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マルチ勧誘回想録5: 退会

前回は正式に入会した経緯や、会社Xの製品について書きました。今回は退会の経緯について書きます。

前回の記事でも少し触れましたが、最初に感じた違和感は些細なものでした。

・イベントやセミナーが多くて疲れる
・プライベートな時間が取れない
・製品を使いきれそうにない

この時点ではまだ、ネットワークビジネスで不労所得が得られると信じていました。しかし、サークル活動に日常を圧迫されつつ、報酬を貰うどころか金が出て行く事実からも、そろそろ目を背けていられなくなりました(師匠たちはこれを「未来への投資」と言いますが)。

消費生活センターへ

勧誘者Mに誘われて”師匠”からビジネスを学んでいると話したときも、自宅に大量のダンボールが届いた時も、同居していた家族は冷静でした。
実際には自宅に大量のダンボールが届いた時点で、家族は消費生活センターに相談しに行っていたのです。
ある日、上記の疑問を口にしたら「良い相談員を知っているので、悩みがあるならとにかく一度相談してみてほしい」と消費生活センターの担当者に合わせてくれました。
私をジャッジしたり、マルチを辞めるように説得する代わりに、相談員に私をつなげるタイミングを見計らっていたのでした。

師匠Aや勧誘者Mには「成功したいなら、ビジネスについてあまり人に相談しないほうがいい」と言われていましたが、その時は「成功したい気持ちよりも悩みが大きかったです。家族の後押しもあり、消費生活センターのオフィスに出かけました。

相談員のDさんは、穏やかに話を聞いてくれました。私が不労所得へのこだわりを捨てることができなくても、説得しようとか、認識を正してやろうといったそぶりは見せませんでした。

"ネットワークビジネス"に幻滅

Dさんはある記事のコピーを見せてくれました。それはマルチ商法の消費者被害と法整備への取り組みに関する記事でした。遅ればせながら、そこで初めて「”ネットワークビジネス”=マルチ商法(学校で習ったやつ!)」だと気づきます。Dさんはマルチ商法が抱える問題点を挙げながら、私のネットワークビジネスに対する思い込みを1つずつ丁寧に解いていきました。
マルチ商法のシステムが持続可能でないことを表すたとえ話、この時に聞いたものです。

マルチ商法に幻滅するポイントは、人によって違うと思いますが、自分の場合は以下が非常にこたえました。

・結局は「早く始めたもの勝ち」で、いつかは崩壊するシステムであること
・多額の借金をしたり、友達が居なくなっても、やめられない人がいる事実(アップラインにそれを補償する義務はないこと)
・”成功”したとしても、そうした人達の苦しみから”不労所得”を得ることになる事実

師匠Aに疑問をぶつける

その後、ビジネスを続けることに迷いがあることを勧誘者Mと師匠Aにメールで伝えました。すぐに師匠Aと会うことになりました。
まず初めに「ネットワークビジネスはマルチ商法ですか」と質問したら、テンプレと思しき回答とともにそれを認めました。
以下についても意見を聞いてみましたが、微妙に論点を外されるような答えで、納得のいく答えは得られませんでした。

・ネットワークビジネスがセミナーで聞いた通りの素晴らしいシステムなら、どうして社会問題になっているのか
・マルチ会員の行動に関して、どこが問題視されていると思うか

以前も書いた通り、彼らと議論しようと思っても無駄なのです。
師匠Aの「MLMは人間関係がドライで合理的な海外なら有効。日本だから叩かれる」という言説もこの時に聞きましたが…とりあえず「海外」という主語が大きいですね。

”成功”できなかった会員の行く末についても追及しましたが、そうならないよう(やめさせないよう)に手を尽くすのが、アップラインの役割だそうです。ダウンラインができて収入が得られるようになっても、サークルのイベントや研修の他にも、ダウンラインとの個別ミーティングや指導で忙しい事がわかりました。

当初は「ネットワークビジネスで不労所得を得よう」と勧誘されましたが、実態は「不労」ではない、と理解しました。
正直に言うと、夢・希望にあふれる未来や”不労所得”への未練を手放すのは辛かったですが、沸いてしまった疑問をなかったことにできませんでした。

いろんな方の体験談を読んでいると、辞めないよう圧力をかけられる場合もあるようです。自分の場合、比較的穏便にお別れできたと思います。

速攻でクーリングオフ

週開けの午前中に会社Xのコールセンターに電話して、解約の手続きをしました。手続きはスムーズに進み、コールセンターの担当者に退会を引き留められたり、違う会員プランを勧められるようなことはありませんでした。
製品を指定の宛先に送り返せば、清算完了です。開封済みの製品はクーリングオフの対象外でしたが、それ以外は全額返金されました。

勧誘者Mもついでに退会

私が退会した時点では、勧誘者Mはマルチサークルを続ける気でいるようでした。しかし、Mの実家からは「Mが聞く耳を持ってくれない。退会するようパイナップル担当大臣からも説得してほしい」とSOSが来ていました。

前回書いたとおり、サークル活動で土日は勿論、平日のプライベートな時間もつぶれます。説得するようなことはせずに「これでは交際をつづけられない」と勧誘者Mに訴えたところ、Mもあっさり辞める流れになりました。

詳しく聞いてみると、勧誘者Mは半年間入会していたものの、誰も勧誘できず、成果を出せていないようでした。しかし既に多額の貯金をはたいており、おかしいと思うことがあっても引っ込みがつかなくなったと言ってました(自分で実証できてないことに他人を勧誘するなよと思う)。
ついでに勧誘者Mとも別れていたら良かったのですが、その話は別の機会に。

違和感を感じたら、傷が浅いうちに速やかに退会するのが良いと思います。

”成功”=幸福とは限らない?

辞める少し前に、エリア全体のマルチサークルの集会があったことを思い出しました。
地区のトップの女性と直接お話しする機会がありました。師匠Aや師匠Bよりもアップラインのずっと上にいる人物です。
集会後、勧誘者Mが彼女に私を紹介してくれようとしたのですが、顔の表情が豹変し突然激怒されたのを覚えています。Mが名前・所属・用件を伝えなかったのが原因のようでした。ビジネスマナーを守らなかったMに否があったとしても、普通の反応ではないように感じました。

ネットワークビジネスでトップに行くような人は、お金にも時間にも不自由せず、ハッピーなものだと思っていました。ですがその方の、心に余裕がなさそうな所が気になりました。
たまたまイライラしていただけかもしれませんが、多くの不労所得を得ていても人生から問題が消えるわけではないのだな…と思います。

終わりに

自分がマルチ商法に勧誘され、入会・退会した経緯を数回に分けて書きました(記憶が曖昧なところは、当時の日記から情報をサルベージしてきました)。
家族が適切に対応し、消費生活センターの相談員につなげてくれたおかげで、私はマルチからスムーズに抜けられました。期間内にクーリングオフできたのも幸いでした。

しかし、一人暮らし・独身の人はターゲットになりやすく、周囲にも異変が気づかれにくいと言われています。そのため、被害額も大きい傾向にあるようです。
勿論、中にはダウンラインを形成して”成功”する人もいるでしょう。しかし、収入源をキープするには多大な労力(時間的・金銭的・精神的)を要します。その過程で、周囲の信頼を失うこともあるかもしれません。彼らは助言してくれる家族や友人も"ドリームクラッシャー"として遠ざけます。

後日、消費生活センター相談員のDさんに、お礼の挨拶に行きました。
その時自分が手にしていたノートの表紙には、自分が描いたイラストが載っていたのですが、それを褒めてくださったのを覚えています。
「絵を描くためのスキルを身につけるのも、1つの絵を描き上げるのにも、努力や時間が要るはず。こういう財産は『不労所得』では築けないよね」と言われました。自分の中に残っていた”不労所得"へのかすかな未練は、この一言で完全に消滅しました。

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