お前の全力で来い。叩き潰す

最近、隙あらば実家に立ち寄っては父や母と対局を繰り返している。

感覚的には既に父母は抜いてると感じて久しい。父母もそれを認めるまでには何度かはまともに指し、中盤くらいまで完全に研究通りに抑え込む対局が多かった。(アマチュア棋士は技術職。プロというお手本をどれだけ再現できるか。対してプロ棋士は研究職、基本ができて当然、常に最先端を開発し続けなければプロでは活躍できない。)

以前までの私の家族内での立ち位置は「感覚で指せる中盤が大好き」で序盤は普通、終盤が苦手という「ライダーやウルトラマンのやられ怪獣」の立ち位置であった。特殊能力で盛り上げるのは中盤まで、終盤に詰めの甘さで逆転される「盛り上げ役」だった。

対して現在の立ち位置は、序盤に関して家族の中では一番詳しくなった(定跡書の研究が大きい)。終盤の甘さも幾分強化されている(苦手な詰将棋をそれなりにがんばった)。今一番苦手なのが中盤だと感じている(次の一手問題を必死に解いている)。

父母が不利を悟ってからの私への対処に個性が出ていて実に楽しい。

父は普段なら用いない古い戦法を引っ張り出してきて、私の研究を外しペースを乱すことを基本方針とし始めた。事実、私もわけがわからない局面で一生懸命考えざるをえない。序盤は「暗記」していて自分であまり考えなくなっていたので、その方針はある程度有効だったりする。ただ父も不慣れな戦法なので終盤で私が逆転するケースも増えている。終盤がダメダメだった私からすれば隔世の感がある。

一方で母はあくまでも「お前の最善でこい。叩き潰す」という腕力勝負を変えようとしない。さすが「我が家で最も男らしい」だけはある。研究範囲を逸脱するものではないので母相手にはほとんど負けない。序盤で一定上の優位を築き、中盤をミスなく保てば終盤まで逃げ切れる。

格上相手に「自分のスタイルを崩してでも相手のペースを乱させるというニンジャスタイル」はもっぱら私が用いていたのだが、父にやられてみると確かに厄介だと痛感している。

対して母のように「相手のベストを真っ向勝負で粉砕しようというサムライスタイル」はこちらも気持ちよくのびのびと勝たせていただいている。まあ母は「観客の多い燃える大一番」でなければ戦闘力が半減するので、家族将棋ではちょいとゆるい感じはあるわけだが。

今の感じなら、客観的に考えればとっくに長兄には一発入るはずなんだが。「唯一の希望が実は絶望だった」「全部兄の手のひらで踊らされてた」というトラウマがいまだにある。

CIA(内部監査人)や行政書士資格から「ルールについて」、将棋の趣味から「格上との戦い方」に特化して思考を掘り下げている人間です。