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流体力学 翼理論(その2)

 皆様おはこんばんちは。
 
 最近,流体力学を再度学び直してみようと思い,記事にしています。
 第57回目は,「翼理論」について紹介したいと思います。今回は,その2として抗力係数,揚力係数と迎え角の関係およびマグナス効果について取り上げたいと思います。



(1)抗力係数,揚力係数と迎え角の関係

 さて,前回(その1)では,翼断面(他の断面に共通で使える断面)に働く力を紹介しました。そこで,登場した揚力と抗力を求めるには,揚力係数と抗力係数が必要になります。これらの係数は,形状に依存することが分かっています。特に飛行機の翼は,翼形状の迎え角によって,揚力係数と抗力係数が変わることも分かっています。これは過去の研究成果として分かっており,図1に二次元翼の揚力係数と抗力係数を示します。

図1 二次元翼の揚力係数と抗力係数
(参考:Fluid Mechanics Fifth Edition, Pijush K. Kundu)

 ここで迎え角は,翼の進行方向と翼弦とのなす角のことを指します。つまり,迎え角が大きくなると,翼の傾きが大きくなります。では,図1に示す関係を用いて以下の例題を考えましょう。

迎え角αについて

 【例題】
 翼幅b=10m,翼弦長l=2mの翼が図1に示す性能を持つ場合,迎え角α=2°でv=100m/sの速度をもって空中を走る場合,揚力L,抗力D,必要動力Pはどれほどになるか。但し,空気密度ρ=1.2kg/m^3とする。

工業流体力学,原田幸夫,槇書店

 (解)
(ⅰ)揚力係数Cl,抗力係数Cd

 図1より,迎え角2°の場合の揚力係数Cl,抗力係数Cdは,以下のようになります。

揚力係数Cl,抗力係数Cdの算出

(ⅱ)揚力L,抗力D
 図1で得られた揚力係数Cl,抗力係数Cdを使って,揚力L,抗力Dを求めると以下のようになります。

(ⅲ)必要動力P
 抗力Dと速度vを使うと,必要動力Pは以下のようになります。

 この結果から,以下のことが分かります。

①     揚力L=104400Nであることから,航空機の機体と操縦者の合計質量が10,665kg(約11t)以下であることが条件になる。
②     動力P=2880kW(2117馬力)以上の動力を継続することが求められる。

 従って,例題のような航空機は皆様が乗るようなジェット飛行機を想定しているものと考えられます。正直,なぜあれほどにもごっつい感じが出るのかと疑問に思う人がいたとすれば,今回の結果を見ると何となく理解できるのではないのでしょうか。
 

(2)マグナス効果

 さて,次に取り上げるのは「マグナス効果」です。
 マグナス効果とは,回転しながら進む物体,または流れの中に回転する物体がある場合,進行方向に対して垂直方向の力(揚力)が働く現象のことを言います。そして,揚力の方向は物体の回転方向により,上方向の揚力,または下方向の揚力になります。

図2 マグナス効果の概念図

 図2に示すように,物体が時計回りに回転する場合は,物体の上面を流れる流速は速く,かつ圧力が小さくなり,逆に,物体の下面を流れる流速は遅く,かつ圧力が大きくなります。そのため,圧力は物体下面の方が大きくなるため,物体を持ち上げるような,つまり,揚力が上方向に働きます。
 一方で,物体が反時計回りに回転する場合は,物体の上面を流れる流速は遅く,かつ圧力が大きくなり,逆に,物体の下面を流れる流速は速く,かつ圧力が小さくなります。そのため,圧力は物体上面の方が大きくなるため,物体を押し下げるような,つまり,揚力が下方向に働きます。よって,実際の適用例は野球,ゴルフ,テニスなどのトップスピン,バックスピン,さらには翼の揚力理論の説明に用いられます。

 この現象は,グスタフ・マグヌスというドイツの化学者・物理学者が1853年頃に発見したとされています。それも,流体力学を専門に研究していた訳ではなく,水と他の溶液を混合してときの蒸気圧や蒸気の温度などの熱的性質を実験的に求めていたときの一環で発見されたものだそうです。
 このマグナス効果は,実験的に物体に揚力を発生させる現象であること,循環(式2)が関わっていることが分かっています。

 しかし,流体の状況によって揚力の振る舞いが変化することで,式(2)だけでは説明ができないのです。例えば,この現象をより厳密に数式化すること,物体の大きさなどで適用できる式が変わることを見つけるだけでも,かなりの功績になるのではないかと筆者は考えています。
 

(3)まとめ

今回の記事のまとめを以下に示します。
①     2次元翼の形状によって,抗力係数,揚力係数と迎え角の関係が求められており,そこから抗力と揚力を算出できる。
②     マグナス効果は,回転しながら進む物体,または流れの中に回転する物体がある場合,進行方向に対して揚力が働く現象を示す。
③     マグナス効果は,ボールのトップスピン,バックスピンや翼の揚力理論の説明に用いられる。

 以上です。最後まで閲覧頂きありがとうございました。
 次回は,「翼理論(その3)」について,解説する予定です。


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