは、Dに対して甲士地の明渡しを請求することができるか。甲土地の賃貸借契約が抵当権設定より前にAB間で締結された場合と抵当権設定後その実行前に締結された場合に分けて論ぜよ。
(2) Bが、抵当権が実行される前にAとの間で右賃貸借契約を合意解約したことを理由として、Dに対して、明渡しを請求した場合はどうか。


第1 問(1) 甲土地賃貸借契約が抵当権設定前に締結された場合
 Bは、甲土地所有権(206条)に基づき、Dに対して乙建物の収去明渡しを請求すると考えられる。
 これに対し、Dは、甲土地の借地権(601条、借地借家法10条)を主張してこれを拒むことが考えられる。
1 まず、Dは、乙建物の抵当権の実行により賃借権を取得したか。抵当権の効力が賃借権にも及ぶかが問題となる。
(1) この点、抵当権は「付加して一体となっている物」に及ぶ(370条本文)ところ、抵当権は目的物の価値を把握する担保物件であることから、その効力が及ぶ範囲は、物理的一体性のみならず経済的一体性からも判断すべきと解する。そして、従たる権利も、主物の効用を助け、その経済的価値を高めるものであるから、抵当不動産の従たる権利も抵当不動産と一体になっているといえる。
 そこで、従たる権利も、「物」ではないため同条を直接適用はできないものの、「付加して一体となった」点で同様であるから、370条を類推適用すべきと解する。
(2) したがって、主物である抵当不動産の従たる権利である賃借権も抵当権の効力が及ぶ。よって、Dは、甲土地賃借権を取得する。
2 次に、Dは、この甲土地賃借権をBに対抗できるか。
(1) この点、賃借権の承継については賃貸人の承諾が必要なところ、承諾を得られない場合は、裁判所に承諾に代わる許可を求めることができる(借地借家法20条)。
 したがって、上記許可を得れば、Dは、甲土地賃借権をBに対抗できる。
 よって、かかる場合には、Bは、Dに対して甲土地の明渡しを請求することはできない。
(2) では、上記許可を得ない場合はどうなるか。Bは、612条に基づき甲土地賃借権を解除することが考えられる。
 この点、同条2項の趣旨は、賃貸借契約のような個人的信頼を基礎とする継続的契約においては、無断賃貸行為が通常賃貸借契約を継続するに耐えない背信的行為と考えられる点にある。そこで、無断譲渡が賃借人の背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合は解除権は発生しないと解する。
 したがって、Dに対する移転が背信行為と認めるに足りない特段の事情がある場合には、Dは、Bに対して甲土地賃借権を対抗することができる。
 よって、この場合も、Bは、Dに対して甲土地の明渡しを請求することはできない。
第2 問(1) 甲土地賃貸借契約が抵当権設定前に締結された場合
 この場合でも、抵当権の効力が370条により及ぶため、結論も上記と同様になる。
第3 問(2)
 本問でも、Bは、甲土地所有権(206条)に基づき、Dに対して乙建物の収去明渡しを請求すると考えられる。
 もっとも、問(1)とは異なり、AB間で甲土地賃借権が抵当権実行前に合意解除されている。そこで、この合意解除の効果をDに対抗できるかが問題となる。
(1) この点、甲土地賃借権は前述のとおり370条より抵当権が及ぶところ、抵当権の価値をAB間の合意だけで減少させることは、抵当権者に不測の損害を及ぼすものであり、許されるべきものではない。そして、398条は、その趣旨が、財産の権利の放棄は正当な利益を有する他人の権利を害することはできない点にあるところ、これは本問の場合のもあてはまる。そこで、抵当権実行前の賃借権の合意解約は398条の類推適用により許されないと解する。
(2) したがって、Bは、合意解約をDに対抗できず、Dに対して明渡しを請求することができない。
以上


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