見出し画像

キーガンの成人発達理論をメンタリングに応用する

以前、成人発達理論家のロバート・キーガンさんのdevelopmental theoryについてご紹介しました。

キーガンのadult developmental theoryについて今学期も学んでいるので、今回はこのキーガンの成人発達理論を メンタリングでどのように応用していくかについて書きたいと思います。

Mentoringとは

まず、メンタリングとは何か

様々な定義があるなかでこちらがしっくり来たので原文を載せます

The purpose of mentoring is tied to the goals of learning by transformation. The goal of mentoring is to help adult learners transform themselves to realize their own full potential.

メンタリングをする側をmenor (メンター)、受ける側をprotégé (プロテジェ)またはmentee (メンティー)と言います。

ちなみにprotégéはフランス語で「保護を受けているひと」という意味らしい。ここではわかりにくいのでメンティーの方を採用します。

定義によると、「mentor (メンター)」とは、「mentee (メンティー)」が自分自身の可能性に気付けるようにtransform (変容)を促すことを目的とした役割を持っている、ということ。病院でよく導入されているプリセプターシップは技術の習得のサポートも含まれますが、このメンターシップはどちらかというと内面の変容を促すので同義語ではありません。また、アドバイザーも混同されやすいですが、アドバイザーは「答えを持っている」という点でも違いがあります。(メンタリングのなかにアドバイスが含まれることはもちろんあります)

そして、メンタリングに着目したキーガンさんは、

「メンタリングをする際に成人発達理論を理解するってめっちゃ大事じゃない!?」ということを提唱しています。

Constructive-developmental theoryの復習

ここで一度、キーガンさんの成人発達理論に戻ります。

キーガンのConstructive-developmental theoryとは、個人が経験をどのように意味づけして、発達していくかということに着目した理論です。私たちおとなは、成熟するにつれて物事を主観的な視点(subjective)から切り離して、客観的にみる(objective)ことができるようになり、意味づけの仕方が変わっていきます。

小さい頃はすべて自分の目でみて自分のなかで物事を捉えていたのが、だんだんと自分を取り囲む環境と自分との関係性のなかで物事を捉えられるようになり、主観から客観へと変容/発達していきます


画像1

以前も掲載した画像ですが、ステージ3では家族やコミュニティやパートナーと関係性をつくっていくなかでだんだんと自分の客観性をつくりだし、ステージ4では完全に自分をobjectiveに見られるようになり、判断は自分にゆだねられます。そして最後のステージ5 Self-transforming mindの段階ではひとつのアイデンティティに縛られず、まわりのさまざまな価値観を知り、くみ取って自分自身の意見を持つことができる、という段階になります。

99%の成人はステージ3か4、ステージ5まで到達するのは上位1%とごくわずかです。

このsubjectiveとobjectiveのバランスによっておとなは成長/発達をしていくという理論です。

メンタリングへの応用

さて、この理論がメンタリングにどのように応用されるのかというと、

「自分を取り囲む環境と自分との関係性のなかで物事を捉えられるようになり、主観から客観へと変容/発達していく」という部分の、「自分を取り囲む環境」の部分が鍵となります

原著ではこの「自分を取り囲む環境」のことを holding environments と書かれていて、正式な和訳本では 支持する環境 と訳されていました。

ここでは、またまた自己流に「取り囲む環境」と訳します。笑

この取り囲む環境には3つの要素が含まれています。

1) confirmation (支持、認める) 2) contradiction (矛盾) 3) continuity (継続)

「かわいい子には旅をさせろ」ということわざがあります。

かわいいと思う子供には旅をさせて、世の中の大変な経験をさせなさい、という教えです。

まさにこのことわざには holding environmentの3つの要素が含まれています。

お母さんは子供を愛情いっぱいに育てていて、とても大切に思っていて子供にもそれが伝わっています(confirmation)。ですが、いつまでもぬくぬくしていたらそのこのためにならないから違う環境に飛び込ませなきゃ、という一種の矛盾が生じます(contradiction)。旅にでた子供は困難に直面しながらも新しい生活をつづけていきます(continuity)

そしてまた、その新しい場所が居心地がよくなったら( confirmation )また矛盾が生じ(contradiction)、と繰り返されていきます。

メンターの役割は、この3要素を含めた取り囲む環境をメンティーにつくってあげること、というわけです。

メンティーがほっとできる承認と、殻を破れるような矛盾をつくりだしてあげること、そしてそこで継続できるように支えること、だと感じました。

そして、メンティーが発達段階のどのステージにいるかを把握することで、メンターはよりメンティーに合った取り囲む環境を提供できる、というのがキーガンの考えです。(holding environment must be tailored to the protégé's meaning-making structure and must meet the needs of that particular developmental stage. p.405)

たとえば、メンティがステージ3なのとステージ4では同じメンタリングの関わり方をしては効果が異なってしまいます。

ステージ3の人は関係性を重視し、まだリードしてくれるひとを必要としているので多少なりともメンターは道しるべを提示したり「ともに考えていく」という寄り添いが重要です。ステージ3のメンティはメンターに対して「自分が正しいことをしていると承認してほしい」という気持ちがあるので、しっかりと承認をしながら矛盾をつくりだしてあげる関わり方が求められます。

一方、ステージ4の人はもう客観的に自分を捉えることが可能であり、「ともに考えていく」姿勢でこられるとうっとうしく感じてしまうリスクがあります。そのため、メンターはメンティの自立を支えられるスペースをつくり、自分自身の価値観に基づいた判断を認めてあげるという関わりが重要です。

そしてステージ3ならステージ4へ変容できるように、ステージ4の人には5へ変容できるように、と発達段階が次のステージにいけるよう支えていくことが冒頭に書いた「自分自身の可能性に気付けるようにtransform (変容)を促すこと」というメンタリングの役割と一致するのです。

相手がステージ3なのか4なのか5なのかを把握するのも大変ですが(それを把握するための subject-objcet interview guideというインタビューガイドがあります)、反対にメンターよりメンティの方がステージが上、なんていう事態もでてくると書かれていました。

理論が実践にどのように結びついていくか、授業で習ったときにとても興味深かったです!

メンタリングは興味のある分野なので、また他学科の授業(psychologyの要素が強そう)で実践を学べたらいいなと思っています。


またぼちぼちnote再開していきます!

参考文献

McGowan, E. M., Stone, E. M., & Kegan, R. (2007). A constructive-developmental approach to mentoring relationships. Sage. p 401-425






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?