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心中譚

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歪な迄に一途、粗の異質な愛は不実
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片耳豚

片耳豚

運命だ、と思った。
____は此の偶然に感謝した。
ざり、と音を立てて一歩を踏み出す。先刻迄鉛の様に重かった足は、信じ難い程に軽やかであった。

眼前の化生が、怯えた様に細く声を漏らす。

「誰、なの」

声は掠れていた。滝の流れる音が響いている事もあり、もう左耳の聴こえない____は、殆ど其の声を拾えなかった。が、何を言いたいのか表情から読み取るのは容易かった。

「忘れたのですか」

____

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