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映画『アンダー・ユア・ベッド』ネタバレ感想

 

私はとんでもない映画を見つけてしまった。

25年間観てきた邦画の中でランキングを付けるとするならば、個人的にトップ3には躍り出るだろう。
そんな映画『アンダー・ユア・ベッド』の感想を述べる。

あらすじ

もう一度名前をよばれたい…雨の日の無人のエレベーター。誰かの香水の香りが残っている。俺は思い出す。この香り…、11年前、たった一度だけ名前を呼んでくれた佐々木千尋のことを。親からも学校のクラスメイトからも誰からも名前すら憶えられたことのないこの俺を「三井くん」と呼んでくれた時のこと。俺は人生で唯一幸せだったあの感覚にもう一度触れたいと思い、彼女を探し出すことにした……。 家庭を持った彼女の家の近所に引っ越し鑑賞魚店を開店し、自宅に侵入、監視、盗撮、盗聴、彼女の近くで全てを覗き見ていたいと思った。 だが、俺の目に映ったのは、全く別人に変わり果てた姿だったのだが……。

引用: https://filmarks.com/movies/83000/spoiler

感想

「ベッドの下に潜り込んで好きな人を見守る」

このあらすじだけ読んで、まず江戸川乱歩の『人間椅子』を思い浮かべ、同時にこれは絶対に私の好みの映画だと確信した。倒錯的な恋愛話がとても好きなので。

最初は変態的な映画なのかと思って鑑賞したが、最後まで観て「これは純愛映画」だと個人的には思った。原作小説はホラーカテゴリーらしいが……。(今度読んでみたい)

主人公の三井は変態なのではなく世間的に見るとズレてしまっているのだろうと。不器用で純粋な愛がゆえの行為だったのだろうと。
私は三井目線で見ているので彼の行為を「純愛」と定義するが、もちろん客観的に見たら彼のしていることは紛れもない犯罪であり、ただの気持ち悪いストーカーである。

ただ、この世には三井のような人間が一定数存在しているんだなと思うと胸が痛くなり、なんとも言えない気分になった。
文学的な言葉と独白調が、この映画をただの変態映画ではなく文学的作品にしていると感じる。

この作品、終始テーマが一貫していたのがかなり良かった。
三井の願いはただひとつ、「千尋さんからもう一度名前を呼ばれたい」最後までこれだけだ。ラストはこの願いが叶う。
交番で己の罪を自首している時に千尋から名前を呼ばれ、三井が振り返ったところで映画は終わるのだ。

不法侵入をしたり盗聴器を仕掛けたり、千尋のストーカーをしたうえに彼女の旦那を殺害して警察に捕まった三井。
これだけ聞くとバッドエンドでしかないが、三井の立場からすると「千尋さんに名前を呼んでもらえた」「好きな人を助けることができた」という2点で最高にハッピーエンドなのだと思う。メリバとは少し違うかな。

三井はもうこの思い出だけで死ぬまで生きていけるんだろうな。
……でも、千尋はあのまま旦那と離婚して三井と結ばれて…というエンドがあってもいいんじゃないか?いや、ない。

三井は千尋が好きだけど、「自分のものにしたいかはわからない、幸せにする方法がわからない」のだ。そして同時に「幸せに」という花束を送るくらいなので、彼は千尋と一緒になりたいのではなくただ「彼女の幸せ」を切に願っているだけなのだろう。

クライマックスで千尋の「助けて!」という叫びを聞き彼女を救い、彼女の代わりに不幸の元凶である旦那を殺した。きっとこれで千尋は穏やかに暮らせるはずだ。旦那が生きている限り、追いかけてくるのだから。
そのため、あのエンディングが1番ハッピーエンドなんだろうな、と個人的には思った。

私はこの映画を観てから、三井のことが愛しくて仕方がない。
私も三井の名前を忘れないでいたい。


井出みるく

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