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「野に遊ぶ幼い兄弟」

 ある夏の日の夕、僕は、鹿児島市の中心から南へ少し離れた町を歩いていた。

 捕虫網を振り回してトンボを追いかけている少年が目に入った。

 懐かしい光景だな…、と思った。

 その少年の後を、楽しそうにトコトコと付いてゆく子供がいた。弟だろうか、6歳と3歳ぐらいに見えた。
 その幼い男の子が、こんな言葉を楽しげに繰り返し発していた。

 「ころばぬ・さきのつえ。ころばぬ・さきのつえ…」

 聞き覚えた言葉を、そのまま口にしているのだろう。
 網を振り回す兄の後を、呪文のように繰り返しながら追いかけるその姿に、思わず吹き出してしまった。

 僕は2人の様子を写真に撮りたくなって、カメラを向けた。

 気配を察した2人は、背中を向けてしまった。

 

  「写真撮らせてね」と話しかけてみると、
  兄は「だめ~!」とひと声発して逃げ回り、
  弟は、ただただはにかんだ。  


     「ありがとう! いい顔してるよ!
      『転ばぬ先の杖』なんて、よく知ってるね。
        お母さんが教えてくれたの?」

   そう言いながら、再びカメラを向けると、
    2人ともしばしキョトーンとした後、

     「どうして、また撮るの?」

      と、言いながらも、
    それぞれちゃんとポーズを取ってくれた。

             ありがと!


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