【全公開】三菱商事発スタートアップのバリューの作り方
2021年6月、MCデータプラスでは会社の「VALUES」を新たに策定し、社内外向けに発表しました。
もともと会社の使命として「サービスとデータで、企業とひとを結ぶ」というMISSIONを、長期的に目指すゴールとして「業界のスタンダードをつくり、新たな価値を創出する」というVISIONを掲げながら事業を展開してきたMCデータプラス。
2015年に三菱商事から分社化するかたちで新たなスタートを切り、ここ数年で事業とともに組織自体も急速に拡大してきています。
言わば「第二創業期」として新たな成長ステージへ差し掛かってきている段階。そんな中で改めてメンバーがVISIONを実現するための“道標”になるようなものが必要だと考え、昨年末からVALUESの策定に取り組んできました。
実際に“ver1.0”として策定されたVALUESがこちらです。
VALUESは8つのVALUEから構成されていて、8つ目の「謙虚にコトに向き合う」を土台としてピラミッド構造になるようなイメージをしました。また、VALUESを体現しやすくするために会社として用意する職場環境・文化・制度のベースとなる方針として、POLICIESも一緒に策定しています。
それにしても、なぜこのタイミングでVALUESが必要だったのか。具体的にはどのようなプロセスを経て、VALUESが作られていったのか。その舞台裏を代表取締役社長である飯田さんに語ってもらいました。
なぜこのタイミングでVALUESを策定したのか
第二創業期を迎え、未来の仲間に対してのメッセージが必要
飯田 : 現在事業がすごく成長していて、領域も広がってきている状況の中で、もっと多くの仲間を採用しなければいけない状況にあります。簡単に言うと将来の会社のポテンシャルに対して人が全然足りていないということです。
だからこそ、今まで以上にさまざまな方の力が必要になるのですが、その際に自分たちの組織のあり方や仕事に対する考え方を言語化した“よりどころ”になるものがあったほうが、求心力も高まるのではないか──。そういった考えがVALUESを作るきっかけになりました。
「事業規模が継続的に拡大している」というのは、具体的には2つの側面があります。
1つはこれから新規サービスをどんどん立ち上げていくんですね。MCデータプラスのビジネスはいわゆる業界に特化したバーティカルSaaSが軸になっていて、現在は「グリーンサイト」を核に建設領域で事業を展開しています。
今後の展望としては、まずこのグリーンサイトで得られたノウハウを「別の領域に横展開」していくというアプローチがあります。まさに今、新たな柱としてリテイル領域で事業が立ち上がり始めているんです。
一方で、蓄積されたデータなどを活用すれば「同じ業界の中で事業をさらに深く掘り下げていく」こともできます。収益モデルを重層化・多様化させていくということです。
これを同時並行で進めていこうとすると、あらゆる場面で人材が足りていない。新たなビジネスを立ち上げて推進する事業開発担当者も必要ですし、エンジニアに関してもアプリを開発するメンバーも足りてなければ、サービスの基盤となるインフラやセキュリティ周りを任せられる人も欲しい。当然サービスが立ち上がってくれば営業やカスタマーサクセスの担当者の存在も不可欠です。
では挑戦の機会があるのが新規事業だけかというと、決してそういうわけでもないんですね。これが2つめの側面になるのですが、既存事業の成長スピードも加速しているんです。現在建設クラウド事業の契約企業様は7万8000社を超えています。特に近年は1年で1万社以上増えているような状況です。
つまり、新たな価値を創出するためにも新規サービスをどんどん立ち上げながら、同時に拡大し続けている既存事業の生産性を上げていかなければならない。そのためには、これまでと同じことをやっていてもダメなんです。
そこで昨年から「採用前のめりプロジェクト」を立ち上げ、職場環境や各種人事制度などこれまでの基盤となっていたものをゼロから見直しています。現状でも良い会社だけど、それよりも将来のポテンシャルにワクワクしているんです。ですので、今を自分たちにとっての第二創業期と捉え、今までの文化を一度壊し、作り変えようとしている感覚です。
このような会社の変化がある中で、昨年の末頃から明確に「このままではダメだ」と感じるようになって。もちろん採用活動自体には力を入れていたのですが、現状の延長戦上でやってるだけでは足りないと思うようになりました。
「良い会社です」では上手くいかない。改めて自分たちのVISIONを掲げて、それに紐づく価値観や指針を整理した上で「共感してくれる仲間を求めている」というメッセージを発信していかなければならないと。
成長する組織の中で社員の指針になるもの
飯田 : 一方で社外に向けてメッセージを明確にする目的だけでなく、社内の状況を踏まえてもVALUESの必要性を感じていました。
数年前であれば社員の規模も十数人ほどだったので、誰が何をやっているのかも自然とわかっていた。でも50人規模に拡大してくると、それぞれの顔が見えづらくなってしまうんですよね。
だからこそ、何か新しい制度を作るにしてもVALUESやPOLICIESのように基となる指針が必要なんです。そうじゃないと、なぜこの制度があるのかがみんなに伝わらないじゃないですか。現在の会社の規模が、従来のやり方には耐えられなくなっている段階に差し掛かっているのかなと感じていました。
どのようにVALUES ver1.0が作られていったのか
飯田 : 推進体制としては社長の私が座長を務め、プロジェクトメンバーとして事業部や管理部門から5人の社員と、外部の方にもコンサルタントとして加わっていただきました。そのメンバーを中心に議論を交わしながら、時折全社員にもワークショップに参加してもらい、内容を設計していきました。
具体的には、経営トップの価値観を言語化することから始めています。これまで会社の中でずっと自分が言い続けてきたことがいくつもあったので、まずはそれを棚卸ししました。
この内容を、プロジェクトメンバーたちに構造化してもらうのが次のステップです。もともと、社員ひとりひとりが社会の課題にチャレンジして、それを解決することに喜びを感じて欲しいと思っていたので、1番重要視したのが「市場に向き合い社会の課題を主体的に解決するチーム」であること。ここではチームに求めることと個人に求めることをわけ、棚卸しの内容を整理しながら構造化していきました。
少し整理がついたら、一度他社の事例をいろいろと調べながら自分たちに合いそうな視点も取り入れていって。そこまで進んだ段階で他の社内メンバーを巻き込んだワークショップを開催しました。
一緒に働く仲間に求めることや期待することなどの「大事な価値観」についてだったり、他社の価値観の中で共感できるものや憧れるものだったり。オンラインホワイトボードのMiroを活用しながら社員の考えを網羅的にヒアリングした上で、初めて具体的な文字に落とし込んだんです。
VALUESは会社のMISSIONやVISIONとも結びついている必要があるので、そういった点も考慮しながら検討を進めていったのですが、実は初期の原案ではVALUESは4つだったんですよ。
でも、今社内にいるメンバーに対してだけでなく、MCデータプラスにこれから応募してきてくれる未来の仲間にとってもVALUESは伝わりやすいものでなければならない。「やっぱりこの言葉に変えよう」「このキーワードを入れよう」と議論を繰り返し、最終的に現在の8つに定まりました。
また今回のタイミングでVALUESだけでなく、POLICIESも一緒に策定しています。
VALUESが社員に期待するものとするならば、POLICIESは社員のみんなが活躍しやすいように会社として用意する職場環境・文化・制度のベースとなる方針となります。そのためVALUESはみんなの意見を大事にしながら策定した一方で、POLICIESは私が作った原案を軸にしながらメンバーと相談し、決めていきました。
8つのVALUESにこめた想い
簡単に各VALUEを解説
飯田 : VALUES ver1.0は、8つのVALUEから構成されています。
先ほどもお話した通り、MCデータプラスでは、建設はもちろん、いろいろな業界の発展に貢献していきたいと考えています。そのためには個の力を強めながら、なるべく物事を大局的に、広い視野で見ていく必要がある。そんな考えから「大局観でコトに向き合う」を1番目に入れました。
(その過程で)短期的に出戻ったり失敗したりしてもいいから、とにかく本質にフォーカスして、2〜3年後のゴールに向かって進んでいこうというのが2番目の「本質にフォーカスしてやり抜く」ですね。
私は短期的な目標より中長期的な目標の方が失敗しにくいと思っています。だって、短期的には出戻ったり踊り場があっても時間をかけてゴールに向かっていけばいいんですから。
3番目の「自ら仕掛け、チームをリードする」はとても重要で、基本的に業界全体に向き合って業界のスタンダードをつくるなんて個ではできないんです。当然いろいろな出自の方、価値観の方と一緒にチームを組んで、役割分担をしながらやっていくことになります。
また「自ら仕掛け」というのもポイント。我々は主従の“従”ではないから、自分たち自身が仕掛けなきゃいけない。
自ら仕掛けると、失敗した時に痛みを感じて成長のヒントがもらえるじゃないですか。でも“従”の人って痛みを感じないんですよね。成長痛を感じながらも中長期的なゴールに向かって、本質にフォーカスしながら進んでいこう、ということです。
4番目の「DO FAST,LEARN FAST」はとにかく早くやって、早く学ぶ。特に失敗から「このままいくと駄目だぞ」ということを学んでいく。現状の延長線上で上手くいくとは限らないので、大局観で全体を見て、仮説検証を繰り返す。5番目の「本質を磨き続ける」は、まさにそのPDCAを主体的に回し続けるということです。
6番目の「『たくみ』から『しくみ』へ」は、生産性向上に関するVALUEになります。匠技でなんとなく処理していることを、再現性のある仕組みにする。つまりサステナブルなオペレーションができるように変えていくことを大事にしています。
7番目の「やめることも価値がある」は「どんどん新しいことをやっていくけれど、場合によってはやめてもいいんだよ」という価値観を言葉にしたものです。たとえ赤字でも現場のメンバーが将来の夢を持てればいいんです。
でも、将来が見えない事業はモチベ―ションの観点でも会社にとっても意味がないので、その判断を早くしようと。それが社員のためでもあり、会社のため、社会のためでもあると考えています。
そして最後の「謙虚にコトに向き合う」。我々はシステム開発会社ではないので、言われたものを作ればいいわけではなく、お客様にとっての「価値」や「コト」を考えないと仕事にならないんです。
最終的にITのプロダクトを作ってはいますが、それ自体が主ではありません。それはあくまで手段であって、お客様がどんなことをしている人たちなのか、その人たちが何に困っていて、私たちはそれに対して何ができるかを常に大事にしたい。
これはお客様に対してだけでなく、チームに対しても同じです。得意なことも、価値観も異なるさまざまなメンバーがいる。そんな中でお互いをリスペクトしながら、協力して進んでいこうということですね。
“モノサシ”として使えるように、OK行動とNG行動を一緒に記載
今回VALUESをまとめる際に大事にしたのが、あくまで策定することではなく、社内に浸透させること。そのために各VALUEに対して「DO(OK行動)」と「DON’T(NG行動)」を明記しています。
単にVALUEを掲げるだけでは、その受け取り方が“本人都合”になってしまう。たとえば「大局観でコトに向き合う」というVALUEがありますが、「大局観を持っていたかどうかの基準」は人それぞれで違うかもしれない。
個人的には、上司との1on1などで自分の行動を振り返る際にVALUESが“モノサシ”のような存在として機能して欲しいという思いがあります。だからこそ、現場レベルに落とし込むためにもOK行動とNG行動をセットで明文化することにこだわりました。
後日談〜VALUESによって生まれた変化〜
6月にVALUESを公開してから約半年。少しずつですが、VALUESを公開したことで社内にも変化が生まれ始めています。この記事の最後に、後日談としてVALUES策定後の社内のエピソードを飯田さんと中川佳さん(人事チームリーダー)に聞きました。
飯田 : プロジェクトメンバーとしてVALUESの策定に深く関わってくれた幹部社員たちを中心に、日々の1on1などの際にもVALUESに沿って話をしてくれているんですね。だからこそ社内に少しずつ浸透していっているのだと思いますし、それは本当に嬉しかった。だって社長1人がワーワー言っても単なるスローガンになってしまい浸透しないですから。
中川佳 : 飯田さんの話にもあるように、フィードバックの部分では変化が生まれてきているように感じます。1on1の中でも「VALUESと照らし合わせると、この部分を改善できる余地がありそうだよね」などの会話がなされていることを、よく耳にするようになりました。
また、社員から「このVALUEはどうやってできたんですか?」と興味を示されることもあって。その背景を伝えると「そういえば飯田さんは以前からそんな話をよくしてましたよね」と、社員たちの中でも話がつながるみたいなんです。
そうしたVALUESによる変化が目に見えるかたちで現れたのが、先日実施した組織風土調査でした。人事側で「普段VALUESを意識した行動を何かしていますか」と任意の質問を加えたところ、「僕はこれを意識しています」「まだ全然できていないけれど、こうありたいと考えています」など40件近くの回答があったんです。
これは1on1や日々の会話の中でVALUESの話をしてくれるメンバーが増えたからこその結果だと実感しています。
飯田 : 社外に対するメッセージとしても、業務改善をすごくやりたいという方が、VALUESで言うところの「『たくみ』から『しくみ』へ」に興味を持って来てくれたり。そのような例も少しずつ出てきているんです。
VALUESもしっかり社内で運用していくことで会社の血となって、肉となっていくのかなと感じています。言語化するのに約半年ほどの時間をかけましたが、作った価値はありました。でも、これで完成形とは思っていません。会社はみんなが「やりたいこと」を実現して成長する場所だし、みんなの成長が会社の成長につながると思っています。これからも、こういうことを大事にしながらアップデートや運用を続けていきます。
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