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15 中英共同声明と香港基本法を改めてしっかりと確認する(後半)

香港基本法は香港のミニ憲法と言われています。

香港の法体系はこの香港基本法が頂点いあり、その下に条例があります。

注意しなくてならないのは、香港基本法自体は中国の国内法だということです。

それでは香港基本法の抜粋箇所を見ていきます。

なお、和訳はアジア経済研究所 資料 香港特別行政区基本法 に負っています。

香港基本法(関係箇所抜粋)

第3条 

香港特別行政区の行政機関および立法機関は、香港永住民が本法の関係規定に照らして組織する。

(ポイント)

中国が香港に導入しようとしている国家安全法制には香港に中国からの監視機関を設置することが書き込まれると言われています。どのような役割を担うのか定かではありませんが、この監視機関は当然香港永住民が組織したものではありません。


第4条

香港特別行政区は法に依り香港特別行政区の住民およびその他の者の権利および自由を保障する。

(ポイント)

国家安全法制は香港基本法で保障されている自由を奪うものです。


第22条

中央人民政府所属の各部門・・・はいずれも、香港特別行政区が本法に基づき、自ら管理する事務に関与してはならない。

中央の各部門・・・は香港特別行政区に機構を設立する必要がある場合には、香港特別行政区政府の同意を得、かつ中央人民政府の認可を受けなければならない。

中国の各部門が香港特別行政区に設立するすべての機構およびその要員はいずれも、香港特別行政区の法律を遵守しなければならない。

(ポイント)

先にも述べた香港に置かれる監視機関ですが、警察組織のようなものが想定されています。問題はデモ隊と衝突が起こった場合など有事の際にこの組織は香港の法律に従うのか、中国の法律に従うのかという点です。

現在広深港高速鉄道の香港西九龍駅では入境手続きが本駅構内に集約された結果、列車~入境エリアまでは中国側の法律が適用されます。

つまり香港領域内に入ってきた車両の中と駅構内の一部が中国化されています。

ちょうど共産党に批判的な本を扱っていた書店関係者らが中国に拉致された事件の折でしたので、中国が不快に思う人物を容易に中国側へ拉致できるようになることが不安視されました。

国家安全法制によって設置される監視機関の敷地内や職務に中国の法律が適用されるようになれば、香港内の警察機能を中国が掌握することになります。

第23条

香港特別行政区は国家反逆、国家分裂、反乱扇動、中央人民政府転覆および国家機密窃取のいかなる行為も禁止し、外国の政治的組織または団体が香港特別行政区において政治活動を行うことを禁止し、香港特別行政区の政治的組織または団体が外国の政治的組織または団体と関係を樹立することを禁止する法律を自ら制定しなければならない。

(ポイント)

今回問題になっている国家安全法制に関する条文です。これは香港基本法の2つの時限爆弾のうちの一つです。ちなみにもう一つは普通選挙の導入です。国家安全法制は民主派が阻止し、普通選挙は親中派が阻止してきたのがこれまでの香港です。「香港が自ら制定しなければならない」とされているものを無視して中国が制定しようとしているのが現在の問題です。


第27条

香港住民は、言論、報道および出版の自由、結社、集会、行進およびデモンストレーションの自由、ならびに労働組合を組織しこれに参加し、ストライキを行う権利および自由を享有する。

(ポイント)

国家安全法制によりこれらの自由は失われます。中国では人民には原則自由はありません。


第32条

香港住民は信仰の自由を有する。・・・

(ポイント)

中国では信仰の自由を認められていません。代わりに共産党を崇拝する権利が強制的に付与されます。中国は宗教が広まって反政府活動に発展することを恐れています。国家安全法制が導入されれば香港でも信仰の自由が制限される可能性が高いのではないでしょうか。


付属文書3 

香港特別行政区において施行される全国レベルの法律

下記に掲げる全国レベルの法律は、1997年7月1日から香港特別行政区が地元で公布または立法化して施行する。

1 「中華人民共和国の首都、紀年、国歌、国旗に関する決議」

2 「中華人民共和国の国家の祝日に関する決議」

3 「中央人民政府が公布した中華人民共和国国章についての命令」および付属文書:国章の図案、説明、使用方法

4 「中華人民共和国政府の領海に関する声明」

5 「中華人民共和国国籍法」

6 「中華人民共和国外交特権および免責条例」

(ポイント)

まず普段政治や法律に関係することが少ない人でも、この付属文書の項目に国家安全法制を付け足すことに違和感を覚えるのではないでしょうか。

中国はこの付属文書に国家安全法制を追加して香港にも適用しようと考えています。

しかし列記されている他の全国レベルの法律とはその性質が異なりますし、そもそもこれはイギリスから中国に返還される際に摩擦を少なくするために定められたもので、意味合いとして「返還時にここに列記されているもの以外は香港の法律はそのまま継続する」ことを確かめ合ったものです。

「契約事項に定めていない部分があったので自分の有利になるようにした」というものではなく、既に役目を終えて歴史になっている付属文書を引っ張り出してきて解釈を捻じ曲げて使用しているわけですので、歴史に対する挑戦です。

起きていることを理解する

テレビや新聞では「何がどう問題なのか」ということは伝えてくれません。

短い時間で視聴率を稼ぐことが番組制作の目的だからです。

映像や写真で切り取られる衝突の風景と煽るテロップ、米中首脳のヤジ合戦を見ていても真実には近づけません。

香港基本法や中英共同声明を照らして初めて何がどう問題なのか見えてきます。

もっとも、相手が違う論理で動いている国ですので、香港で闘っている人も国際法や国際公約、法システムといった観点でどんなにおかしいと言っても、中国に話が通じないのはわかっています。

それでも人類が築き上げてきた歴史的な資産の上に立って闘い続けることが、香港人の矜持なのです。




今日も香港の状況は刻一刻と変わっています。そんな状況の深層を理解できるような基礎知識を得られる記事を目指しています。皆様からのサポートは執筆の励みになります。どうもありがとうございました