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C.difficile感染症ガイドライン改訂

Clostridioides(C). difficileとは

C. difficileは偏性嫌気性の芽胞を持つグラム陽性桿菌です。かつてはClostridium属に分類されていましたが、Peptostreptococcaceae科に再分類され、Clostridiaceae科との区別と略称変更による混乱を避けるかたちで、Clostridioidesと新たに命名されました。
多くの抗菌薬に対し耐性を示し、しばしば抗菌薬投与中・後の下痢症を引き起こします。
菌そのものでなく、菌が産生する毒素(トキシン)が下痢を引き起こします。

たとえばアメリカでは2011年のC.diificile感染症(CDI)推定発症数が453,000例であり、約29,000人の死亡に関連したと報告されています(NEJM,2015. doi:10.1056/NEJMoa1408913)。
ただし、その後検査手法の変化、対策がとられた結果、少しずつ減少傾向にあるようです(NEJM,2020. doi:10.1056/NEJMoa1910215)。
本邦はアメリカと比較して罹患率・有病率が低いこと(有病率はアメリカでは1000入院あたり6.9人だが、日本では0.3~5.5と報告されています。Infect Dis Ther,2018. doi:10.1007/s40121-018-0186-1)、強毒株(027株やバイナリートキシン陽性株)が少ないことが特徴的です。

入院中の下痢の原因は

入院中に発症した下痢の鑑別は大きく「感染性」と「非感染性」に分けられます。
まず発熱+下痢、とくれば腸管感染症が想像しやすいと思います。ただいわゆる「3 day rule」があり、入院3日以降は院外感染した細菌性腸管感染症が便培養から検出されることはなく、CDI検出目的以外の便培養検査の意義は乏しいとされています(アウトブレイクは別)。

では入院中の下痢のうち、CDIを含む感染性腸炎がどれくらいかというと、病態や環境にもよりますがだいたい10-20%くらいのようです。むしろ非感染性の下痢が8割程度を占めています(CID, 2012. doi:10.1093/cid/cis551)。
非感染性下痢の原因としては薬物と経管栄養に関連したものが大半です。中には炎症を伴うものもありますので、CDIだけでなく入院中の下痢の鑑別リストから薬剤を除外しないようにしましょう。

CDIガイドラインの主な改訂点

前回2018年版から約5年経過し、今年2023年1月に日本化学療法学会より「Clostridioides difficile感染症診療ガイドライン2022」が刊行されました(web公開のみ、会員限定)。
詳細は、Antaa Slide(https://slide.antaa.jp/article/view/c0cdc9f658eb4672)
ブログ記事:C. difficile 感染症診療ガイドライン改訂
で解説しております。
重要な点は以下の2点です。
1)NAAT(核酸増幅検査)の推奨度が上がったこと
2)非重症例への推奨治療にメトロニダゾール(MNZ)が残ったこと

1)はCOVID-19パンデミックの良い方の影響で、各病院に遺伝子検査機器が導入されたことが背景として挙げられます。
2)は本邦の疫学的な背景を考慮しての結果だと思います。個人的には賛成です。

CDIの診断・治療まとめ At a glance

上記ガイドライン改訂や海外のガイドラインを参考に、CDIの診断・治療について1枚のスライドにまとめてみました(私見含)。
参考にしていただければ幸いです。

CDIの診断・治療まとめ At a glance
MNZ,メトロニダゾール; VCM,バンコマイシン; FDX,フィダキソマイシン


注意点

  1. NAATの解釈
    非常に感度の高い検査ですが、偽陽性が問題となります。
    発熱+下痢+NAAT陽性はほとんどCDIと考えて良いと思いますが、たとえば発熱スクリーニングとしてNAATを行い陽性だった場合、臨床症状がCDIに合致するかどうかきちんと判断する必要があります。例えば、菌血症に伴う全身症状として少量の下痢を認めることがあります。
    ただし、血液悪性腫瘍患者や移植後患者などの免疫不全患者、重症併存症を有する患者では、ある程度のovertreatmentも許容されると思います。

  2. GDHのみ陽性の解釈
    NAATが実施できない場合培養検査(Toxic-culture,TC)へと進みますが、培養検査は時間がかかるため、臨床症状がCDIに合致するのであれば(待てない状態なら)治療開始することは考慮して良いと思います。ただし、他の原因がないか同時に検討することが望ましいでしょう。TCの結果が陰性なら基本的にはCDIの可能性は低いと思います。

  3. Piperacillin/tazobactam
    治療には使えないものの、C.difficileのコロニー形成を抑制できるほど腸管内濃度が高まる可能性が示されています(BMC Infect Dis, 2016. doi:10.1186/s12879-016-1514-2)。
    事実複数の論文でPiperacillin/tazobactamの投与とCDI発生率との間に負の相関があることが示されています(CID, 2014. doi:10.1093/jac/dkh285、CID, 2017. doi:10.1093/cid/cix379)。ただ研究によっては他の広域抗菌薬とCDI発症率に差がないという報告もあるので、確実ではないです(投与量・期間・診断方法なども影響しているのかもしれません)。Piperacillin/tazobactam投与中の下痢はCDIの可能性がやや低い可能性、培養検査を提出しても「ぺんぺん草も生えない」可能性を頭の片隅においておくと良いかもしれませんね(例えば、Piperacillin/tazobactam投与中のCDI疑い例ではNAATが優先、あるいはNAATが困難ならPiperacillin/tazobactamを中止してから再度培養検査を提出するというのもありかもしれません。evidenceないですが。)。
    またチゲサイクリンが効くのと同様に、テトラサイクリン系抗菌薬が効いてしまうことがあります。腸管から吸収されてしまうので通常の治療には不向きですが、腸管外CDIでは応用できるかもしれません。

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