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「すったもんだの仲裁日記 ~ めどうの天文館夜話」

 5年ほど前のことになる。
 まだコロナが流行する前、夜の街が華やいでいた頃。僕自身、まだ癌が発覚する前で、天文館繁華街のとあるマジックバーで、マジシャンとして働いていた。

 そんなある夜、馴染み客の男性が、女性連れでやってきた。男性は、その店のマスターの高校の後輩である。
 はじめのうちは、いつものように和やかに飲んでいたのだが、次第に雲行きがあやしくなってきた。

 マスター以外に、もうひとり、ホスト上がりのスタッフがいて、その夜はいつになく少し酒が回り始めていた。2人連れで来ているにも関わらず、女性客にばかり親し気に接し、酒が回るにつれ、その接待が過度と思えるほど親密になってきた。
 傍で見ていた僕も、度が過ぎているのではないかと、ちょっと危うさを感じていたのだが、男性客としても面白いはずがない。次第に表情にゆとりがなくなり、露骨にヤキモチを焼き始めた。そのスタッフに対して、不快を顕わにし、口調も激しくなってきた。
 僕以外の全員、酒が入ってるもんだから、歯止めが利かなくなってしまって、しまいには「表に出ろ」みたいな騒ぎになった。
 本来楽しいはずの場が・・・

 酒が入ってないのは、僕一人だけ。

 ― 男ってこれだから面倒くさいんだよ(という自分も男だけどさ)―

 そう感じながら取り成そうとするんだけど・・・。

 よせばいいのにオーナーと男性スタッフがそろって「目には目を」的な、火に油を注ぐような対応をしてしまって・・・。

 そんなこんなですったもんだの小一時間。ついに怒り心頭に発した彼は、つと席を立ち、えらい剣幕で店を出て行ってしまった。

 足もとをふらつかせた彼が、階段でこけてしまわないようにと、僕はその後を付いて行ったんだけど、その時の言葉のやり取りで、彼の本心が出た。

 「本当は一緒に飲みたいんだけど・・・」

 その声が、なんとも弱々しい。階段の途中で立ち止まって、あとを振り返りつつ、未練たらたらの表情。

 ― さっきのあの権幕はどうしたのさ?? ―

 まるで子供みたいな53歳、まったく! 

 で、店内に再度誘導し、彼も怒ったことを皆に謝って、輪の中に再加入。ようやっと和やかな時が戻ってきたのさ!

 マジックだけやって、それだけで済んだら楽なもんだけどさ。まわりが酔ってくると、そうもいかないよね。

 バカバカしいようだけど、個人的には、こういうドタバタを収めるのって、けっこう好きかも。でなきゃ、飲み屋で働こうなんて思わないよ。

 マスターも、あとでこう言ってくれた。

 「めどうさんがいてくれなかったら、こんなふうに丸く収まらなかったと思う」

 最後は自分でもむず痒くなるような自慢話と相成り候。ごめんなさい (笑)

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