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研究指導での「知識 vs Google検索 vs ChatGPT」

1年以上前のnoteの下書きに,「知識 vs Google検索」という書き掛けの記事があった。

学生を指導する中で,「知っていること」と「調べるたらわかること」についてどう折り合いをつけて教育していくべきか書いていたが,結局ありきたりな結論になる気がして途中で書くのを諦めた。

そんな中,最近ではChatGPTに代表されるチャットAIが流行りを見せており,「知識」「検索」に次ぐ「AI」という選択肢も出てきている。

そこで,あらためてこれら3つについて整理し,大学教育の現場ではどう向き合っていくべきなのかについて考えてみた。

知らない

学生に研究指導をしていると,「知らなかった」「思いつかなかった」と言われることがまあ多い。

「知らなかったんだからしょうがないでしょ」と悪びれない場合もあるし,「思いつきませんでした,すみません」と平謝りしてくる場合もある。

逆ギレでも謝罪でもどちらでも良いのだが,こちらも「では仕方ない」で済ませてしまってもいいのだろうか?

「知らない」というのはその知識がないということだが,一度理解していても忘れていては同じなので,「覚えていない」も同じ意味だろう。

大学での研究の場合,研究の基礎となる部分はそれまでの授業や実習で学んでいる。

授業内容が知識として身についたかどうかは定期試験やレポートで判断され,その証明として単位が付与される。

なので,単位を持っているのであれば,それに関する知識は持っていて当然だと言える。

研究は授業内容よりも高度なので,授業で扱った「これぐらいは知っておいてよ」に対して「知りません」と言うのは勘弁してほしい。

思いつかない

「思いつかない」は,「知らない」に相当関係してくる。

すぐに答えが出ない問題に直面した時,手持ちの知識を総動員して何か良い方法がないかと考える。

「今までの経験からこの場合はAが良いと思う」と直接的に関係する場合もあれば,「AとBの知識を合わせるとCが良いかも」と間接的に類推できる場合もある。

「思いつかない」を例えると,引き出しが空っぽな状態(知らない)か,どの引き出しを開けたら良いかがわかっていない状態だと思う。

後者の「この引き出しを開けた方が良い結果が得られがち」というのも一種の知識なので,やはり「思いつかない」原因は「知らない」にたどり着く。

検索する

知らないことはインプットするしかない。

ひと昔前なら図書館に行くとか,もっと前なら村の物知りなお年寄りに聞くとかだろうが,今の時代ならGoogle検索だ。

検索すれば大抵の答えは見つけることができるし,スマホの普及もあって近年ではこの「知らない」→「検索する」のスピード感はとてつもなく速くなっている

それでは極端な話,スマホさえ手元にあれば無理して知識を頭に入れる必要はないのだろうか?

上にも書いたが,やはり知識の豊富さは類推したり検索したりするスピードに関係してくると思っている。

Aを検索するためにはBを知っている必要がある。もしBも知らなかったら,それを検索するためのCも知らなければいけない。

検索する上での「感の良さ」は知識を前提にしているので,やはり知識はある方が有利だと思う。

論文の調べ方がわからないという学生も多い。

あるキーワードに関する一つ目の論文を読んで,論文内で挙げられている参考文献を読む。いくつかそれを続けるうちに,共通のテーマや目的,逆に課題が明らかになっていく(知識がつく)。新たなキーワードについて再度検索する(繰り返し)。

まさに,知識と検索の合わせ技だと言える。

新たな選択肢

Google検索に加えて最近選択肢となってきているのが,ChatGPTに代表される対話型のAIだ。

今まではAIと聞くとなんだか融通の利かない使い難いものという印象だったが,ChatGPTはその点本当にすごい。

チャットは全く自然だし,わかりませんと言われることもほとんどなく,何かしらの解決策を提示してくれる。

今のところの自分の中でヒットした使い方は,以下のようなものだ。

①敬語・英語でのメール作成
あまり知らない方への敬語や英語での文章作成は時に面倒だが,ChatGPTを使えば「〇〇教授に対する~に関するメール文章を英語で作成して」と言えばそれっぽい文面を作成してくれる。いわゆる優等生的な文面だが,こういうものは当たり障りのないことが重要なので,とても使い勝手が良い。

②データ整理の補助
アウトプットはイメージできているが,具板的にどう作業すれば良いかがわからないことがある。これまではGoogle検索で調べていたが,自分の状況に完全にマッチした状況が示される場合が多くない。いくつものサイトを渡り歩く必要があったが,ChatGPTだと条件を細かく指定することでその条件にあった解決策を即座に提示してくれる。

③案出し
キャッチコピーやタイトルなど,案出し役としてChatGPTはとても優秀だ。「〇〇に関するタイトル案を100個考えて」と言うと本当に100個考えてくれる。もちろん盗用の恐れなどがあるので内容は吟味する必要はあるが,考えるきっかけを与えてくれる。

どうすべきか

ChatGPTを使う上で注意しないといけないのが,嘘が混じっている場合があることだ。

もちろんGoogle検索が全て正しい訳ではないが,公式なサイトが出している情報などは正しいわけで,ChatGPTを使う際には本当に正しい情報かどうかについて注意する必要がある。

その点,学ぶこと自体に意味がある学生にとって,ChatGPTは使い方を考えなければならない。

例えば,「○○に関するメリットをあげよ」みたいなレポート課題の場合,ChatGPTはそれっぽい答えを書くだろうが,それが正しいかどうか判断する能力が学生にはない。

東大の副学長も「ChatGPTを使いこなすには,相当の専門的な知識が必要であり,回答を批判的に確認し,適宜修正することが必要」と声明を出しているがその通りだと思う。

そう考えると,ChatGPTは効率的に「知識」を授けてくれるが,その知識が正しいかどうか判断するための「知識」が必要,というところだろうか。

全てをChatGPTで賄うにはまだ早いことを理解した上で,知識をつけるためにGoogle検索とChatGPTという加速装置を使いこなしていくことが重要ではないだろうか。

上記のレポート課題などに対するChatGPTへの対策は正直ないだろう。調べ学習や意見を聞く類の課題は出さないようにするしかないか。

一方,研究指導としては,学生が本当に理解しているかどうかはちょっとした質問をすれば判断できる。

卒論生にはChatGPTを活用してもらいながら,教員としては今までと変わらずに学生とコミュニケーションを取りながら指導していけば問題ないと思う。

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