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流体力学 わき出しと吸込み


 皆様おはこんばんちは。そして,お疲れ様です。

 最近,流体力学を再度学び直してみようと思い,記事にしています。
 第12回目は,第11回目で予告した通り,「わき出しと吸込み」について紹介していきます。


(1)わき出しと吸込みとは

 さて,今回取り上げる「わき出しと吸込み」のように,2次元ポテンシャル流れを記述するには,ポテンシャル流れと流れ関数を含む複素関数,コーシー・リーマンの微分方程式が必須となります。詳しくは,以前の記事を確認してみてください。

 今回は詳しく解説はしませんが,「わき出しと吸込み」の流れの様子を数学的に記述するには準備が2点ほど必要です。

 1つ目は,わき出しと吸込みは「円運動」をしていること,すなわち半径方向,円周方向の分速度vr,vθを使って議論ができることです。そのためには,2次元流れを直交座標から極座標へ切り替える必要があります。直交座標と極座標の関係は,単位円を考えると式(1)のように表せます。

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 但し,極座標に切り替えるとはいっても,直交座標にかくための必要な準備です。2次元流れの極座標(r,θ)に必ず出てくるのは,原点から任意の点までの距離(半径r)とx軸とのなす角θの2つです。半径rとx軸とのなす角θは,式(2)のように表せます。

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 よって,式(2)を使えば,直交座標へ今まで通り,2次元流れの様子をかくことができます。

 2つ目は,流れは原点を中心として放射状にわき出し,又は吸込みをする流量Qは,連続の式によって決まっていることです。今回,連続の式については,またの機会に触れるため省略しますが,放射状にわき出し,又は吸込みするとすれば,円周を通る流量Qは,式(3)のように表せます。

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 但し,A:面積,v:速度を表しています。よって,式(3)から半径方向,円周方向の分速度vr,vθを求めると,式(4)のように表せます。

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 これで,わき出しと吸込みの下準備は整いました。次は,式(4)を使って速度ポテンシャル,流れ関数と複素ポテンシャルを考えてみましょう。

(2)わき出しの場合

(2-1)速度ポテンシャル

 では,式(4)で表した半径方向,円周方向の分速度vr,vθから速度ポテンシャルを表していきます。まず,半径方向,円周方向の分速度vr,vθは極座標形式のコーシー・リーマンの微分方程式でかけるため,式(5)のように表せます。

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 式(5)をそれぞれr,θについて積分すると,式(6)のように表せます。

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 ここで,C1(r),C1(θ)はそれぞれr,θの関数とします。また,式(6)はいわゆる微分方程式の一般解であることから,これを特殊解とする必要があります。そのために境界条件を与えます,r=1,θ=0の場合,φ=0とすると,式(6)を満足するφの式(7)へ書き直せます。

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 式(7)がわき出しの速度ポテンシャルとなります。

(2-2)流れ関数

 では,式(4)で表した半径方向,円周方向の分速度vr,vθから流れ関数を表していきます。まず,半径方向,円周方向の分速度vr,vθは極座標形式のコーシー・リーマンの微分方程式でかけるため,式(8)のように表せます。

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 式(8)をそれぞれr,θについて積分すると,式(9)のように表せます。

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 ここで,C2(θ),C2(r)はそれぞれθ,rの関数とします。また,式(9)はいわゆる微分方程式の一般解であることから,これを特殊解とする必要があります。そのために境界条件を与えます,r=1,θ=0の場合,ψ=0とすると,式(9)を満足するψの式(10)へ書き直せます。

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 式(10)がわき出しの流れ関数となります。

(2-3)複素ポテンシャル

 では,式(7)及び式(10)のわき出しの速度ポテンシャルと流れ関数を使うと,式(11)のように表せます。

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 ここで,式(7),式(10)や式(11)にある流量Qはただの流量ではなく,「わき出しの強さ」と呼ぶことがあります。結局のところ,流量Qが大きくなると,半径方向,円周方向の分速度vr,vθが大きくなる比例関係があるので,このように呼ぶ習慣になったのではないかと筆者は思っております。
 以上より,式(11)はわき出しの複素ポテンシャルであり,ここからわき出しの流れの状態が分かります。
 まず,式(11)の流れ関数ψ=const.(一定値)とすると,流線が原点を中心とする放射線状に描けます。
 次に,速度ポテンシャルφ=const.(一定値)とすると,半径r=const.(一定値)と考えることができるため,等ポテンシャル線は原点から離れるような線が描けます。ここで,等ポテンシャル線を実線,流線を点線としてかいた2次元流れを図1に示します。

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図1 2次元流れのわき出し

 このように,あたかも流体が原点から放射線状に離れていくような流れを「わき出し」と呼んでいます。

(3)吸込みの場合

(3-1)速度ポテンシャル

 吸込みの場合は,式(4)で表した半径方向,円周方向の分速度vr,vθが式(12)のように表せます。違いはただ「マイナス」が付いただけですが…。

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 では,式(12)を使って,速度ポテンシャルを表していきます。まず,半径方向,円周方向の分速度vr,vθは極座標形式のコーシー・リーマンの微分方程式でかけるため,式(13)のように表せます。

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 式(13)をそれぞれr,θについて積分すると,式(14)のように表せます。

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 ここで,C1(r),C1(θ)はそれぞれr,θの関数とします。また,式(14)はいわゆる微分方程式の一般解であることから,これを特殊解とする必要があります。そのために境界条件を与えます,r=1,θ=0の場合,φ=0とすると,式(14)を満足するφの式(15)へ書き直せます。

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 式(15)が吸込みの速度ポテンシャルとなります。

(3-2)流れ関数

 では,式(12)で表した半径方向,円周方向の分速度vr,vθから流れ関数を表していきます。まず,半径方向,円周方向の分速度vr,vθは極座標形式のコーシー・リーマンの微分方程式でかけるため,式(16)のように表せます。

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 式(16)をそれぞれr,θについて積分すると,式(17)のように表せます。

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 ここで,C2(θ),C2(r)はそれぞれθ,rの関数とします。また,式(17)はいわゆる微分方程式の一般解であることから,これを特殊解とする必要があります。そのために境界条件を与えます,r=1,θ=0の場合,ψ=0とすると,式(17)を満足するψの式(18)へ書き直せます。

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 式(18)が吸込みの流れ関数となります。

(3-3)複素ポテンシャル

 では,式(15)及び式(18)のわき出しの速度ポテンシャルと流れ関数を使うと,式(19)のように表せます。

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 ここで,式(5),式(18)や式(19)にある流量Qはただの流量ではなく,「吸込みの強さ」と呼ぶことがあります。結局のところ,流量Qが大きくなると,半径方向,円周方向の分速度vr,vθが大きくなる比例関係があるので,「わき出しの強さ」と同様です。
 以上より,式(19)は吸込みの複素ポテンシャルであり,ここから吸込みの流れの状態が分かります。吸込みの流れの状態が分かります。
 まず,式(19)の流れ関数ψ=const.(一定値)とすると,流線が原点を中心とする放射線状に描けます。
 次に,速度ポテンシャルφ=const.(一定値)とすると,半径r=const.(一定値)と考えることができるため,等ポテンシャル線は原点を中心に向かう線が描けます。ここで,等ポテンシャル線を実線,流線を点線としてかいた2次元流れを図2に示します。

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図2 2次元流れの吸込み

 このように,あたかも流体が外側から放射線状に原点へ近づいていくような流れを「吸込み」と呼んでいます。

 今回は,わき出しと吸込みを取り上げました。多くの教科書では「わき出し」のみを証明で取り上げ,「吸込み」は取り上げない(いわゆる省略する)ことが多く「自分で確認しろ」という感じです。
 よって,筆者が教科書的な書き方を避けた場合,同じような説明が続くためくどい文章になってしまいましたが,両方を解説するものがありませんでしたので,今回の記事で取り上げてみました。


(4)まとめ

 今回の記事のまとめを以下に示します。
(1)わき出しと吸込みは,流体が円運動するため「極座標」を考える必要がある。
(2)流量は,循環の定義より半径方向,円周方向の分速度から求めることができる。
(3)わき出しと吸込みは,循環の定義による流量が「プラス」または「マイナス」に変わるのみで,2次元流れの形状は同様となる。

 以上です。最後まで閲覧頂きありがとうございました。

※次回は,わき出し・吸込みのグラフを扱う予定です。

改訂1(2022/03/07)
(2)わき出しの場合
(2-3)複素ポテンシャル
(3)吸込みの場合
(3-3)複素ポテンシャル
×「等ポテンシャル線を実線,流線を点線」
〇「等ポテンシャル線を点線,流線を実線」

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