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Shin Seed


20xx年
日本某所にて生命体らしき謎の物質が捕獲される。

捕獲したM氏は古くからの友人であり動物学者のE氏に連絡を取り、駆け付けた
E氏はすぐに未登録の新種であることを確信した。

この黒いアメーバ状の物体は直ちに同氏のラボに運ばれX線やMRI、DNA鑑定が施されたが、驚くべきことに全てがそれまでに発見されてきた地球上の生命体とは異なる組織を有していた。

消化器官と思われるものは何処にもみられなかったが
試しにコウモリのケージに入れてみると、物体はすぐさまコウモリに襲いかかった。しかし捕食するわけでもなくコウモリの口に自ら呑まれ姿を消した。

異変が起きたのは次の日からである。コウモリは強暴性と異常なまでの食欲を発現した。
餌をいくら与えても平らげ、最終的には腹が破れる直前まで食べることを辞めなかった。そして寝ている時以外ひたすらに食べ続ける事を辞めなかった。

後日M氏のもとを訪ねてE氏は唖然とした。ミニマリストをうたっていた彼の部屋には夥しい程のフィギュアと服、植物で溢れかえっていたのである。
所狭しと並べられた物の中には
色やサイズが違う以外全くの同種も数多く見られた。

M氏は黙ったままE氏の前に通帳を置いた。おそるおそる開いてみると残高は数円を残すのみであった。
そしてM氏は力の無い声で呟いた「本当はフィギュアとか服とか自分の好きなものに囲まれたいと思っていたんだ。それで1つだけネットで買ってみようと思ったんだ。それなのに。。買っても買っても止められない。まだ足りない、まだ足りない。何個買っても、全然満足しないんだ。カードも限度まで使い果たした。きっとあの黒い物に触れて、おれはおかしくなってしまったんだ」
既に彼が知っているM氏ではなくなっていた。 E氏は恐ろしくなり部屋を飛び出した。

急いで車に乗り込むと彼はラボとは反対の都心部へと走り出した。

数日後、都内某所にて変わり果てた姿で発見された。目撃者によると、彼の両腕には持ち上げられないほどのショップバッグで溢れかえっていたそうだ。
その中に個体保護の為、今では輸入禁止となった動物の皮やファーを用いた物も数多く入っていたらしい。

後の研究でこの物質は宿主の欲望を際限なく刺激し続け、分裂を繰り返しながら次の宿主へと広がっていく性質があると認められ
特S級の隔離生物となった。
七つの大罪と創世記の知恵の実からとって
“Shin Seed” (※以下SS)
と名付けられ、今も米国研究機関の最深部に保管されている。

この物質はおそらく遥か古来より地球に存在し、あらゆる生物に寄生してきたと思われる。そして時には進化や発展を齎し、時には人を終わらぬ欲望の獄炎へと誘った。
今も何処かで新たな宿主を求めて闇に紛れているに違いない。。

〈親創黙示録より一部抜粋〉

本品は極秘ルートにてE氏のラボ跡地から入手したSSの一部である。驚くべきことに親創黙示録にも記載があったコウモリの物と思われる頭骨にへばりついている。
宿主が死んでいるためか
現在は活動停止しているようだが、絶対に開封しない事をおすすめする。

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分かってると思いますが、フィクションです。

自分が好きな物を所有したいと思うことは愛か罪か?とふと思ったことがきっかけで、僕の好きな骨や、植物のコレクション、SF映画、ファッションやミュージック等のストリートカルチャー、SNSでたまたま見つけたぐちゃぐちゃした物をみて、紆余曲折を経ながら最終的にこの形に辿り着きました。

ダイレクトに生命と関わる趣味は、人によっては所有することや手を加えることにアンチな意見もあると思います。
ですが好きという気持ち自体が間違っているかというと簡単には答えられません。

文中にあった輸入禁止の部分に関しては、法の発効の前後かで判断も変わると僕は思いますが、人によってはそこではなく生命を趣味で消費するなと考える人もいるでしょう。

レザーやファー製品は基本的には食肉動物の皮を用いることが多い為、残さず使う事こそ大事だという意見とそもそも生命を奪わなくても人は生きていけるという意見もあります。

この作品には、人よりも良い物を持ちたい。人に自分のものを褒めて欲しい。良い物を持つことに自分の価値を見出すと思う気持ちが進みすぎて、いつしかモラルだけでなく法さえも犯してしまうひとは後を立たない現状のメタファーも含まれています。

文中のM氏とE氏は
とめどない物欲のままに動く自分と、それを客観視してこれ以上はやめといた方がいいなぁと自制する自分ににも置き換えられるし、欲の権化とも言えるSS自体が自分とも捉えられます。

制作にあたり
デザインとは課題を解決するための手段
(背中痒い!からの孫の手作っちゃう)
アートは課題を提示するための手段
(環境破壊に関してあなたはどう思うか?など)
と捉えてきた為、僕はARTはもっぱらインスピレーション源や読み物という認識でした。

性格的にも「これってどう思う?」よりも「僕は〇〇をこう解釈した!」が向いていると思ってきたし
ファッションデザインを本格的な生業としてからは着にくいことをARTと誤魔化すヘッポコデザイナーへのアンチもあって、ARTとデザインに線を引いていました。

でも、今回の課題を見つけた時、繰り返しになるけれど答えは自分1人では見つけられませんでした。
なので小さいながらもShin Seedをアートオブジェクトとして成立させるために全力を注ぎました。

見た人が、格好いい!と思うか、イヤイヤとか、色んな気持ちや考えはお任せします。色んな事を考えるきっかけになればいいな(決して良いこととは思わないけれど)と思います。

色々意見があるかと思いますが
もう少し数が増やせたら販売も開始していくので、お部屋でじっくり眺めたい方はもう暫くお待ちください🙇‍♂️

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