図1

組織にデザイン思考を導入するには?

いたるところで”デザイン思考”という言葉を耳にするようになりました。日本のビジネス界でも一種のバズワードとなり、半ば呪文のように唱えられています。しかし、実際のところその重要性がいまいちわからないという方も多いのではないでしょうか。

今回は、なぜデザイン思考の重要性が急激に高まったのか、また、デザイン思考を組織に導入するコツはあるのかについて解説していきたいと思います。

イノベーションのジレンマを乗り越える

図2

【出所】書籍「イノベーションのジレンマ」Clayton M. Christensen をもとに引用者が作成
http://claytonchristensen.com/books/the-innovators-dilemma/

イノベーションのジレンマという理論を紹介します。
イノベーションには、従来製品の改良を進める「持続的イノベーション」と、従来製品の価値を破壊して全く新しい価値を生み出す「破壊的イノベーション」があり、大企業は持続的イノベーションのプロセスで自社の事業を成り立たせているため、破壊的イノベーションを軽視する傾向にあります。

一方でGAFA(Google・Amazon.com・Facebook・Apple Inc. の4つの主要IT企業の略)のように、破壊的イノベーションによりまったく新しい価値を生み出し、そしてどの企業においても無視できない存在になってきている現状があります。

イノベーションのジレンマとは、業界における大企業が顧客のニーズに応えて製品改良を進める結果、新興企業に遅れを取り、やがて需要を失ってしまうという考え方です。先ほど挙げた「持続的イノベーション」を重視するがゆえ「破壊的イノベーション」を起こす新興企業の前に力を失ってしまうことを表しています。

図3

日本の電機メーカーが生み出した携帯電話市場はまさにイノベーションのジレンマによって起きた現象として知られています。

日本独自の携帯電話文化が醸成されたことで日本企業は携帯電話のハイエンド化を目指す一方、アップル社はスマートフォンという破壊的イノベーションを生み出しました。その流れに日本企業は出遅れ、世界の最先端とされてきた日本の携帯電話はいずれとガラケー(ガラパゴス化した携帯)揶揄されるまでに陥落することとなりました。

そのため、どんなに成功した大きな組織であっても既存の事業をしていれば生き残れる時代ではなく、また業界全体が他の業界に飲み込まれる可能性もあり、企業が生き残っていくには「イノベーションのジレンマ」を乗り越える必要があります。

デザイン思考で新しい価値を生み出す

図4

このような状況を打開する方法の1つとしてデザイン思考が導入されています。デザイン思考はビジネスやテクノロジー起点ではなく、顧客(人間)が抱えている課題を起点に解決策を探索するアプローチです。

図5

【出所】Design Thinking Venn Diagram をもとに引用者が作成
www.ideo.com

デザイン思考を取り入れ顧客を起点にすることで、既存事業による技術やビジネスといった持続的イノベーションに捉われることなく、顧客視点でゼロから全く新しい価値を生み出す能力を高めることが可能になり、破壊的イノベーションを生み出すための創造的で機敏な組織編成に貢献するとされています。

それではデザイン思考を組織に導入するコツはあるのでしょうか?

業界においてデザイン思考を先駆けて取り入れた3つの企業を紹介しながら取り組みのポイントを考察します。

社外の安全なところで種を撒き育てる<SAP社>

図6

SAP社はクラウドベースの次世代ERP「HANA(ハナ)」の開発において、イノベーションのジレンマに悩まされていました。従来事業であるオンプレミス型のERPにとって、次世代ERPのHANAはまさに破壊的イノベーションであり、既存事業を破壊する可能性があったからです。

これまでSAP社の業績はオンプレミス型のERPがけん引していました。大企業であればこのオンプレミス型ERPの改善・改良が第一優先であり、あきらかにオンプレミスの既存事業とシェアを奪い合うHANAの存在は批判の対象でした。しかし、一方でERPのクラウドへの移行は革新的であり、かつ顧客のニーズを真に捉えたものでした。既存事業を破壊するほど価値の大きなソリューションであることがわかりつつも、業績をけん引している既存事業を破壊するようなプロジェクトを会社として推進することができなかったのです。

図7

抵抗勢力から隔離し、顧客と向き合う

そこでSAP社は「社内では既存の事業を脅かすような大胆な製品はつくれない」と判断し、社内の影響が何も及ばない、大学の自由な環境で研究に取り組むことにしました。

そして、HANAのコンセプト開発に一役買っているのがデザイン思考です。「顧客の課題は何か」という顧客の本質的ニーズの探索に集中することで、無意識のうちに課されている既存事業によるバイアスからも解放され、また従来の発想にとらわれない若くて情熱的な学生との共創によりHANAのコンセプトが生まれたとされています。

新しい考え方・アプローチを社内組織に導入する際には摩擦や抵抗がつきものです。SAP社は新しい動きを潰しにかかってくる抵抗勢力から隔離し、実績を作ってから本格導入するというアプローチが功を奏したようです。

導入段階ではインプットを重視する<Whirlpool社>

図8

Whirlpool社は白物家電メーカーです。いまでは米国屈指の成功企業と見られていますが、1999年頃は決してイノベーティブな企業ではありませんでした。

Whirlpool社は「カスタマードリブンのブランド企業」に変革を遂げるべく1999年に組織変革に取り組みました。しかし、組織文化が企業に根付くには長期的な導入プロセスが必要であると考え「The Embedded innovation S-Curve」というプロセスを導入しました。

図9

【出所】書籍「Unleashing Innovation: How Whirlpool Transformed an Industry」Nancy Tennant Snyder、 Deborah L. Duarte をもとに引用者が作成

段階に合わせて評価項目を設計

イノベーションの初期段階では「アウトプットよりもインプット重視」とし、少数精鋭のメンバーに自社に合ったフレームワーク・ツールを開発させ、それを他のメンバーに学ばせるという期間に当てました。ここでは成果測定の項目も、何人にトレーニングしたか、どれだけの発見があったか、といったインプット(経験や学習などの結果)にフォーカスした項目で設計されています。そしてやがてブレークスルーポイントに達し、いくつかの成功実績が挙がってきた段階で、アウトプット(売り上げや利益などの結果)の測定を始めました。このフェーズにたどり着くまで、おおよそ10年間がかかったとされています。

Whirlpool社が成功したポイントは、長期的な視点で組織変革のプロセスを設計しただけでなく、このS-Curveのプロセスに合わせて評価の項目まで設計したところにあります。企業として目指すべきビジョンと、導入過程に合わせて設定されている目標・項目を組み合わせて組織への浸透を図ったことが理解できる事例です。

従業員のエンゲージメントをベースに文化を育てる<Hyatt社>

図10

ハイアット ホテルズ アンド リゾーツは、約50か国にホテルを展開する世界有数のホテルブランドです。 2011年、ハイアットのリーダー達は、顧客の期待がより高度化しており、ブランドロイヤリティが徐々に低下しているという調査結果に危機感を覚え、スタンフォード大学のd.schoolでデザイン思考を学び、組織改革に乗り出しました。

図11

取り組む意義を社内に問いかける

彼らはまず、「なぜ、私たちは変わる必要があるのか?」と自分たち自身に問いかけることから始めました。そして従業員の声を聞き、「我々にとって重要なことは何か」「ゲストとの間にどんなことが起こっていたのか」、また「ゲストはなぜ旅行をするのか」「実際にはどんな体験をしているのか」について深く理解しました。そこで自分たちの提供している体験があまりに画一的すぎて、顧客に対してポジティブな印象を残せていないといった問題点を発見しました。

そしてその問題点に対する活動として、9つのホテルを「Innovation Lab」にして、経営幹部や実際のゲストを招いて改善案を体験してもらい、実験を繰り返すことで解決策を見出していったとされています。またその後も、新しいアイデアを実験できるように支援し、「早く失敗し、そこからの学びをシェアする」というラピッドプロトタイピングの文化が培われています。

ハイアットの事例で興味深いのは、自分たちへの問いかけから始まり、従業員が積極的に関わりながらデザイン思考を推進していけるようにマネジメントしているところです。デザイン思考をカルチャーとして浸透させ、継続的な変革・成長に繋げている好例と言えます。

デザイン思考を浸透させていくために

図12

いかがでしたでしょうか?

デザイン思考のアプローチは有効な一手ですが、先行事例から分かるのは、組織に導入する上で絶対的にこれが正しいというプロセスは存在しない、ということです。

またデザイン思考を浸透させていくためには組織に対して何らかの仕組みや工夫が必要であると言えます。

デザイン思考を組織に浸透させていくうえでのポイント

単発のイノベーションを超えて、
組織がイノベーティブであり続けることを目指す

組織構造、プロセス、カルチャー、
評価基準などの変革を取り組みに含める

従業員のモチベーションを重視し、
時間をかけてカルチャーを醸成する

どんなやり方でも導入には反発や副作用があり、それをきちんと理解し、うまく調整しながら進めることが必要不可欠です。デザイン思考の強みを最大限に発揮できるように企業のビジョンや個性にフィットさせて根気よくチャレンジしていきましょう。

組織へのデザイン思考スキル・導入のためのトレーニングや継続的なアセスメントでのご支援も可能ですのでお問い合わせください。

お忙しい中、最後までお読み頂きありがとうございました。
今回の記事について、またその他にもご質問・お問い合わせございましたら、お気軽にコメントください。

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