見出し画像

【小手先のテクニック?】「影響力の武器」を「7つの習慣」と読んでみた

名著から人生100年時代を生きるためのエッセンスを学ぶこのシリーズも今回で4冊目!前回の「7つの習慣」に引き続き、今回は「影響力の武器」を取り上げます。

「影響力の武器」は著者で社会心理学者のロバート氏が、フィールドワークや心理学実験を重ね、人に影響を受ける要素を6つの法則に切り出し、法則を巧みに利用し他者に影響を与える人のやり口と、各法則に対する防衛法を一冊にまとめて紹介している名著です。

「いらないはずのものを気づいたら買っていた」「冷静になれば馬鹿げている選択肢を、なぜか選んでしまった」といった失敗のカラクリから、同じ過ちを二度と繰り返さない対策まで説明されています。こうした失敗をしてしまったことがある人はぜひご一読ください!

本書の本筋からは少し離れますが、この記事では影響力の法則をどう活用するかに焦点を当て、実践した経験談を交えてご紹介します。

ここで「法則の活用」と聞いて、先月紹介した「7つの習慣」を読んだ方はこう思うのではないでしょうか?「影響力の法則を使って人に影響を与えるのは人間関係を思い通りにするための小手先のテクニックなのでは?

しかし「7つの習慣」を踏まえた上で、人に影響を与える根源的な法則を使うことで「効果的」な人生を送ることができるようになるのではないかと僕は考えています。(「7つの習慣」についてはこちらの記事でチェックしてみてください。)

結論から先にお伝えすると、効果的な影響力の法則の使い方としてこの記事では以下の3つを紹介しています。

一貫性の法則を使って他者の「第二象限」の活動をサポート
②コミットメントを自分に使う
③影響力の法則から格言を紐解く

まずは6つの法則について簡単に紹介したいと思います。

影響力の6つの法則

①返礼性
一言で説明すると、この法則は「他者から与えられたら自分も相手に返さなければいけないという強い義務感が生じる」というものです。この法則があるので人は他者に何かを与えても無駄にならないと確信でき、社会にとって有益な交流や人間関係を築くことができます。

これは社会発展の基盤となる重要な法則なので、人は小さい頃からこの返礼性のルールを(ルールを破れば厳しい社会的制裁が下るということも含めて)叩き込まれます。この法則は一方的に与えられ続け、こちらからお返しする機会がないと不快感を感じるほど強力です。

②コミットメントと一貫性
一言で説明すると、この法則は「人は自分の言葉、信念、考え方、行為を一貫したものにしたい、あるいは他者からそう見られたいと強く思う」というものです。この法則はまるで磁力のように一貫性を保つ行動を人に強います。

一貫性を保つことは三つの強力なメリットがあります。
1. 社会から高い評価を得られる
2. 「いつもこうしているから」で思考のショートカットができる
3. 思考の逃げ道になる

朝令暮改という四字熟語にもある通り、一貫性のないものは社会的な信頼を得られません。社会で生きる上で不可欠な信用を得るために一貫性を保つことは必須と言えるでしょう。

また一貫性は思考のショートカットとして機能します。「いつもこれを選んでいるから」というように、一貫性に基づき選択することで、思考量を大幅にカットできるのです。「考えるという本当の労働を避けるためなら、人はどんな手段にも訴える」というジョシュア・レノルズ卿の言葉からも、一貫性がいかに魅力的かわかると思います。

それに加えて、一貫性は不都合な真実から自分を守る逃げ道になります。たとえ自分の選択が論理的に間違っていたとしても、「今までこうやってきたから」という一貫性を盾に人は間違った選択を正当化し続けるのです。正しい選択を考え直す手間を考えると、一貫性にしがみつくことはバカげたことだとも言い切れません。

一貫性を説明する上で重要なのがコミットメントです。コミットメントとは、「自分の意見を行ったり、立場を明確にすること」で、一度コミットメントしたものに対して、人は一貫性を保とうとします。この一貫性の磁力は非常に強力で、アメリカ兵捕虜を中国共産党の支持者へと教化してしまうほどです。

③社会的証明
一言で説明すると、この法則は「人はどのように振る舞うかを決めるときに、他の人々がどのように行動しているかを重視し、模倣しようとする」というものです。

この法則は特に二つの条件下で強い影響力を持ちます。
1. 不確かで自分の選択に自信が持てない状況にある状況にある
2. 参考にする他者が自分と類似している

この社会的証明の恐ろしい点は集合的無知を作り出す点です。人は自分の選択に自信が持てないとき、社会的証明の法則により他者の振る舞いを模倣しようとします。しかしその他者も同様にどうすればいいかわからない場合、皆がすまし顔で他者の様子を伺い、結果誰も自分の頭で考えて行動しない、集合的無知という状態になってしまうのです。

集合的無知が発生すると、たとえ目の前で人が倒れていても「他の人がすまし顔で傍観しているから大丈夫だろう」と皆が思い、明らかに助けを必要としている人が見殺しにされてしまうことさえあります。集団で活動する際は、集団を誤った方向へ向かわせるこの法則を常に警戒する必要があると言えるでしょう。

④好意
一言で説明すると、この法則は「人は自分が好意を感じている人に対して賛同する」というものです。

好意を引き出す上で人に影響を与える要素として以下の5つが挙げられます。
1. 身体的魅力
2. 類似性
3. 称賛
4. 馴染み深さ
5. 好きなものとの関連性

世界で最も成果を上げた自動車セールスマンのジョー・ジラードもこの好意の法則を利用していたそうで、ものを売る際に強力な効果を発揮します。

⑤権威
一言で説明すると、この法則は「人は権威者からの要求には逆らうことなく従ってしまう」というものです。権威者とは例えば政治家、お金持ち、医者や専門家などの社会的な影響力が強いとされる人のことを指します。一般に権威者は優れた知性と力を持っているため、そうした人たちに従うことは適切であることが多いです。このため人は権威者の要求に盲目的にしたがってしまう傾向にあるのです。

権威の影響力は非常に強く、たとえ他者に危害を加えかねない命令でも、人は権威者から命令されれば盲目的に従ってしまうことが実験から明らかになっています。

チームで行動する場合、この権威によってメンバーの思考力を奪わないようリーダーは最大限配慮する必要があるでしょう。

「チーム内での権威者であるリーダーの指示は正しいだろう。」こんなふうにメンバーが考え、盲目的に指示に従っている状況では、リーダーが間違いを犯した時、誰もその間違いに気づいて軌道修正することができません。また「なぜこれをやるのか?」と目的を意識しながら、必要なことを自分で考えて実行する主体性をメンバーから奪ってしまいます

メンバー全員の思考力を引き出し、チーム全体のパフォーマンスを最大化するためには、権威の影響を抑えるためにリーダーが工夫する必要があるのです。

⑥希少性
一言で説明すると、この法則は「人は手に入りにくいものに価値を見出す」というものです。より本質的には、「人は機会を失いかけると、その機会をより価値あるものとみなす」という原理があります。「数量限定」「最終セール」などはまさにこの法則を用いたテクニックだと言えます。

この法則が強い影響力を持つ理由は二つあります。
①希少性が手っ取り早く確度の高い判断基準であるから
②人は自由を失うことに強い抵抗感を持つから

①はイメージがつきやすいと思います。一般に手に入りやすいものよりも手に入りにくいものほど価値が高いことが多いでしょう。

②は人間の根源的な欲求に根差しています。人間は自由を奪われることに強い抵抗感を持っています。(このことは二歳児を対象とした実験などから明らかにされています。)何かが手に入りにくくなるということは、手に入れる機会 = 自由を奪われることになるため、人はこれに争ってなんとしても手に入れたいと思ってしまうのです。

影響力の武器は小手先のテクニックか?

ここまで「影響力の武器」の中で紹介されている人に影響を与える6つの法則について見てきました。これらの法則はどれも人の本能や文化に根付いた根源的なもので、この法則を悪用する人から身を守ることができるという点で本書は非常に価値があると思います。

ではこれらの法則を応用して日々の生活を良くすることはできないのでしょうか?

この本で紹介されているセールスマン達のように、自分の利益のため他人から承諾を引き出す目的でこの法則を利用することは、「7つの習慣」で著者のコヴィー氏が言うところの「小手先のテクニック」だと言えるでしょう。このようなテクニックは人間関係を一時的に思い通り進めることはできても、人生を長期的に良くするものでないことは明白です。

これに対し、僕は小手先のテクニックではない「効果的」な応用の仕方があると考えています。根源的な法則を「7つの習慣」に則って用いることで人生を長期的に良くすることができるのです。

実は「7つの習慣」の中でも影響力の法則を用いている事例が紹介されています。コヴィー氏が家事の役割分担をするため家族会議を開いた際、家賃や保険料の支払いなど両親が多くの役割を担っていることを知ったお子さんが自ら庭掃除を志願した、というエピソードが紹介されていました。

このエピソードは効果的なタスクの任せ方を説明するためのものでしたが、お子さんが庭掃除を担当することを決める間に、影響力の法則が作用していることがわかります。

お子さんは両親が多くの役割を手をあげて引き受ける場面を目にしていました。このとき家族に対して貢献している、giveしている両親に対して自分もお返しをしなければならないという返礼性が働いています。

次に(おそらくは)大好きな家族が役割を担っているという事実は、「大好きな皆が役割を担っているから」と好意社会的証明の点でもお子さんの決断を促しています。

このように強力な法則がいくつも作用する状況を作り出し、コヴィー氏はお子さんに主体的に役割を担う決断を促しました。では法則を使ってお子さんの判断に影響を与えたコヴィー氏は悪者でしょうか?庭掃除からお子さんが主体性を育む機会を得たことを考えるとそうではないはずです。相手のことを思った「Win-Win」なものであれば、効果的に法則を応用することができるのです。

「効果的な」影響力の武器の使い方

ここまでの話を踏まえ、「7つの習慣」に則った僕なりの法則の応用の仕方を3つご紹介します。

①一貫性の法則を使って他者の「第二象限」の活動をサポート
「Win-Win」を意識して他者に影響を与えた
例として、研究室でのメンバーへの声かけがあります。

僕は大学院に通っており、研究室に所属しています。その研究室では多くの共同研究プロジェクトに参画しており、締め切りのあるプロジェクトのタスクを優先し、研究になかなか手が付けられないメンバーが多くいました。(僕自身もその一人でした。)

メンバーの多くが研究に取り組めない現状を変えたいと考えた僕は、研究という「第二象限」の活動にメンバーが向き合えるよう、一貫性の法則を応用しました。

「7つの習慣」の中でコヴィー氏は、活動を緊急性と重要度の二つの軸で分類し、重要だが緊急でない「第二象限」の活動に力を注ぐことが効果的だと言っています。

具体的には、プロジェクトタスクの進捗報告が主だった週一回のミーティングで、個人の研究についての一週間の目標を共有する場を設けました。この目標の共有はコミットメントとして作用し、一貫性の磁力からメンバーが主体的に研究に取り組むようになったと感じています。

相手にとっては、「興味ある研究に打ち込み、世界の最先端を更新する」という志の実現につながる。自分にとっては、「志に向かって走る、活力に満ちた仲間と一緒に自分も走りたい」という個人的な願いを叶えることができる。このようなWin-Winなものだからこそ、双方にプラスになる効果的なものになったと考えています。

ただしこれが自分のエゴの押し付けになってしまうとただのWin、「自己満足なありがた迷惑」になってしまうので細心の注意は必要だと思います。自戒も込めて...。

実はメンバーの中で一番効果があったのは僕自身です。「次のミーティングまでになんとしてでも研究を進めなければ!」と半ば強迫観念のような衝動に駆られ、研究に取り組む時間が以前に比べ圧倒的に増えました。この自分自身に効果があるという点について、次の応用例で掘り下げてお話します。

②コミットメントを自分に使う
先の例のように第二象限の活動に取り組むために一貫性の法則を使うというのは自分自身に対して応用するととても効果的です。

将来の健康のために運動する、スキルアップのため毎日勉強する、家族の絆を育むため休日一緒に過ごす、といった第二象限の活動は、緊急のタスクに追いやられ実践することが難しいものです。

これに対して「僕は毎日運動します」と他者に対してコミットメントすることで、一貫性の磁力によって運動せざるを得ない状況を作り出すことができます。「友人に三日坊主とか言われたくないしな、、」という思いは、急に入った重要でもない雑務から意識を引き戻してくれるのです。

このように他者に対してコミットメントを行うことは心理学においてパブリックコミットメントと呼ばれ、習慣を継続したり長期的な目標を達成する際に効果的だと言われています。

研究目標の例の他に、僕は友達との週一のミーティングを実践しています。このミーティングでは違いの1週間の振り返りと次の週の目標を共有し、曖昧な部分や改善点について掘り下げます。「共有した目標に対する結果を来週のミーティングで報告するんだ」と思うと、一貫性の磁力が自然と背中を押してくれるのです。

このミーティングを始めてから、僕は1週間の計画立てを欠かさないようになりました。

「7つの習慣」でコヴィー氏が言うように、第二象限の活動に時間を注ぐために1週間の計画立ては非常に有効です。しかし1週間でどんな役割を果たしたいか、それぞれの役割でのタスクは何か、各タスクをいつ行うかなどを考えるためにはある程度まとまった時間が必要です。ミーティングがあるからこそ時間をとって計画立てすることを継続できています

最後に実践してみて気づいたパブリックコミットメントの注意点についてご紹介します。

一番注意するべきことはパブリックコミットメントを増やしすぎないことです。コミットメントに対する一貫性は非常に強力で強迫観念にも似た強制力を持ちます。強制力のあるコミットメントが5つも6つもあったらどうなるでしょうか?

「毎日運動します」「毎日勉強します」「毎朝6時に起きて〜」...
ひとつでも大変なのに毎週、毎日、毎時強迫観念に駆られる生活が健全だとは思えません。効果的な人生のために一貫性の磁力に引きずられる生活が主体的だとは言えないのです。

習慣は60日続けば身につくそうです。なので一度に使うコミットメントは1つか2つ程度に抑え、1つ身に付くごとに新しいものに取り組むというやり方が挑戦と主体性のバランスが取れた形なのではないかと僕は考えています。

自主的に行うパブリックコミットメントだけでなく、他人との約束というコミットメントにも注意が必要です。他人とのコミットメントは非常に強い磁力を持ちます。安請け合いして他人との約束を増やすと1週間のほとんどを他者との約束を守るための強制的なタスクに占められるなんてことになってしまいます。

他者と約束する際は本当に約束を守れるだろうか、その約束を守るために自分にとって重要なことを犠牲にすることにならないだろうか、と細心の注意を払うことが重要でしょう。その上で受け入れられないものについてはきちんと断ることができる人こそ主体的で責任感があると思います。

安請け合いしないというのは僕自身の失敗から重要だとわかったことです...最近はこの項目を強く意識して活動するようにしています。

③影響力の法則から格言を紐解く
格言の中には、影響力の法則に則ったものが多くあります。このためそれらの格言に従って行動する人は、無意識に法則を活用して人に影響を与えているのです。また長年言い伝えられる格言は原則に則したものばかりなので、効果的に人に影響を与えることができます。

リーダーとして他者を巻き込んで物事を進める必要がある人は、出会った格言を6つの法則に照らし合わせてみることがお勧めです。法則に則っているものを取り入れることで効果的に他者に影響を与え、チーム全体をいい方向に導くことができるでしょう。

僕が実践した例として、「giveから始める」という格言があります。(この言葉は経験豊富な方からのアドバイスなので格言とは少し違うかもしれませんが。)この言葉は、相手からの協力を得たい場合は、まず自分が相手に協力する、giveすることが重要だと言っています。実践した後で気づいたのですが、このアドバイスは返礼性の法則とインサイドアウトの原則に基づいているから効果的だったと考えています。

研究室の新入生の研修担当になった際に、僕はこの「giveから始める」を意識しました。研究室のプロジェクトを進めるためには、新入生に主体的に協力してもらうことが不可欠だったので、アドバイスに従い昨年の倍以上、新入生のフォローに力を注ぎました。

この結果「自分にも手伝えることはありませんか?」と主体的に協力してもらえるようになり、新入生メンバーの力もあって困難な場面も乗り越えることができました。giveから始め、giveし続けたことで返礼性の法則が働き、新入生の主体的な協力に繋がったと考えています。

今回取り上げた「giveから始める」のように、格言の中には効果が分かりづらい、すっと納得できないものも多いです。そんなとき格言を6つの法則と「7つの習慣」に照らし合わせることで、効果を明確に意識することができます。時間のかかる取り組みであっても、効果的だということがわかっていれば継続しやすくなるのではないでしょうか。

まとめ

この記事では、「影響力の武器」で紹介されている人に影響力を与える法則を、「7つの習慣」に即して効果的に活用する方法を3つご紹介しました。「別にリーダーを務めているわけでもないし」という人でも、コミットメントを自分に使ってみるだけで日々の生活に変化が現れるはずです。是非一度実践してみてください!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?