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「掴みどころのない夢」

 荒れ果てた上り勾配の山道。30歳前後の自分が、鬱蒼と下森の中、草木をかき分け進んで行く。
 少年時代を過ごした鹿児島市常盤から原良に向かう50年前のままの山道のようだ。
 当時実際に目にした光景とは別世界のように荒れ果てている。崩壊による極端な段差、倒れた竹や繁茂した雑草、蛇のように伸びた蔓などが覆いかぶさり、一歩進むのにも足場に迷いしながら遅々として進まない。

 道なき原生林の奥に、家族と共に住む新居がある。そこには最近引っ越してきたばかりだ。亡くなったはずの母がまだ存命で、年の頃は四、五十歳か・・・
 こんな車も入れない、歩いて辿り着くのさえ困難な場所になぜ引っ越してきたのかは、まったく分からない。

 森林の中を過ぎて、シラス土壌がむき出しになった坂道、車2台が容易にすれ違える広さを有した日当たりが良く埃っぽい曲がりくねった山道に出る。

 先の見通せる明るく開けた道を眺めていると、きっと我が家にたどり着けるという希望が湧き、喜び勇んで歩み続ける。
 だが、迷いながらの歩みが出口の見えないまま続き、我が家にたどり着けない茫漠とした不安の中で、夢は急速に溶け出し消えてゆき、覚醒へと向かう。

 夢と現実が交錯したぼんやりとした意識の中で、自分の実際の居場所がいったい何処なのか思い出せない。そんな掴みどころのない、まるで痺れ切ったような頼りない意識に窒息しそうな窮屈さを感じつつ、早く鮮明な現実認識を引き寄せようと悪あがきしながら、現実にたどり着くまでに少し時間を要した。

 やがて覚醒し、鹿児島市明和の日常空間を確認した時、すっきりとした安堵感が訪れた。

 荒れ果てた山道の光景は、たぶん、今まで何度も夢の中で目にしている。架空の場所なのか、実際に行ったことのある場所がモデルになっているのか、よくわからない。


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