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第4回 航空機内医療 ~航空機内で出来る医療とは?~

みなさん、こんにちは!いつも読んでいただき、ありがとうございます!前回は過激(?)な内容になりすぎて、一部の方にご心配をおかけしてしまいました(;^_^A だからといって内容を訂正するつもりは全くないのですが、一応申し上げておきますと、JALや医師会を全否定しているわけではなく、あくまであのタイアップが(競争相手のANAのシステムもふまえて)ちょっと??と疑問に思っただけです!そして全てはあくまで邪推なのであしからずー!・・・本日は落ち着いた内容でお送りしたいと思います(笑)

そもそも私たち医師はどのように患者さんを診るのか?

これは勿論、診療科ごとに異なる点が多いのですが、根底は同じだと考えています。流れとしては、①症状やその経過を聞いてから、既往歴など含めた個人情報を念頭に診察して②総合的に"疑わしい病気ランキング"を頭に浮かべ③ランキングの中のどれなのか絞るために細かい検査をしていきます。なお、②でランク付けするときには「頻度の高い病気」と「見逃したら危険な病気」を主軸に考えて、「稀な病気」については急がない限りはランキング下位においておきます。

例えば、主な症状が胸の痛みであれば、心筋梗塞(心臓の血管が詰まって心臓の動きが悪くなる病気)や大動脈解離(カラダの中の大きな血管が裂けてしまう病気)、それからテーマ的には肺血栓塞栓症(昔でいう、エコノミークラス症候群)や緊張性気胸(肺に穴があいて吸った空気がどんどん肺の外に漏れて、もはや肺が膨らむ余裕がなくなる病気)、食道破裂などが「見逃したら危険な病気」です。逆に「頻度の高い病気」は挙げれば枚挙にいとまがないのですが、肋軟骨炎(肋骨と胸骨のあいだの炎症で、原因はよくわからない)のような筋肉や骨に由来するものが最も多く、気胸を含めた肺炎などの呼吸器疾患や、胃炎やマロリーワイス症候群(大学生御用達?!)などの消化器疾患、不安症やパニック障害、中には五十肩や単なる咳のし過ぎで痛くなることもあります。

ある程度絞ったら、いよいよ③です。ここでは心筋梗塞を疑ったとしましょう。通常の病院であれば、細かい診察に加えて心電図や心臓超音波検査、採血などを行って、やはりそうだ!!となればカテーテル検査/治療へと移行します。

航空機内ではどこまでできるの?

残念ながら航空機内では①も充分にできず、極めてpoorな"ランキング"しか想定できません。具体的に航空機にはどんな機材が搭載されていて、どのような過酷な環境で患者さんと向き合わなければならないのか、考えてみたいと思います。

航空機内における①の阻害因子

たくさなると思いますが、パッと思いつく大きな要因を考えてみました。
<問診の壁はない?>
たいていの方ならストーリーを伺うことはできると思いますが、
・言語が通じない
・高齢者でなかなかおはなししてもよくわからない
・そもそもツラくて話せない   etc...
→これらは日常診療でもよくあることなので、航空機内特有の壁とは言えないでしょう。

<病歴の壁>
・まさか病気になると思っていなかったので、最近のことなんて覚えていない
・お薬手帳は病院にいくときしか持って行かないからわからない
・通っている病院の診察券は自宅に保管してある   etc...
→これは航空機内特有ではないものの、病院外医療では大きな壁となってくるものです。
そういった点から個人が医療情報を持ち歩くことはとても大事になってきます。

<診察の壁>
・"病歴の壁"のせいでアプローチすべきエリアが絞れない=なにをすべきかとても悩む
・騒音のせいで、たいていの聴診器の音が聞こえない
・その他の一般的な診察器具が不足している

これらの大きな壁のせいで①のクオリティはとても下がってしまいます。

JAL / ANA の搭載機材は・・・

<診察の壁>で申し上げたものの、航空機内には以下のような器具は搭載されています。意外と知らない医療関係者も多いのではないでしょうか。
私ははじめて見たときに「あれ?意外とあるもんだなあ」と思った記憶があります。

2社とも自社サイトにまとめページ(JALはこちら、ANAはこちら)があるので参考になります。先月、某機内で資料を拝見したところ、薬剤は少しアップデートされていた気がしました。しかし実際のセットやデバイスは1度開けてしまうと始末書が必要です(怒)とスタッフの方に指摘され、それ以上の追及を泣く泣く断念しました(笑)
実際に有用なデバイスは搭載されています。上記でいうところの①のクオリティをあげてくれるデバイスは聴診器(聞こえないけど)、血圧計(聴診法は無理だけど)、パルスオキシメーター、心電図モニター(Ⅱ誘導だけだけど)、血糖測定器(患者さん本人以外の誰がどこまでやっていいのか謎だけど)、サクション(吸引器)あたりでしょうか。あと、後述しますが、騒音環境下では筆談がとても有用なため、ANA搭載の筆談ボードは、そういった視点からも有用となります。あともちろん、AEDは必須ですね。

私は職業柄、ジェット機やプロペラ機、ひいてはヘリコプター内で患者さんと接することが頻繁にありますが、聴診器だけはマトモに使えたためしがありません。とにかくエンジン音などでなんも聞こえないんです。例えば、酸素化不良となっても、気管挿管したあとの5点聴診ができないため、バッグマスク換気で凌いでいます(実際、有効な酸素投与±換気をするために多くのケースでは必ずしも挿管する必要はありませんしね)。ただ、ヘリコプターに比べてその他の航空機では比較的参考にできるときもありますが…(騒音に慣れすぎた?!)
今後はノイズキャンセリングもついているような電子聴診器や、もはや聴力に頼らなくても視覚で評価できるデバイスを用いて、どれくらいやれるのか試したい!と考えている(やるなら自費だろうなぁ・・・泣) 個人的には小川先生の超聴診器などがこういった場面でどういう活躍をしてくれるかワクワクしています。肺音の電子化については、後日またレポートします。

また、搭載されていないもので最も有用と考えられるのは超音波機器です。先日もポータブルエコーで、レントゲンには映らないレベルの肋骨骨折や肺気胸を発見することができました。微小な骨折なら見つけたからナニ?って感じですが、気胸については、特に与圧の不十分な環境では飛行高度等を考慮する必要があるため、極めて重要であると感じました。
しかしながら、費用対効果(といっても人命にお値段はつけられませんが)を考えるとなかなか全機搭載は難しいだろうなーという印象です。なお、フライトドクター制度を強固なものにしていくことと、各航空会社ひいては医療経済学的視点におけるcost-effective論争は別の機会にまとめたいと思います。

搭載薬剤から考えてみる

JAL機内にある薬剤は先述したリンクから確認できます。
<注射>
・生理食塩水やブドウ糖液:
いわゆる補液です。様々なケースで用います。
・アドレナリンやリドカイン、クリトパンやアトロピン:
循環作動薬や抗不整脈薬です。血圧や脈など、カラダにとってとても大事な"血の巡り"をサポートしてくれます。個人的には機内食によるアナフィラキシーも考慮して、アドレナリンは筋注用のデバイスも用意してほしいところです(処方するのに講習が必要なのがネック?)
・アミノフィリン:
想定は気管支喘息の発作やその他の呼吸困難でしょう。気管支を広げて呼吸しやすくしてくれます。
・クレイトン:
強力なステロイドです。ショック状態に用いることがあります。
・ブスコパン:
よくわからない腹痛に用いる想定でしょうか?消化管のけいれんを止めたり、運動を抑制してくれます。個人的には腸閉塞だったときがこわいのであまり使いません。
・メチルエルゴメトリン:
妊婦以外の女性の不正性器出血などに使う想定でしょうか。妊娠していたら機内出産になっちゃうかも?!←台湾で機内出産の記事です。産科医がいてよかったー!!
<内服薬>
・ニトロペン:
狭心症で発作が起きたときに用います。リスクのある方であれば、常備している…と信じています泣
・ニフェジピンカプセル:
内服でどれほど即効性があるのか、点滴でしか用いたことがないのでわかりません。
・クレマスチン錠:
アレルギーのお薬で、眠くなるほうのタイプです。
・オフロキサシン錠:
抗菌薬(抗生剤)です。

ん~~~!?って感じのラインナップです。医療関係者の方ならこの気持ち、わかってもらえますかね?じゃあ何があればいいわけ?と言われたらとーーーーっても長くなりそうなので、またの機会にします!

今後の予定

・機長、客室乗務員のリアルな声
・医師の判断で影響を受けてしまうひとたち
・海外の航空会社での事例
・医師たちの思い
・看護師、救命士などはルール外なの?

今回はマイルドにしておきました!(笑)
どうにかせんとイカン!という強い思いを胸に今後も活動を続けていく所存です。
応援?よろしくお願いします!

お願い?

国内のみならず、航空会社関連にお勤めの方や、もちろん医療関係者の方で、一緒にこの問題を解決したい!という方がいらっしゃいましたらコメントをお願いします!
航空会社の方は、機内訓練の際にぜひ呼んでください!一緒に訓練させていただきたいです!
「私、機内で助けられました!」という経験がある方もぜひお話をきかせてください!!!!

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