二つの変化から見るメディア業界分析

社会の変化に伴いメディア業界は劇的に変化し、非常に多様で複雑な発展をしてきた。近年もコロナの影響から企業が広告を控えたことで多くのメディア企業は大きな打撃を受けた。そのなかでもコロナ下で急成長するメディアも存在するなど、ひとつの側面からだけではメディア業界を理解することはできない。この記事では二つの側面からメディア業界の変遷をまとめ、さらに現在の流れについて分析していく。

情報取得方法と購買行動の変化からみたメディア業界の変遷

この記事の前半ではメディア業界について理解を深めるために消費者の情報取得方法の変化購買行動の変化という二つの側面からメディア業界の変遷をみていく。インターネットやスマートフォンの登場などメディアに大きな変化を与えるイノベーションを軸に、いくつかの時代に分けて説明していく。

説明の前置として、各メディアは広告ユーザ課金のどちらか、あるいは両方から収益を得ている。例えばテレビ業界は企業からの広告費によって収益を得ているのに対し、新聞はユーザ課金と企業からの広告収入のハイブリッドである。このようにメディアの多くは広告から収益を得るため、メディアと広告は強く関連している。

また、消費者の情報取得方法と購買行動はリンクしている。消費者の情報取得方法に変化により、消費者の購買行動、それと相互作用する広告のあり方も変化してきた。消費者の購買行動の変化については、マーケティング戦略に用いられる消費者の購買行動モデルを取り上げる。

消費者の情報取得方法を考える上で情報取得頻度という評価軸を用いる。
取得頻度が高い情報とは、経済やエンタメ、天気予報などのニュース、乗り換え案内やセール情報などの日常生活で必要とするものである。これらは取得する頻度が高いが重要性は低く、比較検討を必要としない

一方取得頻度が低い情報とは、不動産情報、求人情報、電化製品の情報など必要になる頻度が低いが重要性が高く、比較検討して購買を行うためのものである。

インターネット登場以前

インターネット登場以前はマスメディア一強の時代だった。

【情報取得方法】
この時代の消費者の情報取得方法は、マスメディアからの受動的な情報取得のみであった。ここでのマスメディアは4大メディアにあげられるテレビ・新聞・雑誌・ラジオのことを指す。それぞれのメディアで強みは異なるが、限られたメディアチャネルから消費者(マス)に対して情報を発信し、消費者は受動的に情報を取得するという点では共通している。

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【購買行動モデル】

この時代は最も古典的な購買行動モデルのひとつであるAIDMA(アイドマ)がマーケティングで用いられた。AIDMAは「認知→興味→欲求→記憶→購入」という消費者の5つの購買プロセスの頭文字をとったものである。マスメディアでの広告によって消費者に「認知」してもらうことが購買行動の起点となる。

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引用[1]

インターネットの登場

【情報取得方法】
インターネットは1990年代に商用化され、World Wide Web(ウェブ)の登場によりインターネットにつながっていれば世界中と情報のやり取りができるようになった。またインターネットによってマスメディアから受動的に情報を受け取るだけだった人々が「検索」によって能動的に情報を取得できる様になった。

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【購買行動モデル】
インターネットの登場によって消費者は興味を持った商品について能動的に「検索」し、ブログや口コミサイトなどで「共有」できるようになり、これらを反映してAISAS(アイサス)が提唱されるようになった。検索により能動的に情報を取得できるようになった消費者はマス広告を鵜呑みにしなくなり、企業側の意図の入らない客観的な情報として他の購買者の感想(口コミ/レビュー)を購買時の判断材料として用いるようになった。

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スマートフォンの登場

【情報取得方法】
スマートフォンの登場はメディア業界に大きな変化を起こした。消費者はスマホを通してインターネットと常時接続されるようになり、PCを用いて情報を検索していた以前とくらべ、検索によって能動的に情報を取得する傾向が格段に強まった。

また能動的に取得する情報の中で、乗り換え案内や地図など利用する頻度の高いサービスはアプリとして利用されるようになった。

さらにマスメディア以外の受動的な情報取得方法が登場する。新聞やテレビだけでなくアプリからニュースを見るようになり、SNSのタイムラインからも他のユーザの投稿を受動的に情報を取得するようになった。

【補足情報】
インターネットの登場で日々接する情報が劇的に増え、スマホにより人々はさらに多くの情報に晒されることになった。このため情報を取捨選択してくれる「まとめサイト」のニーズが高まり、「NEVREまとめ」などのメディアが登場した。

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【購買行動モデル】
消費者は興味をもった商品を単に検索するだけでなく、複数の商品の情報を検索し比較検討し、購入するものを決めてから店頭に足を運ぶことも多くなり、AISASに「比較・検討」を加えたAISCEAS(アイセアス)が提唱された。このためマスメディア上で広告を打つだけでは購買につながらず、ネット上でのユーザへの働きかけの重要性が増していった。

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SNSの発展

【情報取得方法】
SNSはスマホの普及とともに発展してきた。正確にはイノベーションとは呼べないが、メディアに大きな変化を与えたポイントなのでひとつのセクションとして扱う。

スマホの普及に伴いSNSが急速に発展した。mixiやGreeなどの国内のSNSを皮切りに、twitterやFacebook、InstagramといったSNSが普及していった。前のセクションで触れたように始めは他のユーザの投稿を受動的に取得するだけだったところから、情報を検索し能動的に情報を取得するためのツールとしてSNSが使われるようになった。

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【購買行動モデル】

SNSの登場以降の消費者の購買モデルは様々な形で提唱されている。Googleの提唱したZMOTや電通デジタルの提唱したDECAXなど多数ありますが、ここではSNS普及に伴うUGC (User Generated Contents)の影響に重きをおいたULSSASを例として取り上げる。

今までの購買行動モデルと異なり、ULSSASはUGC(SNS上でのユーザの投稿)を認知の起点としている。消費者はSNS上での他のユーザの投稿に対して興味を持つと「いいね!」とリアクションし、とりわけ気になったものをSNS上で検索する。

例えばインスタグラムのタグ機能のように特定のキーワードで検索することで、それに関連する様々な投稿を取得でき、口コミサイトと同様「客観的」な意見を集めることができる。このように能動的な情報取得のファーストステップが「ググる」から「タグる」へと変化していると言えるかもしれない。

また購入後は自身の体験を投稿することで「拡散」を行い、次の消費者の「いいね!」へとつながる循環したモデルとなっている。このULSSASはファッションアイテムなど比較的安価で若年層にニーズのあるSNSと親和性の高い商品に特に適用できるだろう。

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動画メディアの登場

通信速度の飛躍的な向上というイノベーションを背景に、YoutubeやNetflixなどの動画メディアが登場した。

【情報取得方法】
動画メディア「Youtube」上の動画クリエイターがYoutuberとして認知され、Youtuberの「ヒカキン」がクリエイターのマネジメント・広告営業などをサポートする「株式会社UUUM」を立ち上げるなど大きな流れを作った。

Youtubeの特徴してUGCから構成されており、受動的なメディアとしてだけでなく、能動的な検索を行うツールとしても使われることが挙げられる。(例えばスマホを買い換えようとした時、インスタを調べることはないが、Youtubeでスマホの比較動画を検索することはあり得るだろう。従来のSNSと異なり、Youtubeは低頻度情報にも対応している。)

またNetflixなどのサブスクリプションのユーザ課金型の動画メディアも成長した。この結果YoutubeやNetflixの登場により若年層のテレビ離れが加速している。

急成長した動画メディアは注目を集めているが、順調に成長を続けていた株式会社UUUMも近年は成長率が鈍化するなど動画メディアがこのまま伸び続けるとは言い切れないだろう。

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【購買行動モデル】
Youtubeでは今までSNSと親和性の低かった商品についても扱われることが多くなった。これよりYoutube上で検索する消費者が増え、ULSSASなどのUGCに注目した購買行動モデルの適用範囲は広がっていると言えるだろう。

次のイノベーションは?

インターネットやスマホに次ぐ、次のイノベーションはなんだろうか。可能性のひとつとしてAIによる情報の個別最適化が考えられる。自分の求めているような情報がレコメンドされるようになれば、情報を検索して能動的に取得する機会が減るかもしれない。

もうひとつ考えられるとすればVRやARなどの新しいデバイスの普及だ。通信技術や画像処理技術の向上によりスマホのように普段使いできるVR・ARデバイスが登場すれば新しいメディアが登場するかもしれない。

注目メディア

ここまでメディアの変遷を追ってきたが、この章では情報取得方法の変化という観点で特に面白いと思った二つのメディアを取り上げる。

NewsPicks
NewsPicksは株式会社UZABASEのグループ会社である株式会社ニューズピックスが運営する経済ニュースメディア(アプリ・サイト)である。NewsPicksの特徴としてSNSのようなソーシャルサービス機能がついており、またオリジナルの動画コンテンツに力を注ぐなど動画メディアとしての側面ももっていることである。

広告収入だけでなくユーザ課金によっても収益を上げている。ニュースアプリ、SNS、動画メディアの三つの側面を持ったNewsPicksはビジネスパーソンを中心に支持を集め、ユーザ課金をベースにしたMRRの成長率は30%近い値となっている。

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LINE
日本におけるコミュニケーションツールのスタンダードとして盤石の地位を気づいたLINE。その圧倒的普及率と高い使用頻度を背景に、近年はニュースメディア、動画やゲームなどのコンテンツ提供のほか、決算機能などメディアを超えた機能を提供している。近い将来、日本人の生活インフラとして根付く可能性もあるだろう。

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PESOモデルに基づいたメディア運用

この章では近年の購買行動モデルをもとに提唱されているPESOモデルというマーケティング・メディア運用モデルについて取り上げる。マスメディアやwebサイトだけでなく、口コミサイトやSNSなどのメディアも含め総合的にアプローチし、ネット上での消費者との長期的な関係の構築を目指すのがPESOモデルである。

PESOとは四つに分類されるメディアの頭文字をとったもので、各メディアは以下ように定義される。

ペイドメディア
 広告、有料で掲載されるメディア
アーンドメディア
 PRや広報、パブリシティ活動、メディア・リレーション、インフルエンサー・リレーションなど、相互理解の獲得が必要なメディア
シェアドメディア
 消費者によるオフラインやSNS(Twitter、Facebook、Instagram等)での口コミ投稿や拡散。消費者がコントロールするメディア
オウンドメディア
 自社が所有しコントロールするメディア(Webサイト、ニュースレター、ソーシャルメディアの自社アカウントなど)

引用[2]

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引用[2]

ペイドメディアによる広告効果は限定的であり、消費者との良好な関係を構築することができない。このためオウンドメディアの運用からスタートし、ユーザとの接点を増やしながらシェアドメディア、アーンドメディアとの連携を狙うことが有効だ。

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企業のメディア戦略

上記の内容を踏まえて企業のメディア戦略を考えてみるとどうなるだろうか。PESOモデルに基づいて、今ある事業への集客と顧客接点を生むためにオウンドメディアの立ち上げを行う。このとき大事なこととして、メディアが収益化し軌道にのるまでは時間がかかること認識する必要がある。

総合メディアの「All about」を運営する株式会社オールアバウトの決算説明書によれば、ひとつのメディアを立ち上げてからGoogle評価を上げ記事単体の検索上位が実現できるまで大量のコンテンツを投下する必要があり、結果が出るまで年単位でかかることもあるという。長期的な目線で投資と割り切り運用を始めることも必要かもしれない。

またオウンドメディアの役割として、比較検討段階の顧客への自社商品のアピールをするのか、顧客との関係を構築しファン獲得を目指すのかは決めておく必要がある。前者の場合、比較検討段階の消費者が求めている情報にコンテンツの内容を絞る必要がある。一方ファン獲得を目指すのであればブランディングという目線でコンテンツ作りを行う必要がある。

仮にオウンドメディアがある程度軌道に乗った場合、次に打つ手はなんだろうか。先ほどの情報取得手法の図を用いて考えるならばオウンドメディアの多チャネル化によるpv数の増加を目指すのが現実的だと考えられる。

たとえばYoutubeでは取得頻度の低い情報でもユーザが検索することがあり得る。webサイトのみの場合と比較し、ユーザの多いyoutubeにもチャネルを持てばその分集客が期待できる。

また扱う情報の取得頻度がそこまで低くない場合はSNSアカウントの運用も考えられるだろう。例えば食品メーカーがオウンドメディアを多チャネル化するために、自社商品を使ったレシピをSNSアカウントで投稿するのは有効な手だろう。

他の案として、Yahoo!などのポータルサイトと契約することができれば莫大なpv数を稼げるようになる可能性がある。ある程度実績を積めたなら営業をかけチャレンジする価値はあるのでは

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仮にメディア事業が成功し、自社の主軸事業として利益を生むようになった場合、その後はどのような展開がかんがえられるだろうか。ひとつには新しいメディアの立ち上げが考えられる。自社サービスに関連したメディアを増やすことで自社事業とのさらなるシナジーが期待できる。

他にも潜在市場の大きい業界の場合は、自社メディアを中心として業界の深耕を図ることも有力な選択肢として挙げられるだろう。この例として、日本有数のゲームメディアであるGameWithが挙げられる。GameWithはメディア事業にとどまらずe-sports業界の発展を目指しプロチームのスポンサーを担っている。メディアという枠を超え今後成長が期待されるe-sportsで中心的な役割を担うことで、次の主軸事業をシームレスに育てることができる。

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引用:GameWith 2021年5月期決算資料

まとめ

この記事では消費者の情報取得方法と購買行動の変化という視点からメディア業界の変遷をまとめた。またPESOモデルに提唱されるように企業のマーケティングにおいて重要性を増すオウンドメディアを運用する場合の戦略について考えた。メディア業界は奥深く今回の分析でカバーできていない部分や不完全な内容も多々あるが、ひとつの視点として参考になれば幸いだ。

引用

引用[1]:https://mtame.jp/social/SNS_marketing/#a01
引用[2]:https://mag.sendenkaigi.com/kouhou/201710/introductory-own-media/011513.php

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