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モバイル業界分析〜5G普及の起点とは?〜

こんにちは!
前回のメディア業界に続き、今回はモバイル業界の分析をしていきたいと思います!(前回のメディア業界分析が気になった方はこちらからどうぞ)

5Gの登場、楽天というビッグプレーヤーの参入など変化の激しいモバイル業界ですが、基本的な業界構造から最近の流れ、5Gの行方までを分析してみたいと思います。「モバイル業界の最近の流れが気になる」という方には発見があると思うのでぜひ最後までお付き合いください!

数あるトレンドの中でも今回は5Gを起点に分析・戦略提案を行いました。始めに結論だけまとめると以下のようになります。

  • 5Gは据置Wi-Fiルーターを起点に普及する可能性あり

  • Wi-Fiルーター事業の戦略として「モバイルルーター付き物件」を提案

それではモバイル業界の基本的な業界構造から見ていきましょう!

モバイル業界の構造

モバイル業界には大別して二種類のプレイヤーが存在します。一つは自前でモバイル通信用の回線設備を持ちモバイル通信サービスを提供するMNO、もう一つは自前の回線を持たずMNOから回線を借りてサービスを提供するMVNOです。

モバイル通信とは?

まずはモバイル通信の定義を簡単に整理します。

通信方式には固定通信とモバイル通信の二種類があります。固定通信は自宅などまで回線を引き込み通信を行う方式で、通信できるところが固定されているため固定通信と呼ばれます。モバイル通信は基地局から電波を飛ばし、端末と通信を行う方式で、電波が届けばどこでも通信できるためモバイル(移動体)通信と呼ばれます。

引用:ぽんぱす 移動体通信サービス

固定通信ではメタルケーブルを利用したADSLと光ファイバーを利用した光回線の二種類が現在利用されています。固定通信のメリットとして、モバイル通信と比較して通信速度が速く、安定していること、基本的にデータ通信量に制限がないことが挙げらます。一方デメリットとして工事が必要であること、通信量が少ない人にとって月額料金が割高になることが挙げられます。

モバイル通信はガラケーと呼ばれる携帯電話端末をきっかけに普及し、スマートフォンが主流になった今では普及率が83.4%に達するなど多くの人が利用するようになりました。場所に縛られず通信できる一方、速度や安定性、通信量といった面は固定通信に劣ることが多いです。

引用:総務省 主な情報通信機器の保有状況(世帯)

MNOとは?

MNOとは「Mobile Network Operator」の略で、日本語では「移動体通信事業者」と訳されます。つい最近まで国内のMNOはdocomo、au、SoftBankの3社のみで3大キャリアと呼ばれていました。最近になってここに楽天が参入しニュースになったのが記憶に新しいですね。

前述のとおりMNOは自前でモバイル用の通信設備を持ち、iPhoneやAndroidスマホなどの端末とセットでモバイル通信サービスを提供しています。

MNOは主に通話料とデータ通信料から収益を上げています。回線設備に莫大なコストが固定費としてかかりますが、原材料費や配送費など、売り上げが増えるほどかさむ変動費がほとんど生じないため、売り上げが損益分岐点を上回れば得られる利益が非常に大きなビジネスです。このためMNO各社にとって売り上げを上げるために契約数を増やすことが最重要になります。

引用:https://rmc-oden.com/blog/oto_cvp_2

2000年代成長期のモバイル業界では、電話番号やメールアドレスを変更する手間などから別のキャリアへ乗り換える障壁が高く、いかに新規契約を獲得するかという早い者勝ちの陣取りゲームになっていました。

このためモバイル業界成長期のKFS(Key Factor for Success)は「事業の展開スピードを上げる」ことであり、各キャリアが代理店と連携して販売網を広げ、後から通信費で元が取れるため端末代をタダにするなど大胆な割引を行っていました。

しかし番号ポータビリティ制度の登場、SIMロック解除の義務化などによりここ10年で乗り換え障壁は大きく下がりました。各社は新規契約を増やすための乗り換えキャンペーンなどを行う一方で、既存顧客を囲い込むための施策に力を入れています。

この例として家族割りによって乗り換え障壁を高めたり、近年では電気サービスやネットフリックスなどのコンテンツとセットにしたプランを提供するなど各社とも囲い込みを行っています。

【補足説明】
・番号ポータビリティ制度:携帯電話・PHSの利用者が電話会社を変更した場合に、電話番号はそのままで変更後の電話会社のサービスを利用できる制度(引用:総務省 携帯電話・PHSの番号ポータビリティ
・SIMロック:特定のSIMカードを差し込んだ場合のみ動作するように携帯電話や通信モジュール等の通信端末に施される機能制限のこと(引用:Wikipedia SIMロック

ここ5年の各キャリアのシェア率は下図のようになっています。ここ数年MNO各社のシェアは右肩下がりになっています。そしてMNOに変わりシャアを伸ばしているのが次に紹介するMVNOです。

引用:総務省 電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表


MVNOとは?

MVNOはMobile Virtual Network Operatorの略で、仮想移動体通信事業者と訳されます。MVNOはMNOから回線を借り、通信設備の莫大な固定費をかけずにモバイルサービスを提供することができます。このためMNOと比較して損益分岐点が低く、比較的規模の小さい事業者も参入できるため、主要なものだけで100社以上のプレイヤーが存在する多数乱戦市場となっています。

固定費が小さい一方で、「1契約あたりx円」という形でMNOへ回線代を支払う必要があり変動費が大きくなります。契約数の多い楽天がMVNOからMNOへ移行した要因のひとつは、回線代を払うより通信設備を自前で作ってしまうほうが将来的に得だと判断したからだと思われます。

回線を借りて提供するため、MVNOのサービスの通信速度はMNOよりも遅いことがあり、またMNOと比較するとブランドや認知度も劣るため、MVNOはMNOと比較し格安な料金プランで差別化を図ることが一般的です。このためMNOのモバイル通信サービスは「格安SIM」と称されることもあります。

MVNOの利用者は年々増加している一方で、高い競争率によりMVNO事業者の採算性は低くなっています。業界5位の43万契約数を有しており2017年に楽天に売却されたプラスワン・マーケティングでも、3年で10億円を超す大きな負債を抱えるほどで、契約数が100万契約を超えなければ収益化は厳しいとも言われています。

消費者の重視するポイント

業界を分析する上で消費者の重視するポイントを抑えることは重要です。ここではモバイル通信サービスを利用する際に消費者が重視するポイントを見ていきます。

モバイル通信契約時に消費者が重視したポイントは以下のようになっています。

引用:MMD研究所 調査データ

このグラフから消費者の関心は大きく分けて安心・価格に関する項目が目立ちます。これはモバイル通信サービスが生活インフラとしてなくてはならないものになっており、安心(不自由なく使える)で低価格なものが求められるからです。

MNOを選択した消費者が安心(ブランドイメージ・信頼・サポート等)を重視しているのに対し、MVNOを選択した消費者は価格を最重視していることがわかります。

価格の面では、単に月々の料金が安いだけでなく、セットプラン・キャンペーン・自分に合ったプランといった自分にとってお得なプランに魅力を感じる人が多くなっています。

近年のモバイル業界の流れ

5Gの登場

5Gとは第5世代移動通信システム(5th Generation)のことで、従来の通信サービスと比較して高速・大容量・多接続な通信が可能になります。5Gによって低レイテンシかつ高解像度な動画のストリーミングが可能になったり、自動運転に寄与するとも言われています。

5Gによってモバイル通信の速度、通信容量が現在の光回線と同程度以上に向上した場合、5G対応のスマホをハブとした通信環境が普及する可能性があります。ドコモが提唱する「マイネットワーク構想」のように、光回線などを用いずスマホだけで通信環境が整うことになれば、光回線やモバイルWi-Fiルーターの存在意義を揺るがす大きな変化をもたらします。

5Gの登場はスマホ登場以来の大きな変化を通信業界にもたらすと言っても過言ではないでしょう。

引用:NTT docomo マイネットワーク構想の取り組み

ではドコモの提唱するような5G環境はすぐにやってくるかというと、そうではありません。この理由として大きく二つの課題があります。

一つ目は価格面です。5Gに対応するための機能を搭載する場合、スマホ端末価格が1〜2万円程度上がります。現在5Gがマストなコンテンツは登場しておらず、5Gの需要は限定的です。これに後述の端末代高騰が加わり、価格重視の消費者の間で5G対応スマホが普及するのは、速くとも中古品が出回る2〜3年後になるのではないでしょうか。

二つ目は設備面です。MNO各社の5Gエリア拡大予定を見てみると、カバー率90%に達するのは最速でもauとソフトバンクの22年3月末です。「5Gってどこでも使えるよね」という印象を消費者が持つまではさらに時間がかかると考えると、5Gが当たり前のものとして受け入れられるのはもう少し先になりそうです。

引用:iPhone格安SIM通信 5G対応エリアはどこ?各社のエリア比較と展開予定を徹底解説!

端末代・通信費の分離

前述したように通信費で収益を挙げられるため、契約時のハードルを下げるために端末代を割引くという施策が以前から行われていました。しかし電気通信事業法改正によって、2019年10月1日からは端末と通信の分離が義務化され、通信費と紐づいた端末代の割引が行えなくなりました。

これにより上乗せした端末代の分通信費は安くなる一方、端末台が可視化されるようになりました。今までは「実質負担額0円」などにより意識されることがなかったiPhone等の高機能端末の端末代が消費者に意識されるようになります。

各社とも端末下取りを軸とした割引プランを新たに打ち出していますが、端末代がシビアに見られることに変わりはありません。5G対応でただでさえ効果になる5G対応端末にとって分離プランは向かい風になります。

引用:特選街web 【分離プランとは】

菅元総理の通信費値下げ要求

菅元首相は携帯電話料金の引き下げを看板政策として主導し、2021年春にはMNO各社が月額2000円台の低料金プランを相次いで投入しました。MNO各社の収益に影響が出ていますが、それ以上に影響を受けているのがMVNOです。

もともと厳しいMVNO事業者にとって、MNO各社の格安プランはクリティカルだと考えられます。

楽天モバイルのMNO参入

2020年からMVNO事業を行っていた楽天がMNOに参入しました。楽天の狙いとしては、前述のようにMNOの方が収益が上がる可能性があることのほかに既存事業とのシナジーを見込んでいるようです。

楽天はECサービス、決済サービス等を中心に独自のポイントによる経済圏を形成しています。日常で最も多く利用するポイントというデータもある楽天ポイントとモバイルサービスを紐付けることで、他のMNOにないお得感のアピール・乗り換えの障壁を高めることが期待できます。

また逆にモバイルサービスを消費者の身近な「窓口」に据え、楽天ポイントによる経済圏をさらに広げる狙いもあるようです。

5G普及のカギはモバイルWi-Fiルーター

以降では5G普及のカギとなるモバイルWi-Fiルーターとそのプレイヤーについて分析していきます。

モバイルWi-Fiルーターとは

モバイルWi-Fiルーターとは、下図のようにモバイル通信と同様に基地局から受けた電波を端末で受け、それをWi-Fi回線として開くルーターになります。モバイルWi-Fiルーターには屋外に持ち出すことができる小型のモバイル型と、自宅などに固定して利用する据置型の2種類が存在します。

引用:ネットの教科書 光回線とモバイル回線のメリットを徹底比較!

モバイルWi-Fiルーターのメリットとして光回線と比較して若干価格が安いこと、回線工事がいらないこと、小型端末であれば持ち運ぶことができることが挙げられます。一方デメリットとしては光回線と比較して通信速度と安定性が劣ること、通信量に制限がある場合が多いことが挙げられます。

オンラインゲームなどをするわけではなく、光回線をわざわざ利用するほど通信速度や容量を必要としない人からすればモバイルWi-Fiルーターは魅力的な選択肢になり得ます。

モバイルWi-Fiルーターの契約数は毎年増加していましたが、2018年頃に飽和様相に入り900万前後で堅調に推移していると見られます。

モバイルWi-Fiルーターを基点とした5G環境

前述のように5Gは社会に大きなインパクトを与える可能性がある一方、ドコモの提唱するようなスマホをハブとした5G環境が一般的になるのは早くとも数年先になると考えられます。

この間5G普及の鍵となると考えられるのがモバイルWi-Fiルーターです。「高価な5G端末はいらないけど、5G環境は欲しい。」モバイルWi-Fiルーターはそんなニーズを満たすことができます。5Gが必須な大人気コンテンツが登場した場合は、5Gニーズの増加によりモバイルWi-Fiルーターの契約数が急増する可能性があります。

もし5Gの人気コンテンツが登場しない場合でも、光回線に代わる選択肢として工事のいらないモバイルWi-Fiには一定のニーズがあるでしょう。

モバイルWi-Fiルーター提供事業者とKFS

モバイルWi-FiルーターはMNO、MVNOどちらからも提供されています。モバイル通信サービスと異なるのはドコモ、au、ソフトバンク、楽天に加えてMNOとしてUQモバイルがWiMAX回線を提供していることです。(WiMAXは厳密にはモバイル回線とは異なりますが、消費者に提供されるサービスはモバイル回線を利用したものとほとんど同様です。)

消費者が契約するモバイルWi-Fiルーターを選択する際、通信速度などよりも価格が重視されます。モバイル通信サービスにおいて価格面で重要だったことはお得感でした。このため特徴的なプランで「自分にとって最安」だと感じる消費者を最大化することがKFSとなるでしょう。

また多くの事業者が存在するため、特徴的なプランだけでは消費者に認知してもらうことができません。認知を最大化するためにモバイルルーターの比較記事などに取り上げられるための工夫や、独自の消費者との接点なども必要になるでしょう。

特徴的なプランとしてBIGLOBEの乗り換えキャッシュバックを行っているものや、カシモWiMAXの月額料金が業界最安価格で変わらないプランなどが挙げられます。

消費者との接点としてはMNOのモバイル通信サービスとのセットになったサービスなどが挙げられます。

モバイルWi-Fiルーターは工事がいらない利点から、転居をきっかけに契約する利用者が多い傾向にあります。この特性も踏まえてモバイルWi-Fiルーター事業者の効果的な戦略を考えてみます。

モバイルWi-Fiルーター事業の戦略提案

お得感を感じる消費者を最大化するための戦略として「モバイルルーター付き物件」を提案します。これは「賃貸物件とセットにしたモバイルルーター割引プラン」で賃貸契約時にモバイルルーターが特別割引で契約できますよというもの。

モバイルルーターを利用するきっかけとして多いのは転居時でした。このため賃貸契約とセットでモバイルルーターの割引プランがあれば興味を示す消費者が一定見込めるのではないでしょうか。「契約は賃貸契約時とセットで済む」といったものであれば便利だと感じる人も多いと考えます。

また「インターネット対応 / 完備」という物件にニーズがあるように、「モバイルルーターの割引プラン付き」といった条件は賃貸オーナーからしても魅力的に写るのではないでしょうか。賃貸オーナーから割引分を負担してもらうモデルにすれば利益を圧迫することなく割引プランを提供することができます。

まとめ

今回はモバイル業界の分析として、業界構造の確認と最近のトレンドの紹介、5Gが通信業界に与える変化とモバイルWi-Fiルーターの役割についてご紹介しました。また最後にはモバイルWi-Fiルーター事業のKFSを踏まえ、「モバイルルーター付き物件」を提案しました。

この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!

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