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杵と臼

お正月になると、何故か杵と臼を欲しがる母。

テレビに映る餅つきの光景を見ては、目を輝かせています。

父方の親戚から貰ったお餅がとても美味しかったらしく、つきたてのお餅に大変な憧れを抱いていました。

父の実家では、かつては玄関でお餅をついていたそうです。最初は、じいちゃんがついていたそうですが、そのうち各家に回ってくる餅つき専門の男衆にお金を払って、ついてもらっていたそうです。

一方、母の家は貧しすぎて、お餅さえ食べることはできなかったそうな。

「お父さん、あれ(杵と臼)、どこに売っとるんかなぁ?」と母。

つきたてのお餅を買えば、早いと思うのですが・・・。

「さぁ・・」珍しく、生半可な返事をする父。毎年こんな感じでした。

当時子供だった私は、父に尋ねてみました。

「なんで、買うたらんの?」

すると父は、声を潜めてこう言うのでした。

「お前、杵と臼を買ったら、誰が餅をつくと思っとるんか?」

「ああ、そういう事だったんだなぁ」と納得させられたのでした。





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