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映画「テラビシアにかける橋」の指輪 〈映画の指輪のつくり方〉第72回

心の目を開けて
2007年公開映画「テラビシアにかける橋(Bridge to Terabithia)」
文:〝美根〟(2023年4月28日連載公開)

先日、小中学校で仲が良かった友だちで久しぶりに集まった。顔の筋肉が痛くなるくらいたくさん笑って楽しくて最高だった。それぞれに覚えていることがバラバラだったり、意外なことを共通して覚えていたり、話していくうちにみんなで思い出したり。多分その瞬間の脳波を測ったら、過活動すぎてやばい数値が出たと思う。

ほんの些細なことでも、「そんなことあったね」と大人になってから楽しく話せるって、嬉しいし、ありがたい。目で見ていたもの以外にも、みんなで好き勝手に空想した世界や気持ち、たくさんのことを共有していたな。子供の頃の、多感で、目の前に飛び込んでくるもの全てをいちいち全力で受け止めていた時に見えていた世界は、今となっては面白おかしくて愛しく思える。自分にとって、猛烈に黒歴史だったことを、友達は当時違うように見てくれていたということもこの日わかって、少しそう思えるようになりました。まじありがとう。また会おうね。

というわけで、今回は子供に感じていた特有の世界を思い出させてくれる映画「テラビシアにかける橋」を紹介します。

二人で見つけたテラビシア

ジェスは、絵を描くのが大好きな少年。5人姉弟で姉二人と妹二人に囲まれ、仕事に追われる父と、家計のやりくりに苦心する母と暮らしていた。学校では上級生や同級生にいじめられ、家では父の仕事を手伝いながら、あまり裕福とはいえない暮らしの中で、両親の思い詰めた表情や言動に、わがままも言えず、窮屈さや寂しさ、孤独を感じていた。

ある日、クラスに転校生レスリーがやってきた。彼女は徒競走で男の子達に混ざって一位を取ったり、作文で先生に褒められたことで、いじめっ子に目をつけられてしまう。周りから好奇の眼差しを向けられるレスリー。彼女と、彼女が書いた作文の世界観に、惹きつけられるジェス。仲良くなったジェスとレスリーは、家の近くの森で、川の向こう岸に飛び超えられるロープを見つける。川を超えると、そこは二人だけの王国。そんな「テラビシア」という国を作り、二人は冒険の日々を送っていたが・・・。という話。

細やかな描写、子供達が見る世界

この映画の素晴らしいところは、登場人物の性格や、彼らが感じる日常に漂う寂しさや切なさ、反対に開放感や冒険心を、語りすぎずに映像で感じさせてくれるところ。

主人公ジェスは口数が多くはないので、無言で何かを見ていたり、考え込んだりする場面が多い。最初のシーンで徒競走の練習を黙々としているジェスの描写や、父の厳しい言葉を耳にした時の表情。両親が生活のやりくりに頭を抱えている姿に気がつき、視線がふと父と合ったのちにそらすといったちょっとしたカメラのカット割り。さりげない日常の描写だけど、ジェスの家族思いで実直な性格や繊細さ、孤独感、焦燥感、窮屈さを自然に映像に落とし込んでいるので、見ている方も同じ世界にいるような気持ちで物語にのめり込んでいく。

信じれば全て本物

そんな日常から逃れるように、転校生レスリーとジェスは森の奥の川をロープで飛び越えた先に、「テラビシア」という国を見つける。心の目を開けば見えてくるその世界では、ジェスとレスリーが王と女王だ。秘密基地を作り、敵と戦い、冒険する場面は、爽快で心が耕されるようにワクワクが溢れてくる! 私も子供のころ秘密基地作ったなぁ! 目に見えるもの全てが自分の世界の住人だったなぁ・・・。そんなことを思い出して、胸がいっぱいになる。

テラビシアには、巨人がいたり、王国を守る戦士たちがいたり、ちょっと宙に浮くことができたり、ものすごいスピードで走れたり、そして木に登れば美しいテラビシアを一望できる。このテラビシアのシーン、現実世界と大きく変わらずに描かれるところが面白い。それがすごく良い。そうなんだよね。だって、本当なんだもん。頭で思い描いた世界だけど、本当に見えてる世界なんだよね。何にだってなれる世界。この子供リスペクトな演出が、すごい。これはなかなかできることじゃない。

大人にならなければいけなかった現実

テラビシアを「ただの空想の世界」というのは簡単だけど、全然違う。私も、友達と同じ世界を共有しながら遊んだり、学校や放課後を過ごしたりしていた。それは、紛れもない本物で、だから楽しくて、その時間がキラキラして見えたし、日常とは違う世界に行けて、日常を頑張れる支えでもあった。

ジェスは「夢ばかり見るな、現実を見ろ」と父に言われてしまう。思い詰めた両親の姿やいじめられる学校での生活、いやでも現実が迫ってくる、子供でありながら子供ではいられない環境。大人にならざるを得ないジェスが描かれる。同じようにクラスに馴染めず、両親も多忙なレスリー。二人にとってある意味で、現実から逃れられる場所、心の拠り所である素敵な場所がテラビシアだった。

子供達は皆、子供らしくいられるのなんてほんの一瞬で、言葉や表情が分かり始めた瞬間から、いろんなことを考える小さな大人にならざるを得ないのかもしれない。そんな子たちが、心を解放させて、心の目を開いて、見る世界。自由に描き自分のままでいられる世界が、無邪気で冒険に溢れていて美しくワクワクするような場所であることが、切なくてたまらない。

橋をかける、ということ

今回、指輪は、ジェスとレスリーの秘密基地にしました! ハシゴの上でジェスがさっきまでレスリーの絵を描いていた!という設定で作ったので是非みてね。

こんな森があったら私も遊んでみたい! カバーした「I Learned From You」もすごく良い曲だった。ぜひ原曲聴いてみて。懐かしい雰囲気のサウンド感にグッときた。歌詞も良い。上手く訳せてるかわからないけど、間違ってたら教えて!よかったら褒めてくれ!

自分の子供時代のことを、景色だけじゃなく、感覚で思い出させてくれるこの映画。みんなが描いていた世界に想いを馳せながら、是非観てほしい。

どこへでも、どこまでも行ける心を忘れないでいよう。

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モチーフ:テラビシアの秘密基地、レスリーの似顔絵
音楽:カバー Miley Cyrus「I Learned From You」
BGM Steve Earle 「Someday」

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